Sports X Initiative
【3期レポート#6 スポーツワンダーランド】『超一流のスポーツ選手を輩出する為の理想的な環境提供についての考察』:どうしたら、スポーツを通じて、人や社会に価値を提供できる(超一流の)人材を育てられるか
見出し画像

【3期レポート#6 スポーツワンダーランド】『超一流のスポーツ選手を輩出する為の理想的な環境提供についての考察』:どうしたら、スポーツを通じて、人や社会に価値を提供できる(超一流の)人材を育てられるか

Sports X Initiative

Sports X Leaders Program(以下、SXLP)5期の募集を6月27日(月)より開始しました。

★募集要項はこちら

各々がどんな問いを立て、システム思考を用いて議論やワークをし、最終的なアウトプットをしたのか、ぜひご覧ください。※本原稿はSXLP3期終了直後に執筆していただいた内容です。


「最終目標は、『本家を超える、日本版IMGアカデミー』の設立」

私たちのグループは、「超一流のスポーツ選手を輩出する為には、日本版IMGアカデミーみたいなものが必要だよね、と考え、IMGアカデミーに関する調査からスタートさせました。なので私たちのご提案で出てくるいわゆるアカデミーという言葉は、「理想的な育成環境を有する日本版IMGアカデミーのようなモノ」、という風に理解をして頂ければ幸いです。IMGアカデミーについてはこの後ご説明させて頂きますが、Jリーグのアカデミーとは少し種類が違いますので、予めご了承ください。

IMGとIMGアカデミー

IMGは、芸能や音楽、アート等、エンターテインメント系に関わるアメリカの大手企業、エンデバーグループに属していて、主にスポーツ関連ビジネスを展開している会社です。
https://imgjapan.com/endeavor-network/

IMG自体は、世界的なプロゴルファーとして名高いアーノルドパーマーの友人で弁護士のマーク・マコーマックが、パーマーをマネジメントする世界初のマネジメント会社として1960年代に設立したモノです。マコーマックはその後、芸能、モデル部門のマネジメント、イベント企画運営やライセンスビジネス、番組制作、デジタルメディア分野にも進出する等して一大スポーツ産業を創り上げた、スポーツビジネスの先駆者的存在です。ゴルフ界で有名なプロアマという仕組みを考えたのも、マコーマックです。

そして、そのマコーマックが新たに始めた事業の一つがIMGアカデミーであり、IMGアカデミーは、今ではIMGが取り組む9つの基幹事業の一つになっています。日本では、錦織圭と盛田ファンドで有名になりましたが、アメリカ国内で収益化しやすい8つの競技、テニス、バスケ、野球、ゴルフ、サッカー、陸上、アメフト、ラクロスで活動を行っています。
https://www.imgacademy.jp/boarding-school

こちらが実際の施設ですが、テニスコート55面、野球場9面、サッカーコート16面、更にはゴルフ場隣接と、世界最大のスポーツ施設を備えるだけでなく、トレーナーやドクター、栄養士など様々なエキスパートが常駐しています。また、温暖なフロリダという気候も相まって、各競技の世界的トップアスリートがオフシーズンの合宿地として利用したりしています。話を伺ったときにはちょうどアメフトの49ersが合宿していたそうですし、少し前にはサッカーブンデスリーガのフランクフルト、日本代表の長谷部誠が所属しているチームも合宿に来たと言っていました。また、オンシーズンにはサッカーU20W杯の北中米カリブ海予選や、世界三大テニス選手権の一つと言われているエディハーインターナショナル等の大きな大会も行われている為、一年を通して、世界トップレベルの選手がこのアカデミーでスポーツをおこなっているということになります。

そして学業のほうですが、このアカデミー自体は、世界80か国から生徒が集まる国際色豊かな全寮制の中高一貫校になっています。日本ではスポーツに注目が集まりがちですが、実は、大学進学率95%の超進学校であり、その成果の根源となっているのが、アスレティック&パーソナルディベロップメントという、学問と体育の他に分類される、オリジナルメソッドを用意していることです。
https://www.imgacademy.jp/boarding-school/athletics/athletic-personal-development

これは、日本語に訳すと、体育を通じた自己啓発、という意味なのですが、つまりはスポーツを教育に活用して人材育成を行っているということになります。特にメンタルコンディショニングやリーダーシップ、ライフスキルやキャラクターといった部分を鍛えているというのが、日本にはない学校教育における特徴になります。

IMGアカデミーは、スポーツエリート養成校ではない

そして私たちは、「IMGアカデミー=アスリートだけを養成しているわけではない」ということに気が付きました。どういうことかと言いますと、確かに、IMGアカデミーは、錦織圭、ゴルフの今平周吾をはじめとした優秀なプロスポーツ選手を多数輩出していますし、2019年には野球とバスケで全米No.1になりました。スポーツエリート養成校と言っても間違いではないと思います。

