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ティファニーで朝食を食え

 諸兄諸姉らは知らないと思うが、ティファニーで食う朝食は本当に美味い。この世の極楽とも言える程に味わい深い食事はこの世でそうそう食えるものではなく、選ばれし人間にしか食べることが出来ないのだ。して、私はこの朝食を食べたことが有る。ということは?つまり?私は?選ばれた人間?いっやー、まいったまいった。私も遂にこの高みまで上り詰めることが出来たっつーわけなんですよ。いやはや、自慢でもなんでもないんですがね、私はやってやったんですよ、上り詰めてしまったんですよ。ティファニーで朝飯を食うまでの地位にね。
 それで、ティファニーでの朝食ですがね、気になるでしょう、内容が。そうでしょう、そうでしょう。よござんす、教えて差し上げますので、よく耳くそをかっぽじってよくお聞きになってございましって、いやだわあたくしったら。クソなんて汚い言葉を使うなんて。ここは少し言い直して穢土と申しましょう。あなたの穢土を掘り返して聞きご覧なさい。
 まずティファニーの朝食はコースではないのだ。席に案内され座った瞬間に朝食を食うものだと認識され、何も言わずとも飯が運ばれてくるのだ。この待遇が何とも地位と名誉を勝ち取った人間に与えられるべきものっぽくて本当に快感なのだ。うーん、今思い出してもしびれる。なぜか水もほんのり甘い。血糖値をバク上げさせるために黒糖が入っているのでしょう。
 なぜか室内で響き渡る鳥の鳴き声に耳を傾けていると、朝食が運ばれてくる。献立は、玄米にだし巻き卵、ナスの浅漬けにお吸い物、この四品だけだ。いやいや、戦国武将の粗食かと侮るなかれ。これが本当に美味いのだ。玄米は芯までしっかりと炊きあがって粒が立って食べごたえが有る。だし巻き卵は砂糖で甘く味付けされてほのかに味付けされた塩で充分すぎるぐらい濃い味わいだ。浅漬けはナス本来の味と歯ごたえを殺さないよう、あっさりと仕上げている。お吸い物は余計な具を入れずネギだけ、これが答えと言わんばかりの強気の姿勢だが、これがまた出汁の香り風味豊かで何杯でもいける代物である。
 そう、ティファニーで提供される朝食は日本食なのだ。アメリカよろしくのブウエイのようなBLTサンドではなく、トルコよろしくのチャイを飲みながらパン、オリーブ、チーズをつまむのではなく、だし巻き卵と漬物で玄米を食い、お吸い物でリセットする完全日本食なのだ。
 ホホホ、これには大変まいった。ティファニーという高級ブランド様が朝食を提供するのであれば、豪華絢爛栄耀栄華財を尽くした食べ物が出てくるのかと思えば、百姓のような粗食が出てくるではないか。これはどういう心積りなのか考えてみると、すぐに答えは出てきやす。それは、”当ブランドを最大限楽しむには貴方の寿命は短すぎる。なので、粗食を召し上がることにより寿命を伸ばして当ブランドを末永くお楽しみください。いや、お金を落としてください”ということだろう。ホホホ、なんとう心遣い。なんという、企業努力。
 はぁ、またティファニーで朝食を食いたい。あれはおいそれと食べることが出来る代物ではないのでね。なんつうんだろ、日本で言えばタサキで朝餉を食うみたいなヌエ的なもんだよ。食えんの?タサキで朝飯?と思うじゃないですか。その幻視感こそがティファニーで朝食を食うってことなのだよ。ホ、ホ、ホ。
 と、言い出すような者はトルーマン・カポーティの『ティファニーで朝食を』を読んだことがない人間である。にしても、ナスの浅漬けが食いたい。菊水の辛口と一緒に。

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