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【3期レポート#1 カーネギーズ】「スポーツで人を動かす」:抽象度ゲキタカな問いの着地点とそこに至るまで。

Sports X Leaders Program(以下、SXLP)5期の募集を6月27日(月)より開始しました。

★募集要項はこちら
説明会を7月4日(月)オンライン開催します!

本日からSXLP3期(2020年度)、4期(2021年度)の各グループワークのレポートを紹介していきます。各々がどんな問いを立て、システム思考を用いて議論やワークをし、最終的なアウトプットをしたのか、ぜひご覧ください。※本原稿はSXLP3期終了直後に執筆していただいた内容です。



2021年2月13日に約6ヶ月に渡る「Sports X Leadership Program」通称SXLPの集大成ともいえる、グループワークの発表が行われました。
今年は6グループの発表があり、それぞれのリーダーが課題定義をし、そこに有志で集まったメンバーで構成されたグループが、プログラム中に培ったグループワークを駆使したり、知見を交えたディスカッションを通し、一旦のアウトプットや結論を発表しました。プログラム自体は約半年でしたが、実際のグループワークは2ヶ月弱で、各グループがクオリティの高いプレゼンをしていて、「同期」として非常に誇らしかったです。
 
さて、そんなグループ発表で自分たちは何について話したのか。
 
もともと個人的に、振り返りも兼ねて個人のnoteに今回のグループワークについて書こうと思っていたので、このようにSXIのnoteに掲載いただけるのは非常に嬉しいのですが、執筆しているのは斎藤兼という個人なので、自分が経験した事をベースにグループワークについて記載していることは先にお伝えしておきます。その他のメンバーもきっと随所で思うことはあったと思いますが、こういう時だけリーダーの視点から思ったことも綴らさせていただこうかと思います。
 
話しを戻し、グループ発表をおこなったテーマについてです。
 
タイトルに記載している通りですが、「スポーツで人を動かす」ことについて発表をしました。そもそも、なぜこのテーマでグループワークを進めたのかというと、2020年は個人的にスポーツが色々な意味で注目された年だと感じており、その中でもBLM(Black Lives Matter)運動への関わり方に関心を持っていました。大坂なおみ選手が全米オープンの試合毎に警察からの暴力の被害者の名前が記載されているマスクを着用していたこともありますし、英プレミアリーグの試合前に黙祷と共に選手たちが片膝を着く行為が定着したりもしました。

BLM以外にもスポーツを介して社会的なメッセージが伝わった例は沢山あるのですが、「なぜスポーツクラブやリーグ、アスリートが発信するこの様なメッセージは人々の心に響いたり、行動に移させられるのだろう」と考えたのがきっかけでした。

そして、それを自分なりに解釈した際に、スポーツの中でもメッセージの発信元があり、彼らが伝えたいメッセージや発信先に取ってほしい行動があり、更にそれを伝えるためのツールやプラットフォームがあったうえで、最終的に「動かしたい対象」に届くというシステムが成り立っていると考察し、その中身をもっと知りたい、実際にそのシステムを活用してどのように人が動くのかを解明したかったので、このテーマを掲げ、一緒に考えてくれる仲間を集うべく、全員に対して「ショートピッチ」を行いました。

ショートピッチで使用した資料から

頼り甲斐のある、多様なバックグラウンドを持ったチームメンバー

そんな発表をしたら、4人のメンバーが集まってくれました。そんな彼らを紹介しようと思いますが、「そもそも、あんた誰」と思っているかと思いますので、自己紹介から始めます!(※所属や役職はSXLP3期参加時)

斎藤兼 IT企業スポーツ事業担当

 グループのリーダー。 テーマの言い出しっぺではあるものの、なかなかうまく進まない時は他メンバーに頼りまくって、彼らに気づかれずに「動かす」。 スポーツで人が動くことを少しでも理解し、多くの人にスポーツの価値を理解してもらいたいと考える。 SXLP期間中に自身の結婚パーティと娘の誕生を経験。

飯髙悠貴 フィールドホッケー選手

グループの裏のリーダー。
現役アスリートとして、どのように人を動かしたり、巻き込めるかを追求したい。また、別グループで課題として挙げている「日本版フェラインはなぜ必要か」を沢山の人に知ってもらい、絶対に作る、と息を吐く。
SXLPで「フェライン」という言葉を1万回以上は発している。

