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ロックダウン下の蝶ネクタイ

ロックダウンになり、仕事がなくなった。
正確に言うと、休職扱いになっているので失業ではないし、賃金はある程度保障されているので、食いつないでいくことはできる。

ただ、向こう三か月間は仕事をする必要なし、と言い渡されてしまった。

さて、なにしよう。

自己啓発としては、本を読む、オンライントレーニングをする、ウェビナーに参加する…
これは今のところちゃんとできている。以前途中で断念していた小難しい本をじっくり読み直せたのは良かった。

家にいる時間が多くなるから、少しでも住みやすくなるように部屋の掃除、断捨離、自炊能力向上…
確かに家は前よりきれいになっているし、料理の腕もそれなりに上がった。(教訓:大抵のことは時間をかけて繰り返せば上手くなる)

身体がなまらないように、ランニングや筋トレ…
時間が余っているので質、量ともに向上。それにしても、外を走るのはオッケーだったのは助かった。

どれも有意義だけれども、何かありきたり。もうちょっと面白いことはできないのか?

そんな時、あるウェビナーのプレゼンターが、蝶ネクタイ(ボウタイ)を締めていた。

ボウタイ…カッコイイじゃないの!

私はクラシック音楽が大好きで、あそこでは(最近はそうでもないけど)皆さん黒か白のボウタイをしていらっしゃる。

そのなかでも、もうお亡くなりになったけど指揮者の朝比奈隆さんの大ファンで、御大がボウタイについて、「これは力士がまわしを締めるようなもの」とか、「最近の若い人はボウタイを自分で結べないな」とか言っていたという伝承を知り、ああ、ボウタイが結べるダンディなオトナになりたい、とは思っていた。

そうして、就職したホテルの制服は、現にボウタイ着用だったのだが、これはクリップオンのもので、見た目は好きだったが実際に結ぶ方法は知らずじまい。

さらに年月を経てそれなりのオトナになり、たま~に、タキシード着用の正装パーティーに出るような機会も出てきた。でも面倒なので、無地で黒とか濃紺のいわゆるネクタイをしたり、クリップオンのボウタイをしてお茶を濁していた。

でも、やっぱり自分でボウタイ締められたらかっこいいよね。

そして、このボウタイ問題は、私の仕事にも関わってくるのだ。

ホテルのコンシェルジュをやっていると、たまに披露宴や、正装パーティーに出るお客さんから、

「ねー、ボウタイどうやって結ぶの?」

と聞かれることがある。なんで結び方知らんのにそんなん持って来るんだ!と言いたくなるが、いやホント、なぜ?謎である。

ともあれ、「いやぁ、自分も知らないんで…」と言うと、まあ有難いことにこちらのお客さんは逆切れすることはないものの、

「あ~あ、コンシェルジュたるもの、これくらいは知ってないとなあ…」と、ちょっと情けなくなった。

そのようなトラウマ(っていうほどでもないけど)があったので、では、この機会にマスターしてやろう!となったのである。

はて、でもボウタイ、どこで買えるんだろ。

もちろん、大きいデパートに行けば売ってるだろうが、ロックダウン中なので開いている店はほとんどない。

でも、さすが2020年の世の中なので、ぐーぐるさんの助けを借りればちゃんとオーストラリアの会社が見つかり、注文。

主に日本にいる人が読んでいるであろうnoteにオーストラリアのオンラインショップのサイトを載せても意味ないかもしれないが、まあカッコいいウェブサイトなので見ても損はないかも…

ちゃんと届いた。しかも、重要書類が入っているような封筒で届けられ、やっぱりパッケージングがいいと期待も高まる。

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さて、結び方…実は以前も図解で書かれていたのを参照したのだが、わけわからん!やはり動画が一番わかりやすい。

私はこれを見て習得した。英語だけど、分かりやすかったと思うな。

さて、動画と首っ引きで鏡の前でトライしたが、これがかなり大変。

初めての手や指のムーブメントが必要とされるので、手首の普段使わない筋肉がつりそうになる。そして、鏡の前なので右左がどちらになるのか混乱し、あわててタイを引っ張ったりすると、首まで絞まって来て、こりゃあぶない。ええ、私、不器用なんです。

手をひねり、首をねじり、動画を見直して悪戦苦闘すること20分ほど、何とか結べるようになった!

ただ、結べはしたものの、きれいな蝶のようにまとめるのはまだちょっと。さらなる習練が必要とされるであろう。

でも、自分で言うのもなんだが、カッコイイぞ!いや、あわてて付け加えるが、着ている人物がカッコイイのではなく、ボウタイが、ということ。

最近は、おしゃれアイテムとしてボウタイをしている人をぽつぽつ見かけるようになったが、それでもまだまだ少ない。なので、何かちょっとした会食、クラシックコンサート、はたまた気張ったデート、といった機会にボウタイをして登場したら、注目の的…とまではいかないかもしれないが、「あれ~、カッコイイじゃん?」とか言われる確率は高いだろうし、しかもそこで、「いやあ、これ、自分で結ぶんだよ…ほら」なんて言えたら素敵じゃない?

ただ、現在直面している最大の問題は、ボウタイを締めてお出かけする機会が存在しない、ということだ。

会社は休職中だし、レストランも閉まってる。オペラやオーケストラもやってない。食料品の買い出しに行くのにボウタイを締めるのは、コロナでアタマがいかれたか、と思われそうだし、ボウタイを冒涜しているような気がする。

しかし、日はまた昇る。社会がある程度元に戻り、お出かけをする機会があった時は、何はともあれこのボウタイを締めて出かけよう。

それまでは、頑張って耐えるのみだ。

ボウタイのために!!

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