しかしながら、IMGアカデミーの理念は「全ての人々が成功へと到達する為に、彼らの持っている潜在能力を最大限に発揮させる。」であり、スポーツを教育に活用して、スポーツだけに留まらず優秀な学生を輩出しようとしているということがわかりました。また、スポーツ特待生しか入学できないという誤解もありますが、実際は誰でも入れますし、学生にはトレーナーやスポーツビジネスを志す子もいます。全員が全員、プロアスリートを目指しているわけではないのです。

つまり、この世界的な養成機関は、「アスリートエリート養成校」ではなく、「スポーツを教育に活用して、スポーツ業界で活躍する人材を輩出する為のエリート養成校」だということになります。事実、IMGアカデミーの大学進学率は95%ですし、プロスポーツ選手になる割合は2%未満だそうです。なお、プロスポーツ選手にならなかった卒業生のうち、スポーツの世界にも進んでいない人もたくさんいると思うのですが、彼らの進路や現在の姿を追うことはできていない為、今回はあえてスポーツ業界で活躍する、と限定しています。そしてこの時点で、日本で言う一般的なスポーツ界のアカデミーとは持っている機能が明らかに違うなということはご理解頂けたと思います。

日本の育成システムは被害者を産んでいないか

日本人の多くは、スポーツに特化した学校やアカデミーというと、その競技”だけ”に専念する、と捉えがちなのではないでしょうか。しかしながら、IMGアカデミーはそうではありませんでした。調べれば調べる程、勉強もしっかりやっている、周りに意識の高い人たちがいる、人としても成長できそう、ということに気づきましたし、それと同時に、日本にはそういった環境が存在しないのではないか、だから競技だけに専念しているという勘違いをしてしまったのではないか、とより強く感じるようになりました。

アメリカと日本の学校教育の違いというのもありますが、アメリカの場合、大学に進学する為には、日本の中学3年から高校3年までの4年間における内申点が一定数を超えていなければ、そもそも大学には進学できないという決まりがありますので、必然的にみんな勉強しなければならない環境が生まれます。一方、日本にはそういった決まりがありませんので、スポーツと学業の連携というのが、あまりうまく図れていないのではないかという印象を受けるようになりました。

そこで、日本の高校における体育科系コースの偏差値を調べてみたところ、総じて勉強が疎かになっているということがわかりました。横軸の左が普通科、右側が専門科目の保健体育科、縦軸は上が文系や理系コース、下は保健・体育系コースという分け方にしていますが、普通科の保健体育コースではなんと偏差値の平均は42でした。これには色々な問題が見え隠れしていると思うのですが、この偏差値から見たときに総じて言えることは、「若年層からスポーツの道に進むという選択をした結果、将来の可能性を自ら狭めてしまっているのではないか」ということだと思います。偏差値教育が是だということではありませんが、「勉強もしっかりと行うスポーツ進学校」というモデルがあっても良いのではないかと思いました。
 
ところで、つい先日、甲子園優勝校の主将を務めた選手が強盗致傷事件を起こして裁判中という記事を拝見しました。

2021年1月27日 日刊スポーツ記事https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202101270000739.html?utm_source=headlines.yahoo.co.jp&utm_medium=referral&utm_campaign=%E5%B0%86%E8%A3%81%E5%88%A4%E3%80%8C%E6%94%AF

この選手はスポーツ推薦で大学に進学しましたが、パワハラを受けていた為に母校の先生に相談したところ、先生は、「耐えろ。そういう世界がある。耐えてみろ」と突き放し、更に退部の報告を受けた際には、「かけがえのないものをやめてしまうことを厳しく叱責した」そうです。その後、選手は事件を起こしてしまうわけですが、裁判では、「野球をやっていない自分は価値がないと絶望した」と述べ、母親は「野球のことしか考えないで生きてきて、世間知らずの本当にバカな子だと思いました」と証言したそうです。甲子園で優勝した高校のキャプテンとなれば、例えプロになれなかったとしても、社会で生き抜く上で必要な能力は十分に持ち合わせているはずだと思うのですが、野球に全てを懸けすぎてしまった為に、野球から離れた瞬間、全てを失ったような感覚に陥ってしまったのではないでしょうか。また、野球に専念し過ぎたことで、本来学ばなければならない、人として生きていく上で最も重要なことを学ぶ機会を逸してしまっているのではないか、そのことで野球以外の人生の選択肢を選ぶという自らの可能性を狭めてしまっているのではないか、ということが推測されます。

なお、この選手は野球でしたが、これは多分、日本のスポーツ全般で言える課題なのではないかと思います。そう考えると、この選手はある意味では日本の育成年代のシステムにおける被害者の一人なのかもしれません。

