SXLP受講生が再定義する、スポンサーシップ3.0とは?

Sports X Leaders Programでは、カリキュラムのPhase 4としてグループワークを実施しています。Phase 1~3を学んだ上で、受講生同士がグループを組み、システムシンキングを活用しながらスポーツ界における課題分析や解決方法をディスカッションしてきました。

今回はそのアーカイブとして、2019年2月に行われた最終発表から「スポンサーシップを再定義する」についてお届けします。
(プレゼン内容は2019年2月時点)


「スポンサーシップ」というテーマ設定

スポーツ庁が「スポーツの成長産業化」を謳っていることからも分かる通り、スポンサーシップは注目されている。そんな中、これまでの「スポーツのスポンサー=広告掲載」という時代は終わりを迎えている。
さらに、最近聞かれる「スポンサーシップからパートナーシップへ」などの用語は、スポンサーシップが新しいフェーズへ移行していることを物語っている。

我々は今回、スポンサーシップの新しいフェーズへの移行について、またそこで起こっている違和感や課題について分析してみた。

改めて「スポンサーシップ」を定義づける

一般的に「スポンサーになる」とは、広告出資など、後援者になることと考えられる。最近だとアクティベーション、つまり権利活用が主流となっている。ただし、スポンサーシップの新たなフェーズはアクティべーションだけでは実現しない。

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スポンサーとは、アートや音楽、スポーツのみならず文化領域の資金調達の手法として機能している。

実際に日本のプロスポーツの領域に落とし込んでみても、JリーグやBリーグのクラブ決算を分析したところ、収入の約半額はスポンサー収入となっている。スポーツの領域において、スポンサーシップが資金調達の大きな軸となっていることは明らかだ。

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一方で、国内でスポンサーシップがうまく機能しているかというとそうとは言えない。

・費用は払っているものの、実際に何をしたらいいのかは分からない
・チーム成績が上がらなければ、スポンサーシップの価値を感じられない
・権利料を払うことに予算がかかり、実際権利を使うところで予算を使えていない

など、スポンサー側に悩みが多いのも現状である。

その一例として、楽天が株価が反落した際に、新聞記事には「バルセロナとスポンサー契約に費用対効果に疑問」という見出しがつけられてしまった。

スポンサーシップの形は時代とともに変わってきた

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私達はこれまでのスポンサーシップの変遷を、以下のように定義付けた。
・CSR型=スポンサーシップ1.0
・広告型=スポンサーシップ2.0
・アクティベーション型=スポンサーシップ2.5

2010年代に入ると、アクティベーションをどう実施していくか、がテーマになっていることが分かる。
アクティベーションは、企業のアセットとスポーツ側のコンテンツの掛け合いによって行われる。スポーツ側は権利を購入してもらいキャッシュをいただくという形なので、企業側が権利を払った上で、アクティベーションに対して追加で費用が発生することが多い。
また企業側がスポーツを活用したいと思っても、競技運営上の課題などもあり、競技団体側の協力も必要となる。
つまりアクティベーション型、スポンサーシップ2.5においてもそれぞれの負担が高まりうまく進まない構造が見て取れる。

アクティベーションはスポーツ産業拡大の切り札と言えるのか?

これまでの「支援型→広告型→アクティベーション型」という変遷を、デザインシンキングで学んだ「因果ループ図」に落とし込むと以下のようになる。

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スポーツ側はスポンサー料をチーム(選手や監督)に投資し、チームを強くするだけの時代は終わった。より権利を開発することに投資していかなければならない時代になっている。
そのためにはスポーツ側にてリソースの再配分が必要だ。

しかし、スポーツ側にそのチャレンジは難しいのが現状だ。
なぜなら、アクティベーション型だとスポーツ側の負担が大きいからだ。スポンサーに応えようとすればするほど、スポーツ側にコストがかかるという仕組みになっている。

では、ビジネスインセンティブを契約形態に取り入れ、成果報酬型にすればこれからの課題は解決するといえるだろうか。例えば、アクティベーションの結果として企業側に新たな顧客がついたら、その成果に応じてスポンサー料が発生する、というアプローチである。
残念ながら企業主導のアクティベーションは、スポーツ側の資産価値向上につながらない限り経済的なインセンティブがない。つまりサステナブルなシステムとはいえない。

よって、スポンサーシップの市場を拡大して事業機会を創出するためには、新たなスポンサーシップ3.0を設計していく必要がある。

スポーツと企業の関係をサステナブルにするためのスポンサーシップ3.0

スポンサーシップ3.0は、「結婚」のプロセスに例えると分かりやすい。

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企業とスポーツ側が、出会い→交際期間→結婚、と順を追ってお互いの価値交換を進めていくというアナロジーだ。
これまでのスポンサーシップ1.0や2.0と違い、3.0ではマインドセットを「資金調達」から「資産価値向上」へ転換することで、企業側、スポーツ側それぞれにメリットがある仕組みづくりを考えていく必要がある。

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スポンサーとの協働では、競技の向上だけを目標にするのではなく、互いの事業の価値創出・向上を目指すべきだ。それが結果として資産価値の向上につながる。

スポンサーシップ3.0での価値交換を、因果関係ループに落とすと以下となる。

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2.5までは、スポーツ側は権利の開発のためにリソースを割く必要があった。
それに対し3.0では、権利を使って企業の満足度を上げるだけでなく、そのプロセスを通じて自分たちの資産に戻ってくるというのが基本的な発想となる。直接企業の売上にはつながらないかもしれないが、売上だけではない「事業資産の交換」が可能となる。

スポンサーシップ3.0で求められている要件をまとめた。

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今後のスポンサーシップ3.0のテーマは「共創・機会探索」と設定した。
スポーツ側、企業側それぞれの現場において、新たなスポンサーシップに関する可能性を今後も探っていきたい。

さらに、今回私達は近い未来を見据えてスポンサーシップ4.0まで想像してみた。
4.0におけるテーマは「社会課題の解決」だ。

示唆する例としては、
・FIFA(サッカー)×UNESCO(教育)×WFP(食)によるパートナーシップ締結
・ブラインドサッカー協会の「視覚障害者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」をビジョンに掲げた取り組み
・NBA Cares。リーグ×チーム×社会が主体となって取り組む社会貢献プログラム
などが挙げられる。

どれも「実現したい社会のあり方、ビジョン」を掲げ、その活動そのものを社会に開放して行政や企業と協働する活動を拡大している。

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社会課題を解決することは、行政や企業からの要請に基づくことではなく、スポーツ側が主体的に実現したい社会を導いていくこと、その活動を行政や企業とともに新たな社会関係資本を生み出す姿が望ましい姿なのではと我々は考えた。

以上の通り、これからのスポンサーシップに求められる要件と可能性についての議論をまとめた。

(監修:SXLP1期スポンサーチーム、文:SXLP1期/太田光俊)

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Sports X Leaders Program最終発表については、日経クロステックでも記事にしていただいております。(掲載日:2019年3月20日)
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/feature/15/070800035/031200104/


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