【感想74】福田村事件

阿佐ヶ谷を初めてじっくり歩いて回ったけれど、高円寺含めてここで学生時代過ごしてたら毎秒絶頂してただろうなぁって気持ちでいっぱいになった。
Morc阿佐ヶ谷の雰囲気があまりにも「こういうのでいいんだよ」過ぎたし、中央線沿いがことごとく魅力的に映るせいで、毎回ズルいなぁって思いながら歩いてる。

他人に勧めやすい ★★★★☆
個人的に好きか  ★★★★☆

ノンフィクションで禁忌の事件に触れるという触れ込みどおりちゃんと事前の全貌を知ることができるし、経緯を含めて人物の心情を傍観する前半パートのおかげでただ記事を見て知るだけじゃ得られない、映像作品だからこそのアプローチと手法で味わうことができるのでこの映画をフックに知ってもらおう、ていうだけじゃ終わらない作品。

大まかに言ってしまうと、関東大震災の直後に「朝鮮人の反逆が起きている」と噂が立ち続けたおかげで差別感情がヒートアップした中で言い合いになった相手を朝鮮人だと決めつけた福田村の住人が殺害した、という事件。

序盤にある村の様子をみせていくパートがまず大事。
ドキュメンタリーやノンフィクションものとしては贅肉になるパートではあるけれど、兵士という身分が過去のものでも何にも勝る栄誉であることや閉塞された集団ゆえの個として浮き出ることに対する空気感だったりを存分に見せつけられる。
この部分があるからこそ、最後の行為への導線がハッキリと見えるようになっている。

東出の間男に相応しい雰囲気だったり水道橋博士の振り切った善悪観であったり田中麗奈の明らかに浮く存在感であったりと、俳優陣の見せ方も映画にわかりやすい彩を与えてる。
題材からしてどうしても起伏を作りづらい性質の作品な中、映像で引き込ませる要素として演じている人たちの演技や出す雰囲気が引き込ませる大事なポイントとして活きている。
特に主役に該当する井浦新と田中麗奈の夫婦間のやり取りは村の外から来たというのもあって、明らかに別格なやりとりや映り方をしてるので事件以外ではこの2人に着目してほしい。

中盤の関東大震災後の数日を省かずに描いているのも結構いいアクセントになっている。
東京での自警団の騒ぎであったり徐々にうわさが広まっていく様子、村の中でも事件までに必要不可欠な背景を語っている部分にもなるのでただそういうことがあった、ていう事実確認にはならないようになっているのもこのパートの存在が大きい。

引っかかったのが新聞記者の女性の存在。村の中で浮くハイカラな田中麗奈とはわけが違って、存在自体が物語の中でかなり異質な存在のように見えた。
メッセージを含ませる役回りなせいか、どうしても映画の中で語られる問いに対して回答を突き付けるような、個人的には水を差してくる存在としてしか見えてこなかったのがつらかった。


それでもこの映画は一種の教材としても、エンタメとしてもオススメは出来る作品なので早めに映画館で見てほしい。セリフ回しやカットで心情を見せてくるのでじっくり没入できる映画館がベストなのは間違いないと思う。
特にラストの夫婦の投げかけ合いは熟考する価値ありの良いシーンなので、俺は映画館で見てよかったな…てそこだけでも思えた。


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