だからこそ私たちは、彼のような被害者を一人でも少なくする為にも、勉強もスポーツもしっかりと取り組めて、スポーツ選手にならなかったとしても社会人として成功できる、スポーツ進学校のようなものを作らなければならないと考えるようになりました。
 
尚、Jリーグでは、2020年に不祥事が相次いだ際、全選手を対象に対策プログラムを開発するという発表を行っていますが、このプログラムは、プロ選手だけでなく、13~23歳、いわゆる育成年代の選手に最も力を注ぎ、定期的に人格形成の教育を行っていく方針となっています。方法は違えど、私たちが感じた課題感と同じことをJリーグも感じているのではないかと思います。https://www.nikkansports.com/soccer/news/202011160000463.html

日本スポーツ界の課題

ところで、育成年代の方と育成環境について議論をしていると、「日本にないのなら、世界に送り出すのはどうか」と考える人がいます。これは、短期的な成果で言えば即効性もあるし、行く子たちを見れば素晴らしい決断をしたとは思います。ただ、ことはそう単純な話ではないと私たちは考えています。
 
優秀な選手を海外に送り込んだ場合、日本国内の指導者は、その選手を育てるという機会を逸してしまいます。選手を育てる機会を逸してしまうと、指導者には、「世界トップレベルの選手を育てた経験」が蓄積されません。すると、この経験を活かして、その次の世代の選手を育てることもできなくなります。つまり、優秀な選手を海外に送り込めば送り込む程、日本の指導者のレベルは衰退していくのではないかと考えることができるのです。
 
吉祥寺にあるknotという時計メーカーのパンフレットに、こう書いてありました。
「MADE IN JAPANは、どこへ行った。いま、国内の機械式時計の多くは、製造コストの安い海外でつくられたものです。MADE IN JAPANの刻印を目にするのは、一部の高級機械式時計だけでしょう。手にする機会の減少は、技術の継承さえも減らしました。そう、日本の時計づくりは、モノづくりは、絶滅の危機に瀕しているのです。」
https://www.wantedly.com/companies/knot-designs/about
 
スポーツ界においても、同じことが言えるのではないでしょうか。私たちは、日本の指導者を絶滅の危機にさらさない為にも、国内で育てる意義にはこだわっていきたいと考えています。

世界のトップジュニアが競い合う世界トップレベルのアカデミー

ところで、世界のトップジュニアが通うアカデミーはどうなっているのでしょうか。日本における理想的な育成環境の答えを追い求める為、スポーツからのアプローチとして、世界の著名なアカデミーについても調査を進めました。

主に以上の6つのアカデミーについて調査をしましたが、我々はここで興味深い共通点に気づきました。それは、いずれもが、大学進学を前提とした学校教育と深い連携が為されているということです。アスパイアは母国の通信教育で高卒認定をとるようにしていたり、スパニッシュサッカースクールはインターナショナルスクールと連携し、アメリカへの留学斡旋も行っていました。ナダルとムラトグルーは、アメリカの大学に送り込むことを目的に学校を展開しています。また、トニーパーカーはIBを導入していますが、更に「卒業生の就職率100%」を目標に、職業訓練所まで併設しています。IBは、世界で通用する国際的な高卒認定が取れるというものです。
 
NBA選手だったフランスのトニーパーカーは、アカデミーを設立した意義を「自分も高校卒業を前にして、学校かバスケかの選択を迫られた。自分は成功したからよかったけど、でも95%の人は多分成功しないだろう。だから僕はこの問題を解決すべく、子供たちに他の選択肢も与えられる学校を設立した」と述べています。
 
また、ナダルアカデミーも、「多くのテニスプレイヤーは大学に入学する前から大学を中退しなければならない可能性を感じており、これは長期的な障害となって、将来の選択肢を制限している可能性がある」と書いています。また、テニスと学問を並行して学ぶために、インターナショナルスクールを併設し、アメリカの大学に進学する奨学金制度も用意した、と書いてあります。
 
そしてもう一つ有名なテニスのムラトグルーテニスアカデミーでも、学生がスポーツと教育を両立できる真のプログラムを提供し、プロとしてのキャリアや米国での大学教育、スポーツキャリアをスタートできるようにすると書いてあります。
 
これだけみんなが学校大事、教育大事と言っているのであれば、一流のスポーツ選手になる為には、まずは人として一流の人間を育てる必要があるのではないでしょうか。トニー・パーカーやナダルのような世界の超一流選手がこれだけ教育について真剣に考え、アカデミー設立と同時に学校教育との連携を測っているということは、彼らスーパースターが努力に努力を重ねてようやっと辿り着いた境地には、教育が大事だと思わせる何かがあったのではないかなと思います。もちろん、こういうアカデミーに通う学生全員がトップアスリートになれるわけではないので、ちゃんと勉強しておいたほうが良いということもあると思いますが、超一流の選手になる為に必要な教育というのも、きっとあるのではないか、そう思いました。

