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冬のシドニーで、シベリウスの第五交響曲を聴いた

先日、シドニー交響楽団の演奏会で素晴らしいシベリウスの第五交響曲を聞いたので、書き留めておきたい。

プログラムは次のように、全部フィンランドの作曲家。

  • Rautavaara: Concerto for Birds and Orchestra

  • Saariaho: Concerto for harp and orchestra

  • Sibelius: Symphony No.5

指揮者は、ウクライナ産まれのフィンランド人指揮者、Dalia Stasevska である。

この公演、今年のスケジュールが発表された時から注目していた。

シベリウスの作品が個人的に大好きで、彼の7つの交響曲はどれも好きだけど、5番が個人的に一番好きかもしれない。しかもめったにライブで演奏されないので、これを逃すわけにはいかない。

即座にチケットを買っても良かったのだが、幸い(というか)、そんなに一般受けのする曲目でもないので、TodayTixというディスカウントチケットを扱うサイトをまめにチェックすることにした。

このサイト、オーケストラだけではなく、オペラやミュージカルのチケットも買えるので、本当にオススメです。
予想通り、公演日の一週間ほど前に割引チケットが売り出され、とてもいい席を半額以下の値段で買うことが出来た。

さて、公演日の7月5日は、シドニーでは冬真っ盛り。コートを着込んでオペラハウスに向かった。まあでも、シベリウスを聞くならやはり冬だよなあ。

オペラハウスの最寄り駅は、サーキュラーキー。プラットフォームからの眺めは、控えめに言っても最高だ。

ジン&トニックを飲みながらプログラムをペラペラ…。

開演前のベルが鳴ったので、着席。
今回の座席は2階席最前列のほぼど真ん中。ディスカウント席は、やはりホールの横や後ろの方が多いのだが、この席が一つだけ売れ残っていたので迷わず買った(ソロでコンサートに行く人はあまりいないもんなあ…)。普段の僕の予算では絶対買えない席!

オーケストラのチューニングが終わり、指揮者が登場。女性の指揮者で、白地に鳥の羽のような模様が入ったロングコートが颯爽としている。最近は女性の指揮者も増えてきて、もうあまり違和感を感じなくなってきたのはいいことだと思う。

最初の曲は、録音された鳥の音を交えてのもので、まあ現代音楽なんだけど、自然の情景を彷彿とさせる曲で、しみじみといい曲だった。

オーストラリアも種類は違うとはいえ鳥がとても多い国で、公園などをランニングしていると鳥の声をたくさん聞くので、なにか親近感も感じた。

2曲目は、ハープ協奏曲ということで、ソリストがめちゃくちゃ長身のイケメンでびっくりした。曲自体は、「うーん現代音楽だなあ…」という感じでちょっと集中できなかったが、ハーピストの技量を堪能できた。どちらかというと、アンコールピースがすごかった。ハープでこんなに幅広い表現ができるんだ…。

さて、休憩をはさんで待望のシベリウス!

始まる前に指揮者がマイクを取り、今回のプログラムおよびシベリウスの5番について解説をした。
こちらは「早く聞きたいよ~」という気持ちもあるので、トークがちょっと長いかな…とも思ったが、指揮者の思い入れを感じることができたので、それはそれでよし。

そして、いよいよホルンのハーモニーから曲が始まる。ああ、なんて美しい音楽なんだろう!

遅めのスタートで、じっくり行くのかなと思うが段々盛り上げる。中間部のクライマックスは自然だけどグーッと来るものがあった。

そして、楽章の終結部はじわじわと盛り上げていき、熱量がすごく、汗握るようなエンディング!

思わず歓声が少しあがり、拍手も出た。個人的には楽章ごとの拍手って大嫌いなのだが、この時は僕も思わず拍手をしてしまいそうなくらいの熱演だった。

え、この指揮者、もしかするとすご腕??

二楽章は、テンポを動かし気味で、結構あれこれやってるが説得力があるなあ…と感心した。とても可憐な演奏。

そして最終の第3楽章は、速めのテンポでグイグイとドライブするが、不自然さはない。

曲はうねりながら進んでゆき、テンポを落として終結部に。

じわじわとエンディングに向けて盛り上がっていき、最後の六連打が!

それぞれ違った残響がホールに響く。静寂もこの交響曲のうちである。

最後の2弾をバン、バンと勢いを持たせて終えると、即座に熱狂的な拍手が起こり、スタンディングオベーションをする観客も多かった。

いやはや、この曲でこんなに盛り上がるとは!

いやあ、本当にいい演奏で、曲が終わった時の高揚感と言ったらなかった。

それにしても、シベリウスの音楽は、僕が大好きなもう一人の作曲家であるブルックナーに似ているなあ、とあらためて思った。
両者の音楽、いい意味で「人間味」や、「人情」、といったものがないのである。例えば、チャイコフスキーの音楽などはその対極というか、とても人間臭いよね。それはそれで好きだけど。

浮世離れしているというか、そこには自然、または人間を超越したもの(神、といってもいいのかもしれない)しか聞こえない。

ああ、今宵も素晴らしい音楽を聴けたなあ…と思いつつ、浮世に戻っていく筆者であった。