菊池やよい 某組織委員会観客向け広報・事業担当

グループの姉さん的存在。
組織委員会では「観客や」ファンの体験を向上させるための施策やそのためのコミュニケーション戦略を考える。
グループに参加したのは、テーマが面白そうだったから。スポーツ×コミュニケーション領域に興味があり、人が動く場合とそうでない場合の違いは何なのか、に興味を持つ。
お酒を飲むと大体記憶が飛ぶ。

倉澤由莉香 アイスホッケーチーム共同創業者

グループの総監督。
いないことが多いけど、重要な時にはいる。
ショートピッチ後に一番速く個人宛てにメッセンジャーを送ってきて賛同の意を表明する。カーネギーさんをこよなく愛し、アイスホッケーチームの活動で自治体のキーパーソンを動かす、スーパーエリート。
深夜のグループワークではいつも眠気と闘っている。

浜田晃 Jリーグクラブ広報担当

グループで一番肌が黒い。
紹介に「Jリーグクラブ」と記載するも、写真でバレバレ。
クラブでは現場広報をしているため、選手を活用して、まさに人を動かす仕事をしている。チームとファン・サポーターに一体感をもたらすためにはどうしたらいいか、を考える一環としてグループに参加。
高校選手権で半端ない選手と対戦経験あり。

ショートピッチをした際は、「誰も集まらなかったらどうしよう」などと心配をしていましたが、同じ様に「人を動かす」事に課題を感じていて、しかも立場の全く違う5人が集まれたことはすごく興奮しました。「このメンツで、2ヶ月後すんごい発表をしてやろう」と意気揚々としていました。
 
ただ、どうやってそこに行きつけるのか。この時から既に試行錯誤とモヤモヤに包まれた日々が始まっていたのです。

問いの抽象度が高すぎた?超高度飛行による酸欠で窒息寸前に

今回のnote執筆にあたり、今までのグループワークのメモを読み返していますが、最初の頃の自分の中の葛藤が蘇ってきます。
 
実は、最初にショートピッチをした時から、1月の中旬くらいまで、「どのようにして、スポーツを通して人を動かせるのか」、という問いを設定していました。
※本当に細かいニュアンスの違いで、これもまた抽象的が故、変更した点なのですが、その点については後述します。
そして、この問いに対して人が集まってきたのはいいものの、どこから始めればいいのか。
 
最初にメモを取っていたのは10月24日のことでした。たしか、1時間くらい時間が割り当てられ、冒頭に記載した各メンバーの想いや参加した理由を話し、残り時間はひたすらディスカッションだったみたいです。

初回のメモ。今見直すと、真面目に書いていたと感じますw

この日はどのような事をこのグループで取り扱いたいか、を話したと思いますが、やはりこの日も結局何から始めればいいかもわからず、とりあえず各メンバーに個人ワークを割り当て、「それぞれの立場で『人を動かす』システムのコンテキスト分析を行い、自分たちは何で人を動かしたいのか」を次回までに持ってくるように伝えました。なんとなく、今までのプログラムでやってきたワークをやってみれば、それなりのインサイトが見えてくるだろう、と浅はかな考えを持った結果の指示でした。

最初に取り掛かったのはバリューグラフとコンテキスト分析でした

とはいえ、それなりにインサイトは得ることができました。
 
この時点で、
·       メッセージを伝えるプラットフォームはメディアもあれば、選手もある
·       理念はしっかり持っておきたいし、伝えたい
·       感情が動くから、人が動く
·       どのように自分を知ってもらうかが重要

というような、最後の発表にも繋がるキーワードや観点は出てきていました。
 
その時点でなにか見えてきたのか、自分としては「感情」が全てを解決するカギだと思い込み、次に「それぞれ感情が動いたタイミングを分析してみよう」という宿題を出していました。
 
実はこのタイミングでグループははっきり決まっておらず、複数グループの兼務も考えているメンバーもいたため、1回の集まりで前半と後半でメンバーが少し入れ替わっていました。そのため、「感情」について議論した際にはいつもと違うメンバーが入っており、なかなか話が進みませんでした。そして、この日は「どんな感情の時に、人はどのように動くのか」という問いの答えをディスカッションベースで見出そうとしたのが間違いでした。その日、たまたま入ってくれていた別のメンバーが「この時間はディスカッションもいいけど、ワークもやって手を動かそう」とアドバイスをくれましたが、せっかくオンラインで集まっている時間を会話せずワークをすることに費やすことができず、かなりモヤモヤしたのを今でも覚えています。と同時に、せっかく集まって議論しているだけでも物事は進まないな、ということにも気づきました。その結果が、以下の意味不明に残っているメモでした。