世界と日本の最先端教育

次に、一流のスポーツ選手を育てる理想的な育成環境を更に追求する為に、今度は教育的観点からのアプローチとして、世界と日本の最先端教育について調査を進めました。教育的アプローチについては、視察や関係者のヒアリングが十分ではありませんので、この後も色々と深掘っていきたいと考えていますが、現状日本で話題や人気となっている以下の5校について調べ、ある共通点を見出しました。

各学校の特徴については時間がないので説明は割愛しますが、これらの学校の共通点がこちらになります。

日本の教育界における、現状(As Is)と理想的な環境(To Be)でまとめていますが、日本の教育は、皆さんご存知の通り、一元学習、一斉授業で、先生が一方的に話し、生徒はそれを聞いて覚えるという授業形態が主流でした。これは、みんなに同じ機会を与えるという意味では公平で正しいものと思われがちですが、はるかに優秀な子と勉強が苦手な子が、同じ授業を同じ時間をかけて受けることで、差が出やすい仕組みになっています。

本来理想的な勉強の環境というのは、勉強のできる子とできない子それぞれに対して、その子の能力に合わせた学習スピードで、適切な負荷の勉強をさせてあげて、同じ知識レベルにまで持って行ってあげることだと思いますが、一方的で一元的な一斉授業による知識の提供では、それができにくいという問題点がありました。これを解決する為に、カリフォルニアにあるハイ・テック・ハイという学校では、個々の能力に合わせた授業を個別に提供していますし、このことを公正だ、と言っています。そして、教師のスタンスは、今まではいわゆるティーチング型、先生が答えを教える指導法が一般的でしたが、これからの教育はファシリテーター型やコーチング型、と言われています。ここで重要なのは、生徒が能動的に自ら考え学んでいけるよう、うまくファシリテートする、ということなのですが、これを続けることで、子供は自ら学び方を学び、非認知能力を身に付けることができるようになります。

学び方というのは、自ら解決しなければならない課題に直面したときに、その課題を解くべく、自ら試行錯誤して難問に立ち向かい、結果その難問を解くという方法だったりフレームワークを学ぶ、ということです。これをやることで、子供たちは非認知能力が向上します。非認知能力は、やり抜く力、Gritや諦めない力、工夫しようとする力などを指します。そして、深い学びを実現する為には非認知能力は欠かせないと言われていますので、非認知能力を鍛えることができれば、おのずと成長できる可能性も高まるはずです。ちなみに非認知能力と対をなす言葉、認知能力とは、答えのある問題を解く能力のことを言うのですが、今までの日本の教育は、認知能力を向上させる教育がメインだったということになります。

教育界とスポーツ界の課題は“共通”である

ところで、ここまでは日本の教育の理想形To Beについて調査をしてきましたが、ここで私たちはあることに気づきました。それは、「日本の教育の理想形To Beは、日本のスポーツ界のTo Beと限りなく等しいのではないか」ということです。

例えば指導の考え方ですが、スポーツで言えば、公正とは、誰にも平等でなければならない、「試合には全員出場させる」等ということになります。最近の教育では演劇やダンスが積極的に取り入れられたりしていますが、ダンスや演劇で、「あの子は上手だから発表会に出します。あの子は下手なので発表会には出しません」と先生が言ったら、保護者はどういうでしょうか。スポーツにおいても同様で、上手い子は試合に出す、下手な子は試合に出さない、というのは明らかに公正ではないということがご理解頂けると思います。そして教育の個別化をスポーツに当てはめると、トレーニングの個別化になりますが、これはみんなと同じメニューではなく、自身の体にあった適切な負荷と適度な量で鍛えるべき、ということになります。オーバーワークはケガの原因にもなるし、個々の能力を伸ばす弊害にもなりうるわけですから、個別化は大事です。

そして指導者についてです。良く日本人はコーチングではなくてティーチングをしていると言われていますが、ティーチング型からコーチング型、ファシリテーター型への移行。指示ではなく、自ら考えて行動できるよう導く、ということが重要です。サッカーの岡田監督は監督になったとき、サッカーは外に出しておけば点はなかなか取られないから、勝つ為に外に出せって指示をした。最初はみんな嫌がってたけど、勝てるようになってくると何も言わなくても外に出すようになった。すると、目の前ががら空きでゴールに向かって一直線に攻めれるにも関わらず、ボールを奪ったあとにまず外に出すということが起きた。これを見た瞬間、おれは何をやっているんだろう、もっときちんとサッカーを理解して自分で考えられるよう育てなければならないと思って今治FCを立ち上げたと言っていたのですが、これも、ティーチング的指導で選手が育ってきた為に出てきた日本ならではの弊害なのではないでしょうか。だから我々の考えるスポーツの理想的な指導というのは、選手が能動的に学び自ら主体性を持って考えられるようになる、ファシリテーターやコーチング型の指導が必要なのではないか、と思いました。

