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介護は突然に

 家族の介護というのは、ある日突然始まることが多いのではないだろうか。我が家は、2021年9月21日に父が洗面台で排尿をしているのを目撃した瞬間から始まった。最初は怒涛の日々だった。どこに何を相談するのか。幸い、私は「地域包括支援センター」の存在を知っていたので、ケアプラザを訪ね、包括の人に今後のことを相談することが出来た。
 突然始まった父の介護、ちょっとした困りごとはいろいろとあった。普段の生活で改善しておけば、困らなかったなと思うことも多かった。この最初の段階でのちょっとした困りごとについて介護生活が落ち着いてきたらゆっくり書こうと思っていた。
 ところが父の認知症はまるで時限爆弾があるかのように、段差の大きい階段を踏み外していくように、どんどん進んでいった。翌年の夏頃には家の中の歩行がやっと、2年後の春からは寝たきりで全介助となった。振り返って書いている余裕はなかった。父が亡くなり、いろいろな手続きも終わったので、誰かの何かの参考になればと、そのちょっとした困りごとについて箇条書きで書いていこうと思う。

① 相談先…地域包括センターに相談にいく
 先にも書いたが私は地域包括支援センターにまず相談に行った。「地域包括支援センター」を知らない方もいると思う。ここは、「専門知識を持った職員が、高齢者が住み慣れた地域で生活できるように介護サービスや介護予防サービス、保健福祉サービス、日常生活支援などの相談に応じており、介護保険の申請窓口も担っています。」とネットで検索したらあった。
横浜市では学区に一つのケアプラザがあり、そこに地域包括支援センターが設置されている。お住いの地域によっていろいろと違うので、近くの地域包括支援センターがどこか確認しておくのがよいと思う。

② お薬手帳・保険証・介護保険証…家族が分かる場所に置いておく
 父がおかしくなって、地域包括支援センターやかかりつけ医に相談して、ほんのちょっと落ち着いたときに「お父さん、薬飲んでいないよね…」と気が付いた。一体どの薬を飲んでいるのか分からなかった。父は空いたガムの容器に薬を入れていたが、どのタイミングで何錠飲むのかも分からなかった。
 お薬手帳を見れば分かるが、そのお薬手帳さえはどこにしまってあるのかさえも分からなかった。母がやっとお薬手帳を見つけたが、ガムの容器に入っているのは一部の様だった。かかりつけ医にまた行き、事情を話して、どの薬は必ず飲まないといけないのかなど確認した。
 お薬手帳・保険証・介護保険証などは場所を決め、他の家族が分かりやすい場所に保管しておくのが良い。出来れば、家族みんなの分が同じ場所にあると更に良いと思う。医者や調剤薬局で貰った薬は白い袋のまま保存しておく。その方が飲み方やいつ貰ったものなのか他の家族も分かりやすい。

③ 経過報告レポート…作っておくと何かと便利
 地域包括支援センターに相談に行った際に、「かかりつけ医に相談する時に簡単なものでいいので経過レポートのようなものを持っていくといいです。」と言われた。最初は本当に簡単なものだったが、父の様子を追記、過去の既往歴を追記していった。これは結果的にとても役立った。
形式としては、
父の氏名(フリガナ)・生年月日・年齢・罹患している病気・介護度
配偶者の氏名(フリガナ)・生年月日・年齢
子の氏名(フリガナ)・生年月日・年齢

その後は時系列で年月日毎に父の年齢と既往歴や父の様子を記載していった。過去の既往歴は月日まではなかなか記憶していないかと思うので年だけでも良い。年は西暦と和暦を記載すると分かりやすい。私は年月日、父の年齢、天気などを記載して、その後に内容を書いていった。
 その他に飲んでいる薬の一覧も作っておいた。かかりつけ医への説明、介護度の認定調査の際、検査をする病院など様々な所でこの資料は役だった。記憶は曖昧なので一回整理をして書面にしてまとめておくのはいいと思う。これは家族全員分あると更にいいと思う。家族の既往歴などすぐには説明出来ないものだ。さらに親族の既往歴が分かるものもあるといいかもしれない。親族にどういった病気にかかったことがある人がいるか病院に入院する際に聞かれることがある。これは簡単な家系図と共に書いておくと関係性が分かるかと思う。

④ 車・バイク・自転車…すぐに運転は止めさせるべし
 高齢者の運転による事故は度々テレビでも大きなニュースになっている。我が家の父も車やバイクを運転していた。どこかに車をこすってしまったり、後ろをぶつけたりといったことは何回もあったようだ。車を処分する際に指摘されて分かった。母と私はもうかなり前から父の運転する車には乗っていなかったので知らなかった。大きな事故を起こしてもおかしくはない状況だったのかも知れないと思うとゾッとした。
 認知症になる前から免許返納については何回も言っていたが、父は「自分はまだ大丈夫。事故を起こすのは下手なやつだ。」と平行線だった。なかなか免許返納には納得してくれないケースが多いかと思うが諦めずに説得を続けて欲しい。車やバイクと合わせて、自転車も事故につながりかねないのでやめさせることを勧めたい。