11/7のメモは今見返しても読解不能でした(失笑)

「なんやねんこれ」と思わず呟いてしまいそうになります。が、まさに、です。感情を把握するためにネットで別メンバーが調べてくれたものを貼り、なんとなくワークをしようと2x2(ツーバイツー)の表を作成してみたのでしょうか。なんともお恥ずかしい。。。
 
そして、個人的な話ではありますが、このワークの後、抽象度の高く、超高度飛行しているテーマならではの、窒息寸前の状態になってしまいます。

窒息寸前から救ってくれた仲間とテクノロジー

そもそも、何でこのテーマを取り扱っているのか?何を導き出したいのか?それを見つけることは誰かにとって意味があるのか?

心の闇すら感じるこの時期のメモw相当悩んでました。

そんな自問自答を1週間くらいの間にめちゃくちゃ繰り返しました。正式なグループ分けも決まっていなかったため、「他のグループと合併するか」ということも正直考えていました。
 
そんな、絶望感すら感じた状況を少し好転させてくれたことが2つありました。
 
一つは、メンバーの言葉。
 
11/23の集いでは、自分の悩みや弱音を打ち明けました。そうすると、「このメンバーだからこそPDCAを回して、人を動かすことを検証できるんじゃないかな」とか「問いを具体的にしても、追い求めてるアウトプットのイメージはさほど変わらないので、トライをしよう」というポジティブなフィードバックでした。同時に、他のメンバーが自分より本気でこの問いに対して取り組もうとしている姿を見て、「どげんかせんといかん」と一昔前の県知事のように奮い立ったのを覚えています。この時は本当に仲間に救われました。
 
もう一つは「miro」というツール。
 
前述したように、なかなかオンラインで集まっても、リアルで一緒にいるようなグループワークというものはし辛いです。そこで、この日を機に使い始めたのが、「miro」というオンラインツールでした。他のグループが使っていることを聞き、自分たちも、と思ったら、大正解でした。実際にホワイトボードや壁を囲ってポストイットをペタペタと貼っていく感覚で、この日は「どんな時に人は動くか」というベースの問いの肝の部分を深掘って見ました。

記念すべき、初miroワーク。
なんとなく世界地図みたいになりました。

ここで得たインサイトは、人が動くのは主に、
·       根本的な欲求を満たすため
·       人との繋がりを持つため
というものでした。
 
まさか、このインサイトと、一つ前の「感情」というキーワードが最終発表のコアに含まれるとは考えてもいませんでした。
 
ちなみに、毎回グループワークを終えると、この頃にはしっかりしたメモは残さなくなり、メンバーに共有するのは上記のようなmiroのスクリーンショットと、「今日のインサイト」という数枚のまとめでした。これでもついてきてくれたメンバーにはこの場を借りて、感謝したいと思います!

回を追う毎に「くだらなインサイト」も増えていき、
チーム力は高まりましたw

ただ、1回グループワークがうまく行ったからと行って、完全に窒息状態から開放された訳ではありませんでした。依然、我々の乗る艦は宇宙を彷徨っていたのです。

吹っ切れたことによってまとまりを見せ始めたワーク

グループワークは、「どのようにして、スポーツを通して、人を動かせるのか」という問いを要素分解して深ぼることによって、最終的なアウトプットに近づいていく感じはしていた。ただし、やはりまだゴールは遠く感じたし、そもそもゴールがどこなのかも見えていない状態でした。
 
ワークをしているのはいいけれど、システムの中身を理解すればするほど、中身が誰の立場かによって変わるので、着地点も曖昧になってしまいそうでモヤモヤしていた。12月9日には講師陣によるレビュー会というものも控えており、そこまでにはある程度自分たちの方向性を決めようと思い話し合った結果、特定の視点に絞った方がいいのかもしれない、ということになり、「アスリート」の立場での人の動かし方をみていこうか、と全員ある程度納得していました。やはりアスリートは近年においてメッセージの発信元でもあり、メッセージを経由するプラットフォームにもなり得るため、「スポーツを通して人を動かす」システムにおいては良い対象かと考えました。

問いを要素分解したことは一つのターニングポイントでした

また、このタイミングでグループ名が「カーネギーズ」に決まりました!
 