そして、これらの環境を整えることによって、スポーツを通じて、非認知能力を鍛えることもできるのではないか、そう考えました。実際、既に様々な研究で、スポーツで非認知能力は鍛えられるという結論は出ていますので、後はこれをどう実装していくかということを考えていきたいと思っています。

理想的な育成環境を有するアカデミーの価値

ここで一旦、我々が考える理想的なアカデミーが提供する価値についてまとめさせて頂きます。まだ、アカデミーの物理やシステムについては十分検討していく余地がありますが、我々が思い描く理想のアカデミーというのは、今までに導き出した世界や日本の最先端教育と、理想的なスポーツの育成環境の双方が持つ特徴を掛け合わせ、アカデミーを通じて非認知能力が鍛えられたり、今までの指導を根本から変えた理想的な指導方法が実装された育成環境、というような定義ができると思います。そして、そこで選手を育成することができたときに、選手が得られるものはなんなのかというのを、価値としてまとめさせて頂きます。

アカデミーには、提供する価値を提供する場があります。これは、時間と空間、双方が必要な場合もあれば、時間のみに拘束される場合もありますし、空間のみに拘束される場合もあると思います。もしくは、時間と空間の双方に拘束されないものもあると思います。時空の制限があるものとしては、施設だったり競技環境、時間のみに拘束されるものとしてはオンライントレーニング・・・というように、提供する場に応じて価値を提供する方法があり、それらを通じて提供される価値があります。我々はこの価値を提供する場を、潜在能力を引き出す場として、エンパワーメントプレイスと命名しました。エンパワーメントプレイスで作られたその価値は、生徒の目、心、脳、体を鍛えたり、精神的に成長させます。この生徒が得られるモノが、人間力だったり精神力だったり、非認知能力だったりということになるわけですが、これらの能力が身につくと、生徒は最初、アカデミーに入る前には、なんとなくおぼろげだった夢だったり目標、いわゆる意思が、知識を得て自ら考えられるようになり、それが明確な目標や目的になって自らの意志となり、その意志を元に迷わず行動できるようになるのではないか、と考えました。我々は、この一環の過程のことを、dream=Journeyと名付けました。
 
コービー・プライアントは、自身の永久欠番記念式典で、娘二人に対してこう言いました。一生懸命やれば夢は叶う。でも、夢とは行先(ゴール/到達地点)のことではない。夢とは、夢へと向かう「旅路」のことだ。早起きしたり、夜遅くまでハードワークした日々。疲れ切った日や自分を追い込みたくない日でもハードワークしたこと。それこそが夢そのもの。そのことを理解した上でハードワークしたら、夢は現実にはならないものだということがわかるだろう。ただ、(そこに失望はないし、夢を願うよりも)、もっと素晴らしいことに気づくはずだ。マイケル・ジョーダンと比較されるほどのスーパースターが、自分が見ている景色とそこに辿り着くまでの過程を見比べて、過程のほうが大事と言っている。であれば、やはりこの過程、Dream=Journeyの部分を最も大切にしなければならないのではないか、と我々は考えました。我々は何よりもここを大事に、今後も調査を続けていきたいと考えています。

なお、”理想的な育成環境を有するアカデミーで得られる能力”というものを、上記2軸でプロットしてみたところ、周りに価値を提供できる能力については、育てられないモノはない、という結論に至りました。また、アカデミーでも育てられない能力は、先天的な身体能力、例えば身長だったり骨格だったりと、後は持って生まれた運、我々はこれを成功力と名付けていますが、これくらいしかないかなと考えました。そして、育てられる能力の内、自らの価値になるモノとして、経験値や認知能力、非認知能力、後天的な身体能力があるなと考えました。これらの能力は、自分たちの夢や目標、そして意志を達成する為には必ず鍛えなければならない能力になります。

そして、右側にまとめた、魅力や自己超越力、マネジメント力、人間力などは、リーダーシップ、人を動かす力、誰からもリスペクトされる力、愛され力、ユーモア、協調性、清潔感、インテグリティや、社会貢献をするマインドなどを指しています。これらの能力は、人から好かれたり影響を与えたりすることで、人や社会に価値を提供することができる能力だということに気付きましたので、ここに分類されている能力を持つ人のことを、我々は価値提供型の人間と名付けることにしました。

