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月詠log(2017.04〜)

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「塔」誌上に掲載された月詠のログです。
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2018年8月の記事一覧

「塔」2018年7月号(月詠)

マフラーを道の途中に外すときわれはひかりの春をともなふ

インパクトに欠ける食事をくりかへすバウムクーヘン指先に崩ゆ

泣いていい時に泣けない 午後の陽はレモンケーキのうへに傾く

見上げるとたしかに桜だつたのに世界は既にずぶ濡れである

簡単につらいつて言ふそれ以外言葉が思ひ付かないつらい

生きてゐてほしい人からゐなくなり桜は夜にふくらみを増す

(p.200)

「塔」2018年5月号(月詠)

池の面にみづのひかりを撓めつつ鳥よこの世の冬を率ゐよ

箔押しの表紙のごとくわが視野にわづかに開く白梅の花

人間は粗大ゴミより進化して生まれしといふ新説あはれ

今更のやうに付箋を散らかして借りつぱなしの本めくりをり

いつ来てもここは行列 負けるつて分かつてゐても絡んでしまふ

(p.166)