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日本全都道府県に行ってきた(走って、海峡を、渡る!)

2022年9月から12月にかけて、日本を旅していました。最初の目標は、「日本最北端の駅である稚内駅と、最南端の駅である西大山駅の両方に行こう!」というものでしたが、途中から、「アレ?もしかしたら全都道府県を通れるかも…」という野望(?)が頭をもたげて来て…はてさて、それは達成できたのか?


これまでの流れはこのマガジンからどうぞ。

12月1日

ところで、あなたは歩いて海峡を渡ったことがあるだろうか?

「そんなの無理じゃん!」というのが一般的な人類の回答だろう。

イエス・キリストは湖の上を歩かれたと聖書には書かれているが、その真偽はさておき、忍者だってまあ、無理だろう。奇跡でも起きない限り。

ところが、それができてしまう場所が日本にあるんですね。しかも、特別な訓練や神がかりといったものも必要なく、普通に歩ける人ならば誰でもできてしまう、というやたらハードルの低い「奇跡」が。

やたらともったいぶってしまったが、実際はなんのこともない。

本州と九州を結ぶ関門海峡には、トンネルや橋がかかっていて、毎日たくさんの人が、新幹線や車でこの狭い海峡を渡っている。

その一つ、国道2号線の一部である関門トンネルには「歩道」が併設されていて、そこを歩けば、自分の足を使って関門海峡を渡ることが可能なのである。

なーんだ!というブーイングが聞こえてきそうだが、僕が最初に書いた「海峡を歩いて渡る」というのは、間違っていないですよね?

僕はこの人道トンネルのことを、まだオーストラリアにいた時に見ていた某交通系YouTuberの動画から知った。

43分の辺りからですが、ここでその存在を知り、こんなオモロイ経験、やらずに日本を離れる訳にはいかんだろう、と思い、To Do Listに含めたのだった。

前回の記事で、門司港に泊まった理由はレトロ建築が好きで…とかなんとかカッコつけたことを書いていたが、これをやるため、という訳の分からん理由も実はあったのだ。

そうこうしているうちに、もう一つの下らない考えが浮かんできた。

「ここを、走って渡ったらもっとおもしろいんじゃね?」

僕はランナーである。今回の日本あちこち旅行でも、スキをみてはランニングをしていた(フルマラソン大会に参加したので、やらざるを得ないという切実な理由もあったけど)。

この記念すべき海峡横断も、走ってしまえ!となるのは、ランオタ(ランニングオタク)としては当然の帰結。

ただ、この日はお昼すぎには広島に着かないといけない予定になっていたので、朝の早いうちにちゃちゃっとやってしまう必要があった。

幸い寄る年波のせいで、朝の目覚めは早いから問題なし。朝6時に起床し、ランニングウェアに着替え、ホテルを出る。

さすがに12月に月も変わったし、海に近いから風も吹いていて肌寒い。

トンネル入口は、和布刈公園という、門司港の先っぽにある半島状になったエリアにあるので、ホテルからはちょっと距離があるが、ウォームアップ代わりでまあいいや。

誰もいない門司港をひた走る。

町を抜け、公園に入ったので、海沿いの遊歩道を走りながらトンネルの入口を探す。頭上には、関門海峡をまたぐ橋もあり、ライトアップがなかなか良い雰囲気。

お、あったぞあったぞ、真っ暗な中に浮かび上がる看板と、四角いコンクリづくりの無愛想な建物が。

いやあ、ついに来てしまったなあ…とニヤつきながら、大きな業務用のようなエレベーターに乗り、ずんずんと下に降りる。なんでも地下60メートルほどの深さということだ。

エレベーターの扉が開くと、そこは少し広いロビーのようになっていて、このトンネルについての案内板があった。

そしてずっと先に伸びる、通路。これが、噂の海底トンネルか!

見た目は、都会によくある地下歩道となんら変わりはないのだけど、この「下関」という表示。く~、たまらんぜ。

よっしゃいくぞ~!と走り出す。あ、右側通行なんだね。

ただ、マスクを着けてるのでさすがに息がしにくい。

普段は、マスクを着て走るのなんて愚の骨頂!と思っているので着けていなかったが、狭くて換気の悪いトンネル内だし、他にも朝のウォーキングを楽しんでいる地元の人(しかもほぼご老人)がいるので、僕自身はどうでもいいとしても、ちゃんと配慮しないとマズいよね。

このランニングはあくまでもシャレというか、とりあえず走ったよ、という名目なので、そんなにしゃかりきに走る必要もないのでいいんだけど。

トンネルは、やはり海底というのを意識してか、青を基調とした色で塗られていて、ところどころに魚の絵があったり、トンネルについての解説パネルがあったりした。

このトンネルの全長は780メートルと、走るにしてはかなり短い距離だけど、ひたすら真っすぐだし、周りの景色というのもないので、実際より長く感じる。

トンネルは、真ん中に向けて少しだが下り坂になっていて、しばらくすると路面に県境を示す表示が書かれているのが見えてきた。

ここが、九州と本州の境か!

もちろん地下(というか海の下)なので外が見えないから、実感はほぼゼロだけど、この表示があるせいで、徒歩で、海で隔てられているはずの県境をまたぐ、というユニークな体験をした証明になった。

しばらくこの線を挟んで反復横とびをやったり、境界線の真上に自分の足を置いてみたりと、皆がやりがちなことをやってみる。

おっとそろそろ下関に行かねば。ゆるい上り坂をしばらく走ると、門司側と同じようなロビーに着き、同じような施設のエレベーターに乗る。

両サイドの作りはかなり似ているので、本当に海峡を渡ったのか疑わしく思ってしまうが、地上に出ると…やはり本当に本州側にいるわ(当たり前)。

外に出て対岸の門司港の明かりを見ると、やれやれ本当に関門海峡を渡ったんだなあ…と妙な達成感を感じてしまった。

周りの案内板を見ると、このあたりは源平合戦で有名な壇ノ浦とのことだった。ああそうなんだ、こんな狭い海峡で戦ったんだなあ。

日中ならばこのあたりの史跡巡りでもしたかったのだが、こんなに真っ暗では何も出来ないのでまたトンネルに戻り帰途につく。

証拠写真も怠りなく撮り、これでミッション完了!意気揚々とホテルに戻ったのである。

GPSウォッチでのラン記録もついでに貼っておこう。こういうのも、いい思い出になるんだよなあ…。

僕が考えた限りでは、海に隔たれた県境を歩いて渡れる場所って日本ではここだけだと思うので、こういうちょっと変わった経験をしてみたい、という人にはぜひおすすめしたいスポットです。

(つづく)