ここで我々の発表の副題にに繋がるのですが、私たちが理想的な育成環境を有するアカデミーを通じて、人や社会に価値を提供できる価値提供型人材を育てたいと申し上げたのは、ここに分類される能力を持つ子供たちを育て、世に送り出したい、ということを指しています。先ほど説明させて頂いたアカデミーの過程、dream=Journeyが、価値提供型の人間を生み出す機能を有している、ということです。これが、私たちが考えるアカデミーの価値になります

我々の目指すゴール

そして、私たちが目指すアカデミーのゴールです。

アカデミーの価値から、アカデミーでは様々な能力が鍛えられるということがわかりました。そして、それらの能力を鍛える為には、一流の教育と同じ理想形を追い求めるのが良いということがわかりましたので、我々は、一流の教育という下の土台に、スポーツを通じた一流の教育を足し合わせ、超一流の社会人を育てる方法を検討していきたいと思います。

ここが先ほど述べさせて頂いた過程、Dream=Journeyになります。ここで育てた超一流の人材というのは、先ほど申し上げた、価値提供型人材を指します。そして、たくさん育てた超一流の社会人の中から、スポーツ選手としての能力が高い人材に超一流のスポーツ選手になってもらって、今までの常識を覆すような様々な価値を創出したり、発信したりして、スポーツの価値を更に高めてもらえたらと考えています。 

理想的な育成環境を考える

ところで、教育の理想形とスポーツの理想形が限りなく近しく、目指すべき方向性が同じということが確認できましたが、実際にアカデミーを設立する場合には、どういうシステムを実装すればよいのでしょうか。

これらは、とある学生の一日のスケジュールですが、これ以上練習する時間がないということがわかるだけでなく、自由時間すら、赤枠の1時間しかない、ということがわかりました。しかも、結構な時間練習していますので、これ以上練習量を増やしてしまうと、ケガやバーンアウトといったリスクも高まるのではないかと思います。となると、量を増やすのは現実的ではなく、質を上げることでしか選手たちの更なる成長は促せないのではないか、と考えました。
 
ではどうやって質を上げるか。アカデミーに通う選手たちのコンテキストを分析してみたところ、選手たちに影響を与える要因は、大きく分けて、家庭由来、地域由来、学校由来の3つがあることがわかりました。

家庭由来には、その選手が育った家庭環境や食事などが挙げられます。

地域由来は、スポーツをしやすい環境があるか、スポーツ支援に積極的な行政やコミュニティかどうか、ケガをしたときにすぐ駆け付けられる医療が整っているか、後は、スキーやりたいのに過去一度も雪降ったことありませんってところではなかなか難しいので、競技にあった気候かどうか等があります。

そして残りは学校もしくはアカデミー由来になりますが、つまり、選手の能力を上げる為には、選手だけに頑張らせるのではなくて、選手に関わるこれらステークホルダー全ての質を向上させながら選手に提供していかないと、選手が育つ環境の質も上がっていかないということがわかると思います。

末っ子最強説

アカデミーの実装時には、これらの3つの由来それぞれについて、詳細な分析を行っていき、具体的に導入するシステムの最適解を導き出す必要があると思いますが、家庭由来の一つである家庭環境についてはこんなデータがありましたのでご紹介させて頂きます。詳細については以下記事をご覧頂きたいのですが、末っ子のほうがスポーツ選手として成功する可能性が高いのではないかということです。
https://nettantei-file.com/archives/867
 
ちなみに私たちも、スポーツ選手の家庭環境についてわかる範囲で調べてみたのですが、末っ子には球技の選手が多く、一人っ子は個人種目の選手が多いということがわかっています。一人っ子は芸術肌の人が多いという分析結果もあるので、もしかしたら、スポーツで言えばアーティスティックスイミングや新体操等に向いているということが言えるかもしれません。
 
なお、サッカー選手は末っ子が多いというデータがありますが、現在スペインで活躍するサッカー日本代表の久保建英君のお父さんは、自著の中で「建英は長男だが、末っ子のように育てた。自主保育で常に年上と行動させたり外遊びをさせるようにした」と述べています。これは、家庭環境が適切でなかったとしても、環境を意図的に変えることで成功した良い事例なのではないかと考えました。

この、末っ子のように育てる、という言葉を聞いたときに、私たちは、二つの点と点が線のように繋がりました。それは、先ほど、世界や日本の最先端教育でご紹介したイエナプランです。

イエナプランがスポーツ育成環境に適している可能性

イエナプランは、1927年にドイツで生まれ、オランダで花開いた教育システムです。
 
日本では、2019年に長野県佐久市で、日本初のイエナプラン校が誕生しましたが、最大の特徴は「異学年学級」です。通常日本だと、4月2日生まれから翌年4月1日生まれを1学年としますが、イエナプランの場合は、3学年の子供たちをごちゃまぜにしてクラスを作ります。つまり、半強制的に学校教育の中に、長子と中間子と末っ子という役割を持った子供たちを作るということです。

