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法務と何が違う?リーガルストラテジストという働き方

こちらは裏・法務系Advent Calendar 2021 23日目のエントリー記事です。

はじめましての方も多いと思います、山辺哲識(@noppelganger)です。奥邨弘司教授(@OKMRKJ)からバトンを受け取りまして、初のlegalAC参加です。同業の諸先輩方や法務コミュニティの皆さまの記事を大変興味深く拝見しています。

私は本業として「アトリエ法律事務所」を営む企業法務系弁護士をしながら、下記の会社員と講師も兼業しています。

時間的には弁護士50%、会社員40%、講師10%ぐらいの割合です。出会いに恵まれて、どれも楽しく仕事してます。

今回のエントリー記事では、上記のうちPARTYでの「リーガルストラテジスト」という肩書きの背景や働き方をご紹介させてください。

「法務と何が違うの?」とのツッコミは覚悟の上で、自身の葛藤や目標をツラツラ述べました。法務がビジネスサイドにどう関わっていくかに正解不正解も上下もありませんが、何かしら共感してくださる方や近い思想や目標をお持ちの方と出会えたらいいなと願っているので、何か響いたという方は是非コメントやDMいただけると幸いです。

リーガルストラテジストが生まれた経緯

PARTYは、広告制作会社としてCMやキャンペーン広告を制作するだけではなく、リブランディング、インスタレーション、サービス開発等も手がける総合的なクリエイティブ集団です。

もともと顧問弁護士として数年来の付き合いがありましたが、2018年1月からは週1程度のコミットを目安に社員として参加することになりました。もうすぐ4年になります。

入社直後はシンプルに法務という立場でした。それが、2019年冒頭から「リーガルストラテジスト」という肩書きに変わって、今に至ります。

肩書きに込めた意味

「リーガルストラテジスト」という肩書きは、PARTY代表の伊藤直樹さんと相談して作りました。
入社して約1年後の1on1MTGの際、「身近で見るようになって改めて、PARTYのメンバーのクリエイティブがすごい。自身も社外に向けて価値を発揮したい。」とお話したところ、「いいじゃないですか。ぜひやりましょう。」と言っていただきました。

法務というのは部署として社内向けの機能を表示したものですが、リーガルストラテジストは、社外のお客様に向けてどんな価値を提供できるかという視点で自身の役割を再定義しようとしたものです。私自身のリブランディングとも言えるかもしれません。

リーガルストラテジストの働き方

案件を特定しないようになるべく一般化しつつ、具体的な働き方をご説明します。

大前提として、日々舞い込む契約書のチェックや相談等、PARTYにとっての基本的な法務機能はこなしています。
それに加えて、初期から「リーガルストラテジスト」としてアサインされたり自分から手を挙げるプロジェクトが時折現れます。きっかけは、規制業種に関係していたり、権利関係が複雑だったり、早期から知財戦略の視点を入れたかったり、コンテンツに個人的な思い入れがあったりと、プロジェクトによって様々です。

そうやって参加することになったプロジェクトは、

  • 開発や広報のSlackチャンネルを追う

  • 全体定例MTG等も可能な限り入る

  • アプリやウェブサイトのワイヤーフレームやPMのガントチャート等も勝手に見る

  • 開発中アプリのテストやデバッグ作業に参加する(大好物です。)

と、通常の法務ではあまり関わらないだろう分野にも手を出します。

法務的な分野では、プロジェクトに関係する商標出願や規約作成をどのように進めるべきかを広告主と直接打ち合わせたり、外注の制作会社の希望を取りまとめて広告主と契約交渉するケースもあります。
個人的に面白いのは、クライアントへのプレゼン前でまだ複数案が残っている時点で、法的な実現可能性だけではなく企画のとんがり具合を分析するケースです。

一方で、弁護士としての葛藤

リーガルストラテジストとしての現場との距離感の近い働き方が大好きで、本業(弁護士)とは別のやりがいを感じています。
私は以前から制作現場が大好きだったので、LL.M.留学の2年目は現地のイベント制作会社に就職し、プロデューサーの肩書きでイベント制作に奔走していました。
帰国後、自身のマインドがもはや一般的な法律事務所での働き方に耐えられそうになかったので(なんなら留学前から多少浮いていたので)、SCRAPやPARTYで現場寄りの役割を得られたことは幸運でした。その後独立もしましたが、制作会社の社員という関わり方を辞めたいとは思いません。

ただ、そこには不安もあります。
というのも、本業の弁護士の感覚では「依頼者の利益の最大化」というのが根本的なルールです。それは利益相反や非弁行為といった職業倫理に違反しないためにも重要な感覚だと思っていて、本業の弁護士という立場で関わるときは特に敏感になります。自身が製作委員会のフィクサー的な立場にあって関係者の利害調整を図る場合、それが会社員の立場での仕事であっても自身の働き方が利益相反や非弁行為になっていないかと常に不安に感じています。良い折り合いのつけ方があったらぜひ教えてください……。

弁護士や法務といった肩書きとは異なる「リーガルストラテジスト」という肩書きを名乗る意味はここにもあって、「今は弁護士じゃなく制作チームの一員として仕事していますよー」と自分と他者に対してアピールしている側面もあります。アピールしたからといって職業倫理上の懸念が解決するわけではないのですが。あと、さすがに「リーガルストラテジスト」の稼働に対する一人月単価は設定していません。

リーガルストラテジストとして、成果を感じる瞬間

取り組みの成果としては、今のところ社内での認知も正直まだ不十分ですし、他社の担当者から外部弁護士のように扱われ、便利使いされたと感じたこともあります。(「あなたの弁護士じゃない」と言いたい……「あなたのママじゃないの」のテンションで)

でも、人事評価等を通じて、良いフィードバックをもらっているので、今後もっと参加プロジェクトを増やしていければと思っています。
対外的に発表できるものの中でも、これまでに幾つかのプロジェクトでクレジットを表記していただきました。PARTYは広告業界の文化を引き継いでいるので、クレジットをとても大事にしてくれます。法務は裏方として外から見えないことが多いので、実はけっこううれしいものです。

▼RADWIMPS バーチャルライブ「SHIN SEKAI "nowhere"」のリーガルストラテジスト

このnoteのトップ画像はエンドロールからの一コマです。左下にSatoshi Yamabeの名前があります。

▼サッカー観戦をDXする「Stadium Experiment」のスタジアムアプリのリーガルストラテジスト

▼YouTube Originalsののんさんの映画制作ドキュメンタリー『のんたれ』のリーガルストラテジスト

最後に

長期的な目標としては、今後も「リーガルストラテジスト」の活動を続けていき、
①広告業界で他にも同じ肩書きが現れること
②他の業界にも広がること
を目指して模索を続けていきたいと思います。

くり返しになりますが、共感してくれたり近い思想や目標を持つ仲間を探しています。ぜひ意見交換したいので、お気軽にご連絡ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
明日の#裏legalACは、Hinata Oshima(@Hinata_SpaceLaw)さんです。(了)


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