【感想120】ミッシング
かなり面白い。
SNSでのバッシングについての描写が説教でもなく、それら含めて悪意に対峙する人たちのやるせない描写を淡々と描き続けてるのがいい。
モデルの事件がある分リアリティを感じるというよりも、地に足の着いた展開のされ方がより見ている側を嫌な気分にさせるし、いち登場人物としての視点を与えられるような気になるのもなんだか掌の上で転がされてる気がして嫌だなあとも思った。
他人に勧めやすい ★★★★☆
個人的に好きか ★★★★☆
ずっと荒れっぱなしの母親である沙織里の一切余裕のない落ち着きのなさに対して、関係者男性陣の平静に装った上での動揺する部分や細かな仕草で見せる内心といった静の芝居で見せてくる要所要所がより光って見えてくる。
焦燥感で大立ち回りしかできなくなり目の前のものに縋るしかない心理状態の母親っていう意味ではあれぐらいの熱演じゃないとむしろ嘘っぽくなるし、それによって他演者の演技がかなり映えて見える相乗効果もあった。
そして冒頭が娘の失踪から3か月という、観客が完全に他人事の温度で見てしまう時間軸から始まってるのも憎い。
作中だと娘の情報を伝えますとか、警察に成りすましての発見連絡だとか、掲示板での憶測による書き込みを毎晩見る沙織里だとかの、顔の見えない人による悪意を定期的に出してくる。
これも見ている側にとってはたらればで防止策を語れる範疇のものではあるけれど、作中では当事者からの心情吐露であったりメディアの人間同士での会話から漏れ出る一言だったり、かなり誠実に「そういうことが出来れば確かにいいんだよね」というままならなさを表現してるので見た人はそこはちゃんと汲んだうえでこの辺の話はしてほしい。
テレビ局の報道担当として動く中村倫也演じる砂田の良さは個人的に今作トップだと思う。
ありのままを報道することや脚色しないことに信念をもって働きはするものの、その信念とは真逆のスタンスを取る後輩の出世や自身の後を追う仕事をしていきたいと話す後輩。その板挟みから摩耗していく精神があからさまに影響してくる、夫妻が娘の誕生日を祝うシーンを撮ろうとするときのやり取りはこの作品の中で一番印象に残ってる。
ここはカメラマンの一言(みんなが言ってる虎舞竜のこと)だけじゃなく、砂田の視点がどこを向けているのかもわからない状態である提案をする姿や、その直前にあるビラ配り中の提案から漏れ出ている信念が折れ始めている様子があまりにも痛々しすぎる。
その後にトドメと言わんばかりに放たれるある一言で砂田の物語が完全に終えてしまうのだけれど、その後の砂田の姿含めてかなり味ある人物なのでこれ一本目当てでもう一回スクリーンで見てもいいぐらいには刺さった。
邦画として骨太且つ見た後にもちゃんと残るものがある作品はそうないし、心身ともに見ているだけで削られていくのに最後にはちゃんと光が見えるラストを迎える人もいるので後味はそこまで悪すぎないっていうのも良かった。
『関心領域』よろしく何も起きない映画だけれど、だからこそ劇場で腰を据えてじっくり見る価値が生まれるし得られる視点がある作品だと思う。
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