こうすることで、常に年上の子と年下の子が一緒に生活するようになるので、年上の子が年下の子を助けるのも、年下の子が年上の子に助けられるのも、誰かが知らない、誰かが誰かより知っているのも当たり前という環境が作れます。

こういう環境になると、上の子は下の子を積極的に助けるようになり、下の子は積極的に上の子を頼るようになるらしく、子供たちは共に考えたり行動したりするのが当たり前になるらしいのですが、末っ子にとっては、常に2学年上の子たちの基準で生活することになるので、考え方や行動の視座が2学年分上がり、より早く成熟していけるようになるそうです。また、なんでもかんでも年上の子たちが競争相手になるので、負けて当たり前だけど勝ったら嬉しいという、スポーツを楽しむ上では最高の環境が出来上がるのです。このイエナプランが、スポーツにはとても合っているのではないかと考えました。

スポーツのイエナプラン型

このイエナプランをスポーツに導入した場合のシステムはこんなイメージです。いくつかの異学年学級があって、それぞれに能力の差があり、自身の能力に応じて上のステージに上がっていくという形です。尚、イエナプランをスポーツに導入する場合は、地域と連携して、幼稚園や小学校、更には大学や社会人とも連携を行った、全年齢型のイエナプランを構築するべきだと考えます。なぜなら、イエナプランと異学年学級の最大の特徴は、年齢や能力の高い子が、低い子を上のステージに引き上げるという機能があるからです。

アカデミーは元々は中学、高校年代で考えていましたが、高校年代を引き上げるには大学生や社会人の力が必要だし、中学生の子たちが引き上げる能力を身に付ける為には、小学生の存在が必要になります。そうなると、必然的に地域との連携が必要不可欠という事です。ちなみにヒップホップ界では、有名人が無名の新人を自分のステージに引き上げて紹介する事をフックアップと言うのですが、このスポーツのイエナプラン型においても、上の人たちが下の人たちを引き上げる、いわゆるフックアップという作業を行い続け、循環型のシステムを創り上げるのが良いのではないかと考えています。我々はこのシステムを、フックアップカルチャーとして、アカデミーの文化にしていく必要があると考えています。

今後の調査・研究について

ご覧頂いた通り、私たちの発表は、まだ始まったばかりの道半ばです。また、実装するには検証しなければならない課題もたくさんありますし、アカデミー設立には数百億という莫大な投資資金が必要になりますので、今の段階から賛同者や支援者を募り、徐々にその輪を広げていくことで、日本版IMGアカデミーを本気で設立したいと思っております。もし、アカデミー設立にご興味ある方がいらっしゃいましたら、是非とも個別にご連絡頂けますと幸いです。

今後SXLPを受講される方へ

Sports X Leaders Programやシステム思考というものは、一見するとスポーツとはなんら関係のない話のように見えますし、そもそもが良くわからない為にとっつきにくい内容のように見えます。事実、私たちもそう考えていました。しかしながら、実際に勉強してみると、何を考えるにおいても使えますし、とても重要な思考法だということがわかりました。特に、SDGsの実現やスポーツを活用した社会課題解決を志す方たちには、絶対に必要な思考法だと思います。私たちが感じたブレイクスルーを、今後受講される皆様たちにも是非とも味わって頂けたらと思います。私たち3期生も、アルムナイとして皆様の参加を心待ちしております。

メンバーの自己紹介

倉澤 由莉香(くらさわ ゆりか)
1987年1月 東京生まれ 東京育ち
慶應義塾大学商学部商学科卒
大学卒業後、一貫してMorganStanley, GoldmanSachsなど外資系金融機関に勤務。ただし生活の軸は「文化」であり、資本主義と文化の架け橋になるような存在になりたいと様々な取り組みを始めている。プロ・アイスホッケーチーム「横浜GRITS」の立ち上げメンバーとしてマイナー競技の推進を図るとともに、地域に根付いた新たなプロ・スポーツチームの運営に従事。

また自身の持つ有機的ネットワークを生かして、「資金循環×スポーツ×社会貢献・社会的インパクト創出」を軸に、スポーツ事業におけるコンサル業務を実施。趣味は「自然」「スポーツ」「アート」。マラソン、トレイルランニング、登山、スキー、ゴルフ。ラグビーを中心としたスポーツ観戦等。

