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『枕草子』朗詠 第六段「翁丸なる犬の涙」①翁丸打ち調じて

殿上にて飼われている猫は、「御猫」と尊ばれ、五位の位を授けられ、お姫様のように乳母(世話係)をつけられています。
「命婦のおとど」と名付けられた猫は、たいそう可愛かったので、一条天皇に大切にされていました。
ある時、その猫が、端近の日当たりのあるところで寝ていたのを、乳母が「中にお入りなさいませ」と呼んでも聞かないので、驚かそうと、御所内で飼われていた「翁丸」という名の犬をけしかけます。
おびえた猫が、御簾のうち、食膳の間におわします主上のもとに逃げ込み、たいそう驚かれた主上は、蔵人たちに、
「翁丸を打ちこらしめ、追放せよ、今すぐに!」
とお命じになり、猫の乳母も罰して交替させました。
犬といえども、帝の勅勘による処罰。
可哀想なのは、翁丸です。
清少納言はじめ御所の女房たちにも可愛がられ、桃の節句の際には桃や桜で飾られたりして華々しく過ごしていたものを、こんな目に遭おうとは。
翁丸が追放されて寂しく感じていた、それから三〜四日後、
どこかで犬がキャンキャンとひどく啼く声が聞こえ、なにごとかと様子を伺うと、清掃人が走ってきて、
「蔵人が、犬を二人がかりで打擲しています。死んでしまう。追放されたのに戻ってきたとして懲らしめているようです」
と告げます。
可哀想に翁丸、心配だわ……


冒頭の一文を表題にすると、猫の話かと思ってしまうので、変えましたが、
主題は、翁丸という犬の受難の話です。
御所を警護する意味もあって飼われている大型犬ではないかと想像しますが、常は愛嬌があって、中宮をはじめ、みなに可愛がられていた犬なのでしょう。
なのに……忠犬・翁丸は、猫の乳母にけしかけられて、他愛なく、猫をおどかしただけなのに、
帝のお叱りにより、罪人のように罰せられ、追い立てられてしまいます。

この段は、犬好き動物好きでなくとも、痛々しくて、可哀想な話です。

ちなみに、清少納言は、どちらかといえば犬派なのかしら。

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