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妊娠出産にまつわる保障制度について

こんにちは、ぺろよしです。

今回は妊娠から産後まで働く女性にとってどんな法制度があるのか、どんな給付が受けられるのかを綴りたいと思います。ちょこちょこ保育士試験にも出る部分はありますが、これから出産を控える方にぜひ見て頂けたらなと思っています。

日本=子育てに厳しいイメージはあるものの、実は産前産後や育児に関する保障制度そのものは世界的にも非常に恵まれているのです。問題になっているのは、それを使うにあたっての職場環境の整備や理解が追い付いていない事。時間はかかるけど少しずつでも理解が広がって、全ての働く女性が制度を気兼ねなく利用出来ればいいなと思います。

私自身も出産後育児休業を取得しましたが、言われるがまま何となく乗り越えたので後で「もうちょっと知っておけばよかったなー」と悔やんだものです。ただでさえ大変な妊娠出産育児、今のうちにでもぜひ制度をしっかり知って理解を深めていきましょう!


◆妊娠中の働く女性へのサポート

男女雇用機会均等法では、妊娠がわかった女性労働者(正社員・パート・アルバイト問わず)が出産に備えつつ安心して働けるように、企業に対してその健康を管理する義務を設けています。
出ましたね。義務か努力義務かです。
じゃあ健康を管理するって具体的に何なのか?というと

(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
第12条 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索)

母子保健法の規定による保健指導や健康診査とは「妊婦検診」などが該当します。大体出産までに14回程度受診するのが望ましいと厚生労働省が定めていますが、この検診を受ける為に休暇を取る(もしくは遅刻・早退など)申し出を企業は拒否できないよ、きちんと取らせなさいよという事です。

第13条 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索)

同法13条では業務内容の軽減や通勤の緩和などの必要措置を講ずる事の義務、また第9条では婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止を定めています。

◆知ってる?「母健カード」

母健カード(母性健康管理指導事項連絡カード)とは仕事をしている妊産婦(妊産婦なので産後の女性も可能ですぞ)が医師から通勤緩和や業務軽減の必要があると指導された場合などに、企業がスムーズに対応出来るよう発行されるものです。診断書と同等の効力があり女性労働者から企業側がそれを受け取った場合、カードの記載に従って負担軽減のために必要な措置を講じなければなりません。
この母健カードは厚労省HPからもダウンロード出来ますが、母子手帳にも添付されていてコピーして使う事も可能です。
つわり等で体調がすぐれず、通勤や業務が辛い時にぜひ使ってみてほしいです。ちなみに母健カードを提出して企業側が対応するのは義務ですが、どこまで融通を利かせてくれるかはお勤め先の就業規定によります。
当社は恥ずかしい事に母健カードの存在を誰も知りませんでした(数年前まで寿退社が当たり前で出産して働き続ける人なんて皆無だったのです…)なので妊娠悪阻になった労働者からカードを出されても「???」となり対応が非常に遅くなってしまったのです。

◆産前・産後休業制度

いわゆる「産休制度」ですね。私も自分自身が妊娠するまで知らなかったのですが、産休と育休(育児休業)は全くの別物です。それぞれ労働基準法にて明確に区別されています。

第65条の1
使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
第65条の2
使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
労働基準法(e-Gov法令検索)

産前休業:予定日より6週間前(多胎児は14週間前)に申請の場合

産後休業:原則産後8週間を経過していない労働者を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した労働者が働くことを希望・申請した場合、医師が認めた業務に限り就業が認められる

それぞれの細かな違いに気づかれましたか?言い方を変えると

産前休業は任意、つまり本人が希望すれば出産まで取らなくてもよいのですが、産後休業は8週間経過(医師の許可が出れば6週)までは休業が義務(=就業禁止)なのです。

実際私も産前は予定日4週前(臨月直前)まで働きました。お腹が大きくなって通勤等結構しんどかったですが、デスクワークなので何とかなりました。しかし産後は別記事でも書いた通り赤ちゃんの世話はあるし心身ともに不安定だしで規定の8週間で職場復帰なんて到底無理でした。中には産後3ヶ月で復帰されるワ―ママさんもいると聞きますが、交通事故並のダメージを母体はくらっている訳で。いち早い復帰を希望する方もいると思いますが、私としては心身の為にもしばらくゆっくり休んだ方がベストなのかなと思います。

◆出産育児一時金

無事出産した暁には健康保険から分娩費用の一部が給付されます。国保・健保どちらも同じでこれを「出産育児一時金」と言います。ちなみに被保険者本人が出産の場合に「出産育児一時金」、被扶養者の出産の場合は「家族出産育児一時金」というのが正式名称ですが、トータルで「出産育児一時金」と呼んでいます。
具体的にいくらもらえるかと言いますと