由来はとてもシンプルで、「人を動かす」という本の著者であるデール・カーネギーさんから取りました。また、この本はメンバーの(倉澤)由莉香のバイブル的な存在でもあるらしく、自分もその言葉につられて読み始めましたが、最終発表でも活用できる内容が非常に多く詰まっていました。
 
さて、最初のレビュー会では今までワークしてきた内容や方向性は伝え、講師陣にも抽象度が高いが故の苦悩も理解していただけました。そして、アスリートにフォーカスするよりも、再度抽象度を高くチャレンジしてほしい、という言葉をもらいつつ、「どのように動かす」という内容の範囲を決めてみるのもいい、とアドバイスいただきました。つまり、スポーツの中で完結する動かし方なのか、BLMのような社会的なメッセージでスポーツ以上のことを含めるのか、など。この辺りは、その後グループで話し合い、スポーツの中で留めておこう、という事になりました。やはり、社会的であったり政治的な内容をスコープに含んでしまうと、スポーツ以外の要素の力が色濃くなってしまい、ピュアにスポーツの力で動いているとは言えないからです。また、スポーツの中でも影響力のあるアスリートや発信者がなにかメッセージを発信しているから人が動く、という事象も回避したかったので、アスリートにフォーカスするのもやめました。
 
ちなみに、このレビュー会ではかなりダメ出しをされる覚悟で挑んだんですが、予想外に優しく、自分には「もっと抽象度高く突っ走れ!」というエールに聞こえたので、吹っ切れましたw
 
この後、グループで再度アウトプットのイメージを共有したり、実は最初から全然組んでいなかったスケジュールも組んでみたりしました。そして、2回目のレビュー会が12月23日にあり、「人を動かす事例を見たり、ライフサイクル分析をしてみては?」など、更にワークの進め方についてのアドバイスをいただき、その先もやることが見えてきました。ちょうどこの頃チームとしては、アウトプットとして色んな場面に使えるフレームワークを作るという方向でまとまってきました。

スポーツで人が動いた事例を沢山みました。

そんなこんなで、なんとか「どのようにして、スポーツを通して、人を動かせるのか」の全ての要素に対するワークを終え、年末を迎えることができました。

それぞれの要素に対して深堀りしたことで、
問いがどんどんクリアになりました。

快調に始まった2021年

2021年になり、三が日が終わる前に、気づけばオフラインでグループワークをしていました。1月3日にドイツにいる飯髙くん以外(彼もリモートで参加)の4人で集まり、ワークを進めることができました。やはりホワイトボードを前に直に意見を言い合える環境はオンラインでのワークには無いものがありますし、コロナ禍ではありますが、できてよかったと思っています。

オフラインでは、アドバイスを頂いていた
ライフサイクル分析を行いました。

この後、1月9日にはSXLP全グループの進捗報告会たるものがあり、他のグループの完成度の高さなどを聞き、少々焦り始めました。割と他のグループはアウトプットのイメージがしやすいものでしたが、カーネギーズは着々と進んでいる感覚はあるものの、どこに着地すればいいか、という曖昧な部分がありました。この時点で発表までは1ヶ月あまり。週1回のペースで集まっていた自分たちも、集まれる時間が5、6回。果たして最終発表の際にちゃんとしたアウトプットが出せるのか、という不安は大いにありました。
 
そして、この頃から問いに関する疑問を持つようになりました。今まで「どのように、スポーツを通して、人を動かすか」と設定していた問いの「通して」という部分に違和感を持ち始めました。というのも、「通して」となると、スポーツ的では無いメッセージで人を動かしたい時に、スポーツを活用する、というイメージがあるし、政治的なメッセージでプロパガンダ的に人を動かす例もあるのかな、とも思った。すぐに答えは出なかったですが、最終的には「どのようにして、スポーツで人を動かせるのか」に落ち着く事になりました。
 
ここからは、ひたすらそれぞれの要素について考えてみたり、事例を問いに当てはめてみたりしていきました。
 
例えば、何で人が動くのか、という要素に関して、飯髙くんが「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」というTED Talkを共有してくれたり、人は欲求で動くというけれど、どのレベルの欲求で動くのかを探るために「マズローの法則」をみてみるなどのリサーチも入れました。

事例を問いの要素の当てはめたワークは
結構ヒントになりました。

でも、まだまだインプットが必要だと思い、2019年にラグビーワールドカップを成功に導いた、当時の組織委員会のマーケティング部長にヒアリングを行いました。
 
話の中で、人を動かすために働きかけた人々の感情を聞けたし、大会の5年前からどれほどの綿密な計画が立てられていたかを知ることができました。「そりゃ動くよな」と納得すると同時に、自分たちが導き出していたインサイトが間違っていなかった、という裏付けになったので、ここで聞いた話をどうやって最終発表に使うかも考える必要がありました。