⑤ 身分証明書・印鑑・実印・印鑑カード…いざという時に分かるようにしておく
 父の認知症が発覚して、一番先に困ったのが預金口座だ。公共料金などの引き落としは父の口座からしていた。父の年金は別の口座に入金されていた。つまり、そのままにして置いたら残高不足で引き落としが出来なくなる。預金を引き出そうにも暗証番号は知らない。私の預金から移すかなどと考えていた。父の様子を見ながら母が上手く聞き出してくれたので、事なきを得た。印鑑証明も同じ暗証番号だったので車の売却の際の印鑑証明書の取得も無事に出来た。
 やたらと暗証番号を教える必要はないが万が一の時に分かるように何かに記載して保存しておいた方がいいかもしれない。我が家は幸いにして、本人から聞き出せたがそれも出来ない場合になることもある。安全上の問題もあるかと思うが考えておいていい点だ。

⑥ 写真…写真は共有、遺影写真は自分で選んでおこう
 写真では2つ。まず、認知症で徘徊をして行方不明になることもある可能性も考えて、顔のアップと全体の写真を撮っておく。認知症の場合、顔つきが変わっていくので撮り直していくのがいいかもしれない。撮る時はスマホが良いと思う。スマホで撮って、家族で共有する。行方不明になって探しに行く時、スマホは持っていくだろう。そのスマホに写真があれば、それを見せながら探せる。
 2つ目は遺影だ。亡くなった後に、遺影に使う写真を探す作業は思っているより大変だ。正面から写っていて、そこそこ大きく写っているもの。父の遺影用の写真を決める時にかなりの数の写真を見た。遺影用の写真は、出来れば本人が元気な内に、本人が用意しておくのがよい。気に入った写真があったら、それを分かるようにしておき、家族にも伝えておく。本人だけが分かっていても意味がない。

⑦ 書類整理…最初にやっておくと後が楽
 家族の介護が始まると、いろいろな書類が増える。ケアマネジャーから渡される介護計画書や実績報告、介護サービスを利用した請求書。我が家では訪問診療、訪問看護、訪問入浴、ヘルパー、ショートステイなど様々な書類が増えていった。確認のため見返すこともあったりするので、きちんと整理しておく必要があった。
 無印良品でA4横のタイプのファイルボックスを買い、アマゾンで個別フォルダーを買い、ダイソーでクリアファイルを買って分別をした。それぞれのサービスの個別フォルダーを作り(見出しはダイソーの白のマスキングテープを使用)、その中にクリアファイルをいれて、そのクリアファイルに請求書などをパサっと入れていく。A4横のタイプのファイルボックスは介護サービス、健康保険・介護保険、などと大きな項目で分けて、ファイルボックスにはダイソーで買ってきた貼る取っ手を付けておいた。
 最初に溜まってしまった書類を整理するのは大変だったが、個別フォルダーで収納するようになってからは、分かりやすく楽だった。これは普段の生活でも使えるのでお勧めしたい。

⑧ 連絡先一覧表…パッと見てわかるようにしておこう
 父の介護が始まり、いろいろな関係先が増えた。ケアマネジャーや訪問診療などなど。何かあった時は連絡しなくていけない。いちいち連絡先を探すのは大変なので、一覧表を作成し、冷蔵庫に貼っておいた。
書いた内容は例として
① 父の名前(ふりがな)、生年月日、年齢
② ケアマネジャーの連絡先
我が家ではケアプラザ、ケアマネジャーの氏名(ふりがな)、電話番号、住所
③ 訪問看護の連絡先
サービス先名称、担当者名、電話番号、住所
④ かかりつけ薬局連絡先
電話番号、住所
⑤ 病院連絡先
病院名、受診科、担当医名、病名、電話番号、住所

といった具合だ。介護サービスの会社は訪問診療や訪問入浴やヘルパーなどサービスの種類も書いておいた方がよい。
何かあった時はこれを見て連絡をする。なので、必要に応じて内容は更新していった。パソコンなどでデータを作っておくと便利である。

⑨ ご近所…見守りはご近所の力も借りよう
 家族が認知症だということは近所に言いづらいかもしれないが早めに伝えた方がよい。家族の気が付かない内に出ていってしまったりすることもある。その時にご近所の人が気が付いて連れ戻してくれることもある。ご近所の方々にも見守ってもらおう。

⑩ かかりつけ薬局…どんどん相談しよう
 ケアマネジャーやかかりつけ医に日頃の様子を話し、色々相談するのは重要だが、薬局も相談先として重要である。
錠剤の薬が飲めなくなった父のために母が薬を壜で砕いていたことがあった。かかりつけ医に「粉薬になりませんか?」と聞いたところ、「調剤薬局で粉砕してくれると思います。」と言って確認、指示をしてくれた。薬局では一回ごとに分包もしてくれるので、小さなことでも困っていることは遠慮なく相談するのが良い。

⑪ 介護サービス…利用に遠慮はいらない
 実際に家族の介護が始まらないと介護サービスと言われもピンとこないし、内容も分からない。人にしてもらうサービスもあるが、物を借りられるサービスもある。福祉用具のカタログを見て、その種類の多さに驚いた。そして、介護保険を使えば、驚くほど安く借りられる。ケアマネジャーにはどんどん相談して、介護サービスはどんどん使うのがよい。
 我が家は母が介護サービスを利用するのに積極的ではなくて、「他にもっと困っている家庭があるだろうから」などといってなかなか使わなかった。他の家庭は関係ない。自分の家庭中心で考えてよい。使ったけど要らなかったとなれば、やめることも簡単に出来る。自分たちの介護が楽になることを考えてほしい。疲れて辛くなれば、虐待にもつながる。それは介護される人にも介護する人にも辛いことだ。介護サービスを利用することに躊躇はいらない。

 突然に始まった我が家の介護を振り返って、色々書いてみた。介護という場面だけはなく、日常でも活かせることもあるかと思うので参考になれば幸いだ。

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