1児につき420,000
妊娠4ヶ月(85日)以降の出産で、産科医療補償制度に加入している分娩機関での出産の場合)
1児につき408,000円(令和4年1月1日から)
妊娠4ヶ月(85日)未満の出産や、産科医療補償制度に未加入の分娩機関での出産の場合)

いずれの場合も多胎出産は人数分が給付されます。
分娩した医療施設が直接支払制度に対応していれば、被保険者側が出向いての手続きなどは不要となるので有難いですね。
ぺろよしの場合5泊入院して無痛分娩で出産したので総額で66万ほどかかりましたがこの出産育児一時金があった為、自己負担は24万程度ですみました。
正常な出産=病気ではないので健康保険の給付対象ではない(出産にかかわる費用は全額自己負担になる)のです。だからこそ出産育児一時金制度や妊婦検診のチケットがあるのですが、昔はなかったらしく大変ありがたい制度だと思います。出産費用は結構地域差がありごくまれにお釣りがある地域もあれば、都内の有名病院で無痛分娩すると100万かかるという話も聞きます。少子化や産科医・地方の出産施設減少など様々な問題も含んでいるので、今後の金額変更などどうなるか注目したいと思います。
(と、思ってたらこんなニュースが出ましたね。出産一時金40万円台半ばへ増額を 現在42万円、自民が首相へ要望

ちなみに、帝王切開で出産した場合は費用の一部(手術・投薬・処置・検査・入院関連の費用)が保険適用となり、 通常の医療費と同様に3割の自己負担になります。
事前に帝王切開での分娩がわかっているなら「限度額適用認定証」(事前に病院に提出しておけば医療費が安くなる便利な印籠カード)を、急遽帝王切開になってしまったなら「高額療養費」(いったん自己負担で支払いして後日還付)を申請すれば費用を抑える事が可能ですのでぜひ利用しましょう。

また、悲しい事ですが流産・早産・死産・人工中絶などであっても妊娠12週を経過していれば出産と同じ扱いになりますので、手当金は給付されます。
実際正産期前の死産や流産の手当金請求書が年に数件来ます。本当に胸が痛くなりますし、その度に無事出産まで至る事は素晴らしい事なのだと思わされます。

◆出産手当金

被保険者本人が出産で仕事を休み、その期間の給与が減額またはもらえないときに「出産手当金」が同じく健康保険から支給されます。

もう一度言います。支給されるのは健康保険から被保険者本人に対してです。つまり国民健康保険加入者は出産手当金はもらえませんし、家族の扶養に入っている場合も同様にもらえません。出産育児一時金のみ支給されます。
出産手当金はあくまで給与が減ったりもらえない場合の生活保障のお金ですので、有給を使う等産休中に給与が出るなら原則手当金はもらえません。

また、余談ですが傷病手当金と出産手当金の要件を満たす場合(例えば妊娠悪阻が後期まで続いていて働けないなど)優先されるのは出産手当金となります。二重受給は出来ません。

出産手当金の支給対象期間は産前42日前から産後56日目までの98日間(多胎妊娠の場合は出産日以前98日間から出産日後56日間)です。
支給金額は以下の通りです。

●被保険者期間1年以上の人
被保険者が給付を受ける月以前12ヶ月間の各月の標準報酬月額の平均額の1/30の3分の2

●被保険者期間が1年未満の人
1.支給開始日以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の1/30に相当する額
2.加入している健康保険の平均標準報酬月額の1/30(平均標準報酬日額)に相当する額
※1か2のいずれか少ない額の2/3に相当する額が支給されます。

わかり辛いですが簡単に言うと1日あたり給与の日額の2/3がもらえるという事です。そしてこの2/3の金額が休んだ期間に応じてもらえます。
勤務して日が浅い方ももらえるのは有り難いですね。ちなみに雇用保険から給付される育児休業給付金は1年以上勤めていないと支給されません。

このnoteで頻繁に出てくる標準報酬月額は基本的に労務(給与)担当でないと詳しくわからないのではと思います。出産手当金は出産育児一時金と違い一律ではないので、具体的にいくらもらえるかは労務担当かご加入の健康保険組合にお問い合わせくださいね。
ていうか出産手当金と一時金名前が似ているのでごっちゃになりますよね!

◆出産日が前後した場合はどうなる?

産前産後休業も出産手当金も「出産した日」を基準として休業期間や支給対象期間を計算します。出産予定日ではありませんので注意してくださいね。
では予定日よりも早く産まれた、もしくは予定日を超過して出産した場合どうなるのでしょうか?