メモだけでは伝わらないものがありますが、
本当に濃厚なヒアリングでした。

そして、気づけばもう1月も後半になっていました。アウトプットはフレームワークの提供ということを決め、どのように構成していくかを考えていくだけ!と考えていましたが・・・現実はそこまで楽ではありませんでした。そこから、グループワークが始まって以来、一番モヤモヤな3週間が始まるのでした。

「スポーツならでは」を求め過ぎて迎えた、堂々巡りの日々

この時点で、今までのインサイトから最終発表の際のフレームワークはほぼ決まっていました。「スポーツで人を動かすための3 STEP」という仮のものを作成し、
1.    Whyから始めるストーリー創り
2.    動かしたい人の感情や欲求を知る
3.    ストーリーの伝達を手助けする接点

というものを組み立てました。

最終発表に向けたフレームワークの大枠に納得感はありました。

ただ、各ステップの発表準備をする上で、全体を通して立ち返るテーマの様なものがなく、なかなか進めるのに苦労しました。
 
そこで、全てを通して、「共感」が人を動かすキーポイントだと考え、各メンバーで共感でどのように人が動くのかリサーチをすることに。結果として、共感自体は感情と強い結びつきがあって、前述したTED Talkで出てくるように、「Why」からストーリーを伝えることが共感を生み、感情を動かし、脳にも働きかけ、動かす、という大まかな働きがわかったものの、やはり「人が動く」現象に関しては、共感以外の様々な要素が関与しているため、一概に立ち戻れるポイントにはなりませんでした。
 
そのため、各パートを説明するにあたっては、今まで見てきた事例を紹介しつつ、そこに至った理由を説明すればいいのでは、というところで一旦は落ち着きました。
 
最終発表に向けてもう一つのモヤモヤポイントは、フレームワーク全体に関してでした。
 
それは、今回作成したフレームワークがスポーツに限らず活用できる、という点でした。もちろんこのフレームワークを短期間で沢山行ったグループワークから抽出できたのは良かったのですが、「人を動かす」ことをスポーツのコンテキストで語っているだけで、他の場面で活用できる、ということでした。これはチームの中でもかなり議論したことで、せっかくこのSXLPでアウトプットをするのであれば、「スポーツならでは」の要素を入れて、ブラッシュアップしていきたいと考えていました。
 
しかし、それを組み込むのは非常に難しいもので、まず、「スポーツだけが持つ価値」を探す必要がありました。そこで登場したのが、SXLPの2期グループである「Redesign and Play」が作成した「スポーツ独自の価値:16類型」でした。

大変参考にし、何度もにらめっこしていた「16類型」

この辺りから、特に集まった際にはグループワークをせず、この16類型でスポーツでしか提供できない価値はないか、を求めていきました。なぜここで苦戦したかというと、スポーツ「でしか」や「でなきゃ」人を動かせない要素や価値を検証するには、他の物事の価値と比較しなければならないという点でした。例えば、芸術やお笑い、エンタメなどと比べて、スポーツは16類型にある価値が突出してあるのか、と言われればそうでもなかった。

「Unpredictable」という価値をみてみても、スポーツはもちろん結果がわからないから面白いのだけれど、お笑いもオチがわからないから面白いし、そこに価値がある、といえる、といった具合でした。また、それぞれの価値はスポーツ好きであれば、もちろんスポーツならでは、と思う部分も強いですが、それはある程度のバイアスがかかっている可能性もあることが言えます。もしかしたら、その比較が難しいということや、他の物事と置き換えられるということがインサイトだったかもしれません。
 
それでも、スポーツならではの価値はあるのではないかとお考え、他のエンタメなどで置き換えられる価値だとしても、スポーツではより色濃く発揮される価値を組み込めないか、だったり、スポーツの方が多くの人に対して影響力があるため、「深さ」や「幅」があるんじゃないか、という意見もありました。そんな状況で、とりあえず最終発表の資料は作っていくしかありませんでした。

システムを再確認することで見えてきた、スポーツ的な要素

これだけ書いて来ましたが、まだ最終発表内容に至っていませんwというのも、やはりそこに至るまでのプロセスこそが本プロジェクトの醍醐味だと思いますし、この機会だからこそ伝えられることが多いと思っています。なので、もう少しお付き合いください!
 
