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【感想132】風が吹くとき

 ポストコロナとなった2024年に改めて上映される意味があると思う。
非日常が始まったことを自覚できないどころか楽しんでいる素振りがある、何をすればいいのかさえ分からずに過ごしていく。そういう姿が教訓にならずに過去の自分事として受け止められる人がほとんどの時代になっていると思う。

他人に勧めやすい ★★★★★
個人的に好きか  ★★☆☆☆

 核被害を取り扱っている映画だけれど、核の恐ろしさだとか無知な事への警鐘というよりはコロナによる緊急時代宣言を経た今だと別の文脈が新しく生まれてしまったとも思う。
夫が政府のガイドラインに従いつつも表面的な模倣しかできず意図を理解していないので対策が無意味に近く、妻は投下3分前の警告が出されても洗濯ものの心配をしたりと日常の普遍さを疑っていない。
この感覚はコロナでのパンデミックがあったおかげもあって、照らし合わせられる要素がかなり多く挙げられる。マスクをするしないや消毒なんかもそうだけれど、どれが確実なものでどれが不要だったのかを確かな根拠を以て実行したり説明できる人はかなり限られてくるとは思う。

 さらにアニメーションとは言いつつも実写映像が差し込まれるだけじゃなく、特に後半からは家具含めた家内は実写描写の色が強く夫婦のみがハッキリとアニメーションで描かれている場面が増える。
アングルが実際にカメラを動かしているような動きをしたり背景情報が実写の中で人物だけが複雑さのない表情を見せるアニメーションというのも相まって、精神的にも身体的にも衰弱していく様子を明確に見せつつも、別の世界だと意識させやすいアニメの世界ではなく自分たちと同じ世界での出来事だと錯覚させやすいビジュアルが組み合わさって観ているこちらのMPが時間に比例してゴリゴリと削られていく。

 この夫婦が致命的に放射能知識が欠けていることを糾弾し無知の知への第一歩を歩ませたり反戦や核兵器の危険性を訴える作品、というよりはどこまで自分事として見て何を感じ取るか、という究極に厭らしい問いかけだとも思う。
あんな楽天家な態度をとるわけないだろ、と思いつつも春先には落ち着くだろうなと思いながらテレビのニュースを見ていた2020年2月末を思い出す。


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