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短編小説

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2018年5月の記事一覧

最後にして最初の探偵(ノベリスト)

 待ち合わせをすっぽかされたところまでは赦せた。けれど、待ち合わせの前に自殺をされたと聞けば、正直怒りが先立った。歳華はその日、二時間以上待ったのだ。それなのに、やっていたことが自殺なんてふざけている。そんなことで納得がいくはずがない。別の日にやれ。

 一月一日の午前十一時、瀬越歳華は晴れ着姿で新宿駅に居た。元旦の浮かれた雰囲気に合わせて、相応に浮かれて見せた結果である。赤と黒の着物は兄が着つけ

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よるまち魚編年記

「歳ちー、天国では皆が海の話をするんだってさ」
 手すりにもたれかかりながら小鳩がそんな話をするので、歳華は危うく目の前の男を突き落としてやるところだった。海原を往く船の速度はそれなりのものだから、きっと数秒で藻屑になるに違いない。
 歳華の殺意に気づいていない振りをして、小鳩はなおも笑っていた。ノットで数える風を浴びながら、遥かな海を指で差す。
「ちゃんと見ておかないと、天国での話題についていけ

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