ただ、ここから怒涛のまとめ上げに入ります。
 
やはりスポーツバカなので、これだけディスカッションをしても見つからなかった「スポーツならでは」要素をグループで集まる時間以外でも考え続けました。一からスポーツで人を動かすシステムを見つめ直し、大きな成功を収めたラグビーワールドカップを例にスポーツならではの価値を探していました。
 
すると、大会のマーケティングの一貫で「4年に一度じゃない、一生に一度だ!」というフレーズが出てきたのを思い出し、これだ!と思いました。つまり、スポーツには繰り返すことのできないモーメントがあるということ。自分はこれを「Transiency」、つまり、「刹那的な」という価値と呼びました。このことをグループに伝えると納得感も得られ、グループにアドバイザーとして参加していた、2期メンバーで運営メンバーでもある広澤さんからも、刹那的な要素はスポーツをする、みる、支える、利活用するステークホルダーに当てはまる、という点も指摘され、ますます納得感が増しました。
 
そして、もう一つ資料作成する上で気づいたのは、フレームワークは特に順序を辿るSTEPではなく、スポーツで人を動かす上で、そのシステムの中でより深堀りしないと行けない要素、ということでした。
 
最後に、最終的なアウトプットはキャッチーでわかりやすくしたい、という意見もありましたし、このフレームワークは自分たちも含め、色々な人たちに試して欲しいという希望もあったため、ワークシートやチェックシートのようなものも含もう、ということになり、発表2日前くらいに各メンバーがまとめた内容をつなぎ合わせ、プレゼン資料をなんとか完成しました!
 
ということで、前説がかなーり長くなりましたが、以下発表内容です。

「スポーツで人を動かす」最終発表

そもそも、自分たちがSXLPで学んだシステムデザインの中のどこに今回のプロジェクトが当てはまるのか、考えてみました。

本プロジェクトは、システムデザインの
プロセスのフレームワークの中枢を担っていました。

システムの中枢は、問いの部分である「Innovative Problem Statement」、解決したい課題「Defined Problem」、課題を解決することで生まれる価値「Proposed Value」と、課題解決するための方法である「Solution Concept」からなります。そして、我々のグループワークでは、それぞれ以下の様に当てはめました。
 
Innovative Problem Statement
これは今回のテーマでもある「どのようにしたら、スポーツで人を動かせるか」。ご存知の通り抽象度がかなり高い問いでしたが、やはり多くの人が「人を動かす」ことに苦戦をしていると思いますし、スポーツにおいても試合に人を呼ぶ、といった人を動かす行為も難しいため、非常にタックルしがいのある問いでした。

マーケターにとっても「人を動かす」ということは
ハードルが高いようです。

Defined Problem
次に、解決したかった課題は、「スポーツは人を動かす・巻き込むために何を
どう活用できるか」ということでした。そのために、システムを再確認し、動かすためにどの部分を活用できるのかを見ていきました。

最終的な「人を動かす」システムをこのように設定しました。

Proposed Value
人を動かすためにどのようにスポーツを活用したらいいかを判明させれば、多くの人の悩みを解決し、スポーツの価値を伝えられ、より豊かな世界を構築できる、と考えました。「より豊かな世界」とかなり大きな話にもなっていますが、これは最初に説明したようなバリューグラフを作成すると、各個人が目指す姿の上位理由には「豊かな生活のため」であったり「人々の幸せのため」などというものがあったため、スポーツで人を動かすことで、このようにスポーツにとどまらず、人々の生活にもポジティブな影響を起こすのではないかと考えました。

それぞれの視点から見ても上位価値は
スポーツにとどまらないことがわかりました。

Solution Concept
課題を解決するソリューションは先にも伝えた通り、フレームワークの提唱でしたが、それを作ることによって、沢山の人に活用してもらい、最終的な価値としては、その先の動いた人たちの生活が豊かになれば、と考えています。

我々の提供するソリューションが
多くの人を影響できればと考えました。

では、最終的に発表したフレームワークはどの様なものだったのでしょうか。

スポーツなだけに、「汗をかいて」人を動かす

事前に発表内容にキャッチーで覚えやすい要素があった方が良いのでは、という話はありましたが、まさにそれを狙ったフレームワークのネーミングに至りました。
 
我々が提唱するフレームワークはスポーツで人を動かすために抑えたい要素「S.W.E.A.T.」(スウェット)としました。スポーツにはやはり汗がつきものですし、人は割と汗をかかないと動かせないし、ちょうど我々が見ていた要素の頭文字を取ったものとなりました。
 