 軍司 和久(ぐんじ かずひさ)
1981年 富山県生まれ 埼玉県育ち
法政大学院システム工学研究科卒。
大学院入学後すぐの2004年5月に精巣腫瘍で余命宣告され9か月闘病するも奇跡的に完解。闘病中に観たアテネ五輪を機にスポーツビジネスの世界へ。
2007年新卒で広告会社入社。LPGAツアー、BWF WORLD TOUR SUPER750、ラグビーW杯FANZONE、テニスジュニア育成プロジェクト等に携わる。2017年に軽井沢で行われたフットゴルフ世界6大メジャー最終戦では総合プロデューサーとして大会創設から運営、TV番組制作まで手掛け、世界初のフットゴルフ番組解説者としてTV出演も果たす。

2018年には日本代表としてフットゴルフW杯に出場すると共に、日本初、がん闘病後に健常者スポーツで日本代表初キャップを記録した選手となる。この時の体験を通じて、健常者と障がい者の狭間で揺れる“非健常者”の為の国際大会の必要性を実感。

座右の銘は、「オリンピックもパラリンピックも目指せない非健常者にも、競技スポーツを楽しむ権利と機会を」、「あなたが無駄にした今日は、誰かが生きたくても生きれなかった明日だ」。
Note:https://note.com/kazuhisagunji
Twitter: https://twitter.com/kazuhisagunji

 佐藤 哲史(さとう てつし)
1976年 神奈川件川崎生まれ 羽村〜関西育ち
明治国際医療大学鍼灸学部卒
大学卒業後、スポーツ界で飯を喰うと決意し、アスレティックトレーナーの資格取得のため、専門学校の夜間部に入学。医療機関、スポーツ現場で経過を積み、

現在は、株式会社Sports Multiplyの代表を務め、スポーツ現場がより安心安全に行え、誰もが楽しんで上達出来るようサポートを行なっている。

鈴木 伶奈(すずき れな)
1994年3月 栃木県生まれ 栃木県育ち
慶應義塾大学環境情報学部卒
小学校3年からフィギュアスケートをはじめ、大学4年までの14年間競技に打ち込んだ。全日本ノービス、全国中学生大会、インターハイ、インカレ、国体出場経験あり。

大学卒業後は文具・オフィス家具メーカー プラス株式会社に入社し、CSRを担当。また、フィギュアスケートにもっと携わりたいという想いから審判員・技術役員の資格を取得。現在はフィギュアスケートを「する」楽しさを周知すべく、地元栃木県や都内のフィギュアスケート普及教室の運営・サポートにも参加。審判員・技術役員不足やスケートリンク不足問題を解決したい。趣味はアイスダンス。

 中嶋 知彦(なかしま ともひこ)
1983年 東京都生まれ 関西(大阪・兵庫等)育ち
早稲田大学法学部卒
小学校3年からバスケットボールをはじめ、大学2年迄の12年間競技に打ち込んだ。
大学卒業後、日本生命保険相互会社に入社。2015年に同社が協賛を開始した「東京2020ゴールドパートナー」の専管担当者として、組織の立上げ~戦略立案・実行までを担ってきた。以来5年半に亘って、東京2020パートナーとしての関連業務に携わるとともに、スポーツ団体やアスリートの支援にも広く携わり、幅広いスポンサーシップに取り組む企業の担当者として経験を積み重ねている。
Twitter:https://twitter.com/tom_nakashima21


Sports X Leaders Program 5期 参加者募集中!

■概要
▼Phase1(基礎知識の学習)
オリエンテーション:7/31(日)
講義日:8/6(土)、8/20(土)、8/27(土)、9/3(土)、9/10(土)、9/24(土)、10/1(土)
特別講義(プレインイングリッシュ)
日程は受講開始後に調整(任意参加)
▼Phase 2 <日本、海外スポーツ業界で働くゲストスピーカー講義>
10/15(土)、10/22(土)、10/29(土)、11/5(土)、11/12(土)、11/19(土)
▼Phase 3<海外実地研修>
9月末~11月に1週間程度で調整中
▼Phase 4 <グループワーク>
11/20(日) ~ 2/24(金)
最終発表会
2/25(土)

■会場
原則zoomによるオンライン講義、対面講義は都内で開催予定

■参加費
50,000円(税別)(海外研修等を実施する場合は別途参加者負担になります。)

■対象者
既にスポーツ業界で活躍中、もしくは活躍できる潜在能力がある方

■応募期間
2022年6月27日(土)~7月10日(日)

■応募方法
下記HPより、詳細をご確認の上ご応募ください
https://sportsxinitiative.org/recruitment2022.html

Sports X Initiative

Sports X Initiativeは、スポーツと社会の関係性をリデザインします。https://sportsxinitiative.org/

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
Sports X Initiative
私たちは「スポーツx◯◯」のさまざまな切り口から価値創造に取り組む人々のコミュニティであり活動プラットフォームです。 【活動内容】カンファレンス、人材育成プログラム、ラボ 【HP】sportsxinitiative.org