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【感想114】異人たち

 珍しく興味がわいたので原作を直前に読破してから見に行った。
『悪は存在しない』も同じ日に見に行ったけれど、持っている性質が真逆すぎて帰り道はずっと放心してしまった。一回じゃ噛み砕けなかったので、とりあえず今回はこっちの感想で。

他人に勧めやすい ★★★☆☆
個人的に好きか  ★★★☆☆

 山田太一の『異人たちとの夏』がベースで、元となったお話は「妻との離婚を機に他人との関わりを避けたくなるようになった男の死んだ両親が当時と変わらない年齢や容姿で何事もなかったかのように暮らしているところに遭遇する」なところから登場人物を絞ったうえで監督の経験を盛り込んだストーリーへと昇華している。野暮な言い方をすると、大幅な原作改変をしたうえで自分の話を盛り込むというかなり嫌な手口。なんだけれど『異人たち』の方がより暖かいメッセージと慈愛に満ちているのでどちらかと言えばこっちのほうがおすすめしやすい。

 原題ではかなりのウェイトを占めていたサスペンスのような展開が薄まって、主人公アダムが抱える閉塞感やそれゆえに産まれる過去のしがらみや両親との溝を意識したことに対するケアが話の中心になっていた。
元が抽象的な要素が多く不思議な展開によって明瞭な核をつかめるようなお話ではないのに対して、ハッキリとテーマを据えた展開と演出なのもあって原作を知らなくていいというよりも別物として十分以上に楽しめる作品にはなっていたと思う。

 かなり大きな改変の1つはポール・メスカル演じるハリーの立ち位置。原題では経緯は同じものの30半ばの女性と、性別まで変わっている。
同性愛を描く話へとシフトしているのに忌避感を覚えるかもしれないけれど、監督自身の経験から来るものと『異人たちとの夏』に絡めたケアの対象やラストの描くものに対するハマり方は良かったなあとも思う。
着地する要点としては同じだけれど、こちらの方がわかりやすいなぁという意味でも特に原作を予習してから行った方がいい、ていう必要もないなと思う。

 他者の物語から見た人自身をケアする作品へと大きく様変わりしているけれど、要所要所に原型を感じられる流れであったり伝えたいだろうか所へ注力して本筋への理解をよりしやすくする構成だったりと別物にする意味はあるとちゃんと思えるし、いい映画だったと思う。
クィア作品としてだけじゃなくて、人とのかかわりの重大さを強く感じる時代にいい一本になると思う。


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