それでは、一つずつ見ていこうと思いますが、それぞれの要素でヒアリングも行ったラグビーワールドカップの中でも、釜石を開催地にするために、組織委員会がどのように
ワールドラグビーを動かしたか、の事例に当てはめ、よりわかりやすくなるようにしました。

それぞれの要素がシステムの
どこに当てはまるかを視覚化してみました

Whyから始めるストーリー創り(Story / Why)
ここは比較的にわかりやすいと思いますが、沢山人が動いた事例を見ていたら、どれもストーリーがあり、そのストーリーの中心に、何で人を動かしたいのかが主張されていました。また、それを裏付けるように、先に話に上がったTED Talkのサイモン・シネックさんが「Why」は「How」や「What」という要素より抽象度が高く、かつ大脳辺縁系という脳部に働きかけ、それが感情や信頼、行動を促す、ということが言えました。

人を動かす、というテーマとして、大変参考にした動画です。

この要素をラグビーの例に当てはめてみると、組織委員会がなぜ日本や釜石で開催したいのか、を考える必要があり、それがストーリーを創る上で重要だった復興や地域の活性化、という文脈でした。

今回の事例の流れをみると、ここのストーリー創りが
最初にできたと想定しました。

動かしたい人の感情や欲求を知る(Emotion / Empathy)
タイトルではこの部分は感情や欲求としていますが、もう一つ、自分たちの中では決定的な要素とならなかった、共感、も含んでいます。
 
この辺りはスポーツとの親和性を強調しましたが、3点とも割と発表資料を見ればはっきりしています。そして、重要なのが、どのような感情・共感・欲求ポイントが動かしたい対象にあるか理解した際に、ストーリーを再構成することです。そうすることによって、より対象者を動かす可能性が上がる、と我々は考えました。

それぞれのツボを理解すると同時にそれに合わせて
ストーリー構成の変更も有効と考えています。

ラグビーの事例では、最終的に動かしたい対象がワールドラグビーだったため、組織委員会としては彼らの感情、共感、欲求のツボを知り、そこを突くストーリー創りが必要でした。そして、結果からみると、それがうまく行ったため、釜石が開催地として選ばれたのではないかと考えます。

最初の2要素でワールドラグビーを動かせた様に見えますが、
間にもう一つの要素が必要でした。

ストーリー伝達の接点を探る(Assistance / Tools)
そして、3つ目の要素が、最終的に動かしたい対象を動かすためのサポートツールです。ここは人で物でもいいんですが、要はメッセージを伝えるために対象者に辿らせるジャーニーの途中に的確なタイミングやマイルストーン、キーパーソンなどいないか考え、彼らを動かしたり、それを経由することで近道にできないか、ということです。

対象者のジャーニーの中には、
メッセージをより有効的に伝えるツールが沢山あります。

釜石の例では、ワールドラグビーを動かすために、組織委員会がうまく活用したのが地域住民の方々で、彼らを動かすためには更にストーリー創りが必要だったと言えます。そして、その住民の方々が、視察会という場で組織委員会を強くサポートしてくれて、最終的にラグビーは釜石にやってきたのです。

間にサポート要素を加えることで、
よりスムーズに人が動く可能性もあります。

上記を全て説明した上で、着目したスポーツならではの価値である「Transiency」についても説明し、更に、Transiencyと16類型やフレームワークに登場する要素をかけ合わせる事によって、2019年のラグビーワールドカップは沢山の人を動かせたのではないか、というところまでをセットでプレゼン内容に含めました。

「人を動かす」フレームワークによりスポーツ的な要素を加えた
「S.W.E.A.T.+T」と最終的にネーミングしました。

また、色んな方に今後このフレームワークを活用してもらえるように、ワークシートを作成しました。前述したとおり、こちらは最後の最後で作ったもののため、まだまだブラッシュアップが必要となります。各項目の記載欄が小さかったり、バランス悪かったりするのは大目に見てもらえればと思いますが、このワークシートは実際に色んな方々に使ってもらって、そのフィードバックを持って改善していければと考えています。自分たちでも実際に使ってみようと思います。

使った方はどんどんご意見ください!

