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【感想127】街の上で

 無差別に勧めたりとかしないで、無粋なことは言わないだろうと信頼できる人にしか勧めない。そういう映画。

他人に勧めやすい -----
個人的に好きか  ★★★★★

 荒川青という青年が彼女に振られた後の日常を切り取っている映画で、特に明確な起承転結もなく再開発中の下北沢で過ごしている姿を見守り続ける。
ある意味カルト的な人気を持っていて、『シン・ゴジラ』のような名実ともにメジャーなタイトルや『ソナチネ』のような映画好きな人ならすぐ伝わるタイトルに並んで挙がるほど局地的な人気が強いタイトル。
2021年公開とかなり最近に出たわりに熱狂的な支持を受けているのは、それだけ刺さるものがある作品だってことは頭に入れておくといいかも。

 よく言われる「退屈なシーン」の詰め合わせで、ほとんどのシーンがただただ雑談しているところを切り取って映している。
その雑談含めた台詞がかなり特徴的で、ほぼ必ず「え?」「何?」とかの聞き直す言葉が挟まれる。そのおかげもあって、必ずストレートな言葉選びになるので嫌でも本音をぶつけさせられるようになってる。
洋画見たいなおしゃれな言い回しや気の利くリズムの良い会話はないので記憶に残る言葉はあんまり出てこないけれど、見ている人の心に直接響かせてくるような問いかけや台詞が多い。

 会話劇もかなり特殊で、初見で見ると一発撮りかと思うぐらい偶発的な事が起きているけれど基本はエチュードでも一発撮りでもない。
特に終盤である城定イハとの会話はほとんど台本で書き起こされていて、川瀬雪が自転車に乗るのにもたつく場面も何度かテイクを重ねていても毎回もたついている。
この生っぽいとも質感が違う、やや湿度が高めな生の空気が監督の持ち味でもあるし、オリジナル脚本なだけあってそれがかなり色濃く出ている。

 作り手からの伝えたいメッセージがない、ていうよりも人物が自由に動き続けるところも魅力的なところ。
これも人物を先に置いてから展開を「この人だったらどう動くかな?」という含まらせ方で作っているみたいで、伝えたいことの軸や中身のために動かすような野暮さもなく、人物たちの等身大の姿を映しながらも一歩前へ進んだり進まなかったり、成長を経ることをマストにしない心の動くところを見せているのが登場人物に強く思い入れを持つ理由の一つになっているとは思う。
なかでも青が火を貰えずに残し続けた煙草は印象的で、個人的にはこの作品の中で一番好きな描写だしそういうところに登場人物の面白みを感じた。


 そんな感じで、緻密に構成された強いメッセージを含む作品というわけでもなく、ただ見つめ続けているだけでも心に残るものがあるとても良い作品として個人的にかなり好きだし、お勧めしてる。
各プラットフォームで気楽に見れる環境ではあるけれど、今(24年7月半ば)なら都内と中部関西では映画館で見れる絶好の機会なのでぜひ見に行ってほしい。人の感情の機微を感じ取るなら映画館以上にいいところはないと思ってるから。

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