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【感想129】マッドマックス:フュリオサ

 正直口コミの空気感から敬遠していたけれど、思った以上に刺さった。
前作の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(以下FR)がリバイバル公開されるのを待ってから行ったのは結構正解寄りの選択だったかもしれない。それぐらい『FR』を知ってることに意味がある映画だし、逆にこれを見た後に『FR』を見るのもいい体験になると思う。
今週なら立川のシネマシティが実現できるので、時間が合う方は是非。

他人に勧めやすい ★★★★★
個人的に好きか  ★★★★☆

 前作では実質奴隷以下の扱いで捕獲されていたマックスと独裁者同然のイモータン・ジョーの子供を産むことにしか価値を見出されていなかった女性たちによる逃避行をしていた中、唯一背景が曖昧なままだったフュリオサのバックボーンを描く。
その物語が想像以上にアベンジストーリーで、マッドマックスの世界の異常さを前作以上に際立たせていて単純なアクションエンタメというわけでもないのがより分かりやすくなってた。

 フュリオサの境遇自体、最初の場面で攫われて以降は一人の人間として扱われることがほとんどなく、クリスヘムズワース演じるディメンタスからは亡くなった自身の息子の代わりとして扱われていそうな雰囲気がありつつも結局はそれすらも方便の1つに過ぎなかったり、前作でもボスとして位置するイモータン・ジョーに至っては交渉用のアイテムの1つとしてしか視界に入れていない(五体満足で健康体の女という一点で交渉用のカードとして欲した)言動がある。

 なのでフェミニズムの文脈というよりは男女論や身分区分の方が実感としては近いかなとは思った。父権主義の価値観下で家畜と同等の女性だけでなくウォーボーイズ含めた下層階級のアベンジという『FR』での流れから、フュリオサ自身もその価値観の中で耽々とリベンジする機会を狙っていたこととその第一歩を明かされるのが今作の中身でもあるし、そういう意味では『FR』の中身を補強するためのものになってもいる。

 こういった側面以外でも結構面白いところが多くて、特に片腕を失う理由付けは結構驚かされた。正直、最初にそれらしい場面になった時には辻褄合わせのノルマ消化をしよう、というような匂いを感じたものの、次のシーンでしっかりと真っ当な意味づけをされていた。前作でのイモータン・ジョーに対する「Remember me?」もジョーの反応込みで疑問だったものの、そもそもいち人間としてフュリオサを見ていたか?という投げかけだったという落とし込み方も好きな所。
ディメンタスの立ち位置やキャラ付けも結構味があって、カリスマ性一本でトップに躍り出ていただけかと思いきや最低限以上の狡猾さを持ち合わせていたり中盤以降での大規模集団を管理することへの疲弊と、シンプルな小物キャラではなく自身より強大な相手に呑み込まれつつも自滅の種が発芽した、運のない悪党という感じでいいキャラだと思う。


 純粋なエンタメ映画みたいな見方が多いけれど、蓋を開けてみれば案外シリアスなメッセージがありそうではあるしストーリーを完全に放棄しているというわけでもないのはちゃんと覚えておいてほしいな、というのはある。
百聞は一見に如かずとはいうけれど、やっぱ実際に見ておかないと自分の中に落とし込んだ時の感触は想像できない方向に向くときがあるなっていうのは今回含めて思うな。


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