あとがき:今後SXLPに参加する方へのメッセージにかえて

 そもそもですが、SXLPに参加した当初、そしてグループプロジェクトが始まるというタイミングでは、自分が課題を挙げて、リーダーとしてグループを持つことは考えていませんでした。現に、ショートピッチの一回目は立候補せず、他のどのグループに入ろうか考えていたくらいです。

 では、何で2回目のショートピッチでテーマを挙げたのか。

他のグループのテーマが面白そうじゃなかった、ということでは全くありません。むしろ、最終発表を聞いていると、全部に関わっていたかったし、今後なにかアクションがあるのであれば、是非お手伝いをしたいと考えているくらいです。でも、自分が率先してやることで、色々と学んだ数カ月間の成果を試せると思いましたし、自分ごとにすることで、フレームワークを体に覚え込ませることができたりと、色んな意味で成長できるのかな、と思ったからです。

個人的にはリーダーシップや、マネジメント能力が全然無いと思っていて、そういう部分を磨きたいと思っていました。文中でもわかると思いますが、結局そこはあまり成長せず、仲間に助けられっぱなしだったんですがwそれでも、これだけ難しい課題(自分で設定しているんですが)にどこからタックルするか、というところから考えられたし、一定の解までチームとして導けたので、非常にためになりました。

もう一つは、自分の視野を広げることでの成長です。それぞれが違ったバックグラウンドのメンバーでチームを組み、議論やワークをする際も沢山の意見があると考えたので、そう思いました。SXLPでそれまで学んだフレームワークや考え方を実践するいい機会とも捉えていたので、行動の範囲も広がったと考えています。

そして、スポーツを活用したり、スポーツの中で仕事をする上での成長も自分に期待していました。SXLPではPhase 1〜2を通して、個人的に持っている課題を講義の際に実施する個人ワークの題材として活用しますが、個人的には仕事でいつも考えていることを考えたくありませんでした。そこで、最後のプロジェクトにおいてはどんなテーマでも取り上げることができたので、誰もが課題として持っているテーマを選択しました。最終的に「スポーツで人を動かす」ことがシステム的に捉えることができるようになったと考えているので、今後の仕事の場でも活用できると信じています。

なかなか人間はたった半年で成長できないと思いますが、個人的には少しできたと思っています。Phase 1から沢山今まで知らなかったシステムシンキングが多少身につき、困った時に使えるフレームワークを覚えたりしました。Phase 2〜3では多くの講師陣から貴重なお話を聞くことができ、彼らと繋がることで、今後もアドバイスを求められるエキスパートが仲間になりました。そして、Phase 4のプロジェクトでは、最終的には採点はされないけど、なぜか成果を出さなければならない、という自分たちを自分たちで追い込む機会が与えられ、改めて、「みんなスポーツバカだなー」ということが再確認できましたw

本当に素晴らしい半年間でしたが、是非多くの人に経験していただき、同志が増えてほしいです。

この場を借りて、SXIのメンバー各位、SXLP運営メンバーの方々には感謝したいと思います。本当にありがとうございました。

おまけ

 一番最初のショートピッチをする前に、「このテーマどうでしょう」と軽い感じで運営メンバーの千葉さん(SXLP1期)と(細田)真萌(SXLP2期)に相談したら、二人とも「めちゃくちゃいいじゃないですかー!」と絶賛してくれて、お調子者の自分はそれに乗せられてまんまと難しい課題に取り掛かることにw
橋口(SXI創設者)さんも仰ってましたが、「抽象度高いワークはやってる人は辛いけど、見ている人はめちゃくちゃおもしろい」というのが、相談した二人の真意だったんですね。ただ、橋口さんのその言葉で「楽しませてやろうじゃないか!」と思えたのも事実なので、結局踊らされていたことには変わりないんですがw

Sports X Leaders Program 5期 参加者募集中!

■概要
▼Phase1(基礎知識の学習)
オリエンテーション:7/31(日)
講義日:8/6(土)、8/20(土)、8/27(土)、9/3(土)、9/10(土)、9/24(土)、10/1(土)
特別講義(プレインイングリッシュ)
日程は受講開始後に調整(任意参加)
▼Phase 2 <日本、海外スポーツ業界で働くゲストスピーカー講義>
10/15(土)、10/22(土)、10/29(土)、11/5(土)、11/12(土)、11/19(土)
▼Phase 3<海外実地研修>
9月末~11月に1週間程度で調整中
▼Phase 4 <グループワーク>
11/20(日) ~ 2/24(金)
最終発表会
2/25(土)

■会場
原則zoomによるオンライン講義、対面講義は都内で開催予定

■参加費
50,000円(税別)(海外研修等を実施する場合は別途参加者負担になります。)

■対象者
既にスポーツ業界で活躍中、もしくは活躍できる潜在能力がある方

■応募期間
2022年6月27日(土)~7月10日(日)

■応募方法
下記HPより、詳細をご確認の上ご応募ください
https://sportsxinitiative.org/recruitment2022.html

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