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『もう沖縄らしい風景って無いですよ』

 いつも利用している立体駐車場が営業終了を機に、新しい建物へと建て替えるらしい。機をしてと書いたが、建造から50年余りに成らんとしている建物は、老朽化に耐えることが出来ないということが最大の原因という。其のことに関してはなにか特別な感慨があるわけではないが、駐車場の建物自体には歴史的な意味合いを含んでいる。
 立体駐車場の名前は『みどり立体駐車場』という。この駐車場は沖縄がアメリカ占領時代の影響が色濃く残る1975年にオープンした。その時代の沖縄はというと、流通している通貨が米ドルから円に切り替わったり、沖縄渡航のために必要であったパスポートが廃止に成ったりと、本土復帰を機にじんわりと日本が定めた基準に馴染んできた時期だった。しかし、復帰後も変わらない事があった。それはなにか。交通に関してである。
 敗戦後の沖縄は、アメリカに占領されていた時代がある。其のため、食べ物などから始まる衣食住の文化は、アメリカの影響を大きく受けることになる。それは交通に関しても同じことで、1945年の米国施政権下から33年に渡り米国式の右側走行を強いられることに成る。1978年の左側走行への切り替えが行われるまではアメリカよろしくに車は右側を走行していたし、人は左側を彷徨いていた。
 『みどり立体駐車場』のオープンは1975年。右側走行時代にオープンしているのだ。其のために、この駐車場はその時代の特徴を反映している歴史のある建物ということになっている。時代が理解る特徴を挙げると、入口が右側で出口が左側に設計されている。つまり、出入り口が今の時代とは左右逆に設計されているのだ。今の時代、左側走行にはそぐわない設計のせいだろうか、使い勝手は微妙に不便である。右側にある入口に入ろうと走らせている車の横っ腹に、左側にある出口から出てきた車が特攻している場面に何度か遭遇したことがある。その微妙な不便さのために、毎回恐る恐る利用していたのは言うまでもない。
 そんな時代を含んでいる建物が老朽化により取り壊され、新しい建物へと変貌していく。先日も1963年に開業した『コザボウリングセンター』所謂、コザボーという地元のエンターテインメントを支えていた施設が営業を終了。2019年には『第一牧志公設市場』という那覇の食を支えていた市場が閉鎖、建て替え工事が行われた。どちらも私設の老朽化が原因だった。
 この老朽化が原因で建物がなくなっていく度に、沖縄らしい風景が無くなっていくと思うのは、どういう気持なのだろうかと思う。過去に寄り縋ってノスタルジーを感じたいだけの独りよがりなのだろうか、それとも、発展し便利に作り変える現象に行き場のない反骨心を提示しただけなのだろうか。
 どちらにせよ、街は時代に沿った様相へと移行していく。沖縄を離れて久しい友人と連絡する際に「もう沖縄らしい風景って無いぞ」と皮肉っぽい感じで伝えることがある。沖縄らしい風景、アメリカ文化と元あった沖縄の文化が入り混じった衣食住の様相、コンクリートで堅牢に作られた無骨な建築物。これがだんだんと薄れて、誰かが定めた基準に馴染んでいく時代が到来している。


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