夏は夜(清少納言お墨付き)

風の匂いに敏感なのは、昔から自転車を乗り回していたからだと思う。

夏は好きじゃない。正確に言えば、夏の暑さが好きじゃない。いかれてる。頭がおかしい。生きていけるわけがない。これ以上脱ぐ服も皮膚もない。

でも、夏の好きなところがあるとするならば。

それは夜だ。清少納言も「夏は夜」と言った。清少納言くらいかしこい人を味方につけておけば、怖いものなど何もない。夏は、夜がいい。

夏の夜の匂いが好きだ。湿り気を含んだ、生ぬるい風の匂い。植物の青々しさと、昼に照らされていたアスファルトの熱さの残りカスみたいなものを、一緒に運んでくれる。自転車を漕ぐわたしのもとへ。自転車は、風がダイレクトに鼻まで届く。冬の風は鼻奥を突き抜けて、脳天を貫く感じが好きだけど、夏の風は鼻の中でぬるくとどまっている感じが好き。つまりは、どっちも好き。

電車が走り抜けるのと同時にひまわりが揺れて、それに遅れて強い風が吹き抜けて、わたしの鼻腔を刺激する。髪はおだんごにしているから風になびかないけど、長く垂らした前髪を、控えめに風が揺らしてくれる。

もはや風関係ないけど、夏の夜は首元エレクトリカルパレードわんこがたくさん見られるから、おもしろい。しかも公園に5匹くらいわんこが集まるから、パレードが盛大になってしまって、余計におもしろい。夏の風、ほんとに関係ないけど。

冬は身体をぴりつかせてくれる風だけど、夏は心をゆるめてくれる風に変身するみたいだ。仕事で2回ミスやらかしてちょっとささくれた心だって、夏の風をうければ、明日くらいは出勤してやりますかというマインドになるからすごい。いや、すごいのは風なのか、わたしなのか。

ともかく、夏の風はいい。

夏の夜はいい。

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