「塔」2019年9月号(月詠)

傾いてゐたのはこちらだつたのか扉、とほれなくてもとびら

それつきりの人あまたゐて感情は草の湿りのごとく残りぬ

飴玉を転がすやうに歌ふから歌詞がかなしくても気づかない

タスクひとつ塗りのこしたる週末の手帳にほそき銀のペン挿す

以前より薄くなりたるハムカツの衣ばかりが皿をこぼれる

呻きから寝息へ変はり裏道に室外機しんと並んでゐたり

長雨は地下のホームに流れつき話せばわかる相手だつたが

(p.144)

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