システム屋は製造業から学ぼう

ITベンダの品質管理の実態

これまで従業員として、パートナーとして、或いはクライアントとして様々なSIer・ソフトハウス・パッケージ屋と一緒に仕事をしてきた。また同時に、コンサルタントとして様々な製造業のクライアントにサービスを提供してきたが、日本の基幹産業である製造業と新興勢力としてのシステム屋を比べてみると「品質」「品質管理」「品質保証」という部分で雲泥の差があることに気が付いた。勿論、雲が製造業で、泥がシステム屋である。

概ねシステム屋における品質管理とは「バグ管理/不具合管理」のことである。大抵、スプレッドシートの不具合管理表か、チケット管理システムを使って、テスト工程や本番稼働のバグフィックスをしていたりする。システム導入系のプロジェクトならば、信頼性成長曲線(いわゆるバグ曲線)など使いながら、バグの収束度合いをクライアントに報告したりもしているだろう。

四半世紀ほどIT業界で生きているが、技術や手法が変わっても、この不具合管理については驚くほど何も変わっていない。システム導入手法がウォータフォールだろうがスパイラルアップだろうが、十年一日のごとく、不具合管理表に、どこかで見たことがあるような不具合が並ぶ。気の利いた会社だとその不具合の源流管理や真因分析などをしていることもあるが、大抵は「要件定義の不足」「コミュニケーションミス」という言葉が並ぶ。

製造業の品質管理

製造業、とりわけ組み立て加工型の製造業の品質管理はシステム屋の不具合管理表のレベルではない。クルマや家電などの不具合は事故などがあれば命係わるということもあるが、実際に市場に不具合のある製品を出してしまうと、リコールなども含め大きなコストがかかってしまう。こうしたコストを失敗コストと呼ぶが、例えば家電で不具合が起き、それが火災の原因になり得るなどでリコールとなれば、販売店の特定、販売先の特定、リコールの告知、出張費用、修理費用、交換部品費用etc…などが発生し、利益がそれだけで吹き飛ぶことも珍しくはない。まして、社会的な問題となれば会社それ自体が立ち行かなくなることもある。

そこで、Made in Japanが粗悪品の代名詞だった時代から、日本の製造業は品質向上に取り組んできた。QCサークル、TQM、8Dレポート、デザインレビュー、FTA/FMEA、なぜなぜ分析などなどである。こうした取り組みが実を結んで、斜陽なりと言えどもMade in Japanと言えば高品質と言われるところまできた。ただでさえ少ない市場流出不具合の原因を工程別に分析すると「製造・生産工程」での発生は非常に少ない。あるのは調達と設計に起因するものである。製造業はこの工程の品質向上に市場の変化に対応しながら取り組んでいるというのが現状である。

ITベンダは製造業を「過去の業界」と思っていないか

そのような製造業にITシステムを提供する側のITベンダはどうかというと、冒頭で記した通り、「不具合管理表」と「信頼性成長曲線」で品質管理と思い込んでいたりする。そしてそのようなベンダ(のマネジメント層)に限って「最先端のITが過去の製造業に学ぶことはない」と考えていることが往々にしてある。そして若手の多くはITそれ自体の技術革新についていