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【三猫物語】<その 19> いよいよ三猫物語


・・・というわけで、里親が見つかるまでの居候ということで、「とら吉」が新たに加わって、「そら」「ナメコ」「とら吉」の三猫生活がはじまった。

しばらくの間、「とら吉」は、ほぼ2階の四畳半で暮らしたので、他の2頭との接触はあまりなかった。

とはいえ、なにせ「とら吉」は、人懐こいので、とにかく人のいるところへ行きたがる。なにかというと隙を見て、自分の部屋から出たがる。うっかりドアを開けると、すかさずその隙間から、スルリと外へ出てしまう。
「あっ」と言う間もなく、階段を駆け下りてゆく。

階下には、「そら」と「ナメコ」がいるので、大丈夫かな?と思って、見に行くはめになる。

「そら」と「ナメコ」は、それなりに仲良くしているが、さすがに新入りの、しかも老雄猫とあって、なかなか「とら吉」に慣れるふうには見えない。

激しく取っ組み合いのケンカをすることはないが、「とら吉」が部屋から出ると、不穏な空気が流れ、ほかの2頭に、ちょっと緊張が走り、ザワザワっとなる。

仲良し時代の茶白「ナメコ」とキジトラ「そら」


とくに、この家を初めて占有した「そら」は、ここは自分の陣地だと認識しているらしい。「ナメコ」が来たときもそうだが、自分の陣地へ越境してくる他猫は異物である。「そら」は、縄張りを見張る、番長のようなものだ。

「とら吉」が、自分の領域(間合い)の内側へ入って来る。
「そら」の目が、キッと三角になる。
「とら吉」は、かまわず前進する。
「そら」は、シャーと威嚇する。
「とら吉」は、まったく怯まない。
「そら」は臨戦で身構える。
「とら吉」は、動じない。お人好しなのか、鈍感なのか。威嚇されても気にしていない。
「そら」は、さらにシャーを連発。
「とら吉」は、いかにもフレンドリーなオーラで、ずりずりと近づいてゆく。
「そら」は、その無神経な馴れ馴れしさが、また許せない。
「とら吉」が至近距離に来ると、「そら」の猫パンチが炸裂する。
「バカヤロー、こっちへ来るんじゃない!」そう言っているようだ。

けれども、「とら吉」は、まったく反撃はしない。「そら」が番長であることは、ちゃんと認めているらしい。ビミョウな雰囲気で、その場は、まあ、なんとなく治まる。

空気読まない系の「とら吉」


そうやって、しばしば、「とら吉」は部屋から出る。とりあえず大きな揉め事が起こることは、まずない。「まあ、べつに大丈夫なのかな」そういう気持が、だんだんと頭をもたげてくる。とはいえ、もう隔離はやめてしまえ!と決断するに至るわけではない。いちおう建前上は隔離している。ときどき「とわ吉」は部屋から脱走するが、まあそれは仕方ないかという消極的な容認が習い性になる。

すると、隔離といったって、実質的には意味ないよなあ・・という感じが、だんだん拭えなってくる。「とら吉」の隔離方針は、すこしずつ曖昧になり、うやむやになっていった。猫エイズ(FIV)陽性、いわゆる「りんご猫」と呼ばれる「とら吉」、べつに他の猫といっしょに暮らしても、とくに問題はない。アタマでそう理解したというより、すこしずつだけれど、経験的に了解されてきたといっていい。

「そら」「ナメコ」ふたりのオジョウ猫と、空気を読まない(読めない?)ジジイ猫、不思議でビミョウな三つ巴関係、こんなふうにして「三猫物語」がはじまった。


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