●出産日が早まった場合
実際に出産した日が基準になる=産前期間が少なくなる
例)予定日より3日早く産まれた
①日額給与2/3×39日分(42日から3日引いて39日)

②日額給与2/3×56日分

●出産日が遅れた場合
超過した出産予定日も期間内に含む=支給対象期間も伸びる
例)予定日より3日遅れて産まれた
①日額給与2/3×42日分

②日額給与2/3×超過した3日分

③日額給与2/3×56日分

このように支給期間にあたる産後の56日はどちらも変わりませんが、予定日より前の出産だと産前の支給期間が短くなり、逆に予定日を超過しての出産は支給期間が伸びます。
正直産まれてくるタイミングは赤ちゃん次第の部分も大きいですよね。損得勘定するのもおかしな話ではありますが、もし予定日前に産まれそうな場合は産休開始日に余裕を持っておくと受給日数が減らず満額もらえる可能性が高まります。また、あくまで出産手当金の支給額は日額給与の2/3です。有給休暇だと給与満額支給なので、復帰後の有休予定に余裕がある方は有給消化後産休に入ってもいいかもしれません。会社によりけりですが、ぺろよしの会社みたいな古い昭和脳会社だと有給消化からの産休入りは確実にいい顔はされないだろうなあ…と。お互い様!と思ってくれるならいいけど自分が休む間の一方的な業務負担だと不公平になってしまうから難しいですよね。
ちなみにぺろよしは予定日ぴったりに産んだものの産前期間を超えて有給も消化せず元気に働きました(;´∀`)制度さえ知っていればなあ…産前の2週間分惜しい事をしたものです…

◆退職してもお金がもらえる!?

通常であれば退職すると加入している健康保険の資格を喪失します。
ですが条件を満たせば退職(退職予定)でも出産育児一時金や出産手当金が支給されるのをご存じでしょうか?この超有り難い制度を「継続給付」と言います。

●出産育児一時金の継続給付条件
①被保険者期間(健康保険に加入していた期間)が1年以上
②資格喪失後6カ月以内の出産である事
③被保険者本人の出産である事(被扶養者ではありません!)
※資格喪失後扶養に入った等の場合はどちらかを選択。二重給付は不可。

●出産手当金の継続給付条件
①被保険者期間(健康保険に加入していた期間)が1年以上
②出産日(予定日も可)の42日前(多胎の場合は98日前)が在職中である事
③支給期間内に退職している事
④退職日に出勤していない

出産を機に退職される方もいらっしゃると思います。条件さえ満たせば給付される正当な権利ですので、一度お勤め先に聞いてみてくださいね。

◆産休中の税金はどうなるの?

繰り返しになりますが、出産での休業期間中は無給となります。
ではその期間中の社会保険料をはじめとした各種税金はどうなるのでしょうか?

●住民税:かかるよ!
●所得税:かからないよ!!
●雇用保険料:かからないよ!!!
●健康保険料・厚生年金:免除だよ!!!!

…詳しく見ていきましょうね。

まず、住民税はかかります。こちらは前年所得に対して課税されるものです。産休に入る前年は働いているので当然かかってきます。逆に言うと産休(育休)明けは無収入の期間があるので、住民税が低くなっていたり非課税になります。
所得税も同じです。給与所得がない為かかりません。また、「出産育児一時金」「出産手当金」「育児休業給付金」などの各種手当も非課税対象ですのでご安心ください。
社会保険料の内、雇用保険料も給与所得がない為かかりません。
健康保険料と厚生年金については事業主が申し出をする事で被保険者・事業主の両方の負担が免除されます。特に年金に関してはこの「免除」という扱いがポイントで、保険料はかかっていないけど納付した期間としてカウントする為、将来もらえる年金額が減らされる事はありません。
また被保険者・事業主両方の負担が免除されるのも注意です。被保険者「のみ」とか事業主「のみ」ではありませんよ。両方免除になります。ありがてぇ…。

◆出産・育児は労務にとっても一大イベント

上の写真は私が産休育休を取った時の関連書類の一部です。
労務手続きだけでも
健保→出産育児一時金・出産手当金・付加金の請求、産前産後育休期間の保険料免除(開始と終了計3回)・復帰後の月額変更
年金事務所→産前産後育休期間の保険料免除(開始と終了計4回)・養育期間特例の申請・復帰後の月額変更
ハローワーク→育児休業給付金の確認と二か月ごとの申請
と盛りだくさんで、担当者にとっても一大イベントなのです。同じ内容の事をそれぞれ違う送付先に何度もやる必要があって、自分が処理する立場になるまで実は大変だったとは知りませんでした。
もしこれから出産を迎えられる方がいらっしゃればぜひ労務担当にも「ありがとう」と言っていただければ、それだけで活力になりますのでぜひ温かい一言をよろしくお願いします(笑)

次回以降の記事では育児休業制度とそのお金の話を綴ります。また法改正により令和4年4月1日から「男性の育児休業」もスタートしましたね。私が実際に育児休業を取得した時の例を出して皆さんにわかりやすいようお伝えできればと思います。
長々と書きましたが今回もありがとうございました!

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