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【感想126】あんのこと

 『ルックバック』もそうだけれど、河合優実が名実ともにいい女優として見られてるのはいいよね。
とはいえどっちもなかなかお気軽に行けるようなものでもないのは難しいね。

他人に勧めやすい -----
個人的に好きか  ★★★★★

 とにかく主人公の香川杏が振り回され続けた末路を見守る映画で、『ミスト』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と比べると、ちゃんとした意味で鬱映画を冠していいと思える。
佐藤二郎・稲垣吾郎の二人を加えたトリオでの主人公だと思って見ていたけれど、後半からは思った以上に河合優実の演じる香川杏にフィーチャーした映し方になってる。

 簡単に言っちゃえば人との繋がりで精神的な傷みを癒していたのがコロナでの強制的な断絶を契機に一転する、というのが主軸ではあるんだけれど、佐藤二郎の演じる多々良と稲垣吾郎演じる桐野の懺悔も見どころではあると思う。
特に多々良については肝心な真実が(多分意図的に)映されていなくて、桐野自身も正しいことを全うしはしたもののそれがきっかけで報われない人は出るし、仕事として徹していたのも災いした結末となってしまう。
突き詰めていくと必要悪として残されているものがあるんじゃないか、可能性は低いけれどもし桐野がつかんだことが事実ではなかったんじゃないのか。と、いろんな可能性を潰えた末の着地だということを踏まえるとラストの多々良と桐野の会話のトーンは腑に落ちるとは思う。

 そして香川杏の救われなさも要は救われる準備の足りてなさも出てる。
コロナ後に無理やり押し付けられた子供が自分が知らないところで保護される展開があるけれど、そこや日常でのいろんな場面での物事の無知さが顕著に出ている。
結局は多々良をはじめとして介入してきた人にされるがままに流されて更生しているのもあって、打算的であったり歪な土台の上で成り立っているとしても真っ当な生き方を歩み始められていたっていう部分から目を背けるのは難しいなとはこの映画の中だと特に強く思った。


 時代設定やモデルが実在しているのもあってかなり生っぽい質感の演出で、役者たちが間や仕草で伝えてくる芝居をしてくれているのも相まって時間いっぱい緊張感が切れないのも作品に対して凄くいい影響になってる。
だけれど20年より1年弱しか経っていないだろう時期に桐野がマスクなしでうろついてたり、時代的に合わない作為的な部分が目立ちやすいせいでノイズになりやすかったのはちょっと嫌だなあとはなった。
他にも演出面や会話での伏線の張り方だったり見どころはストーリー以外にも十分にあるので、見て損はないって太鼓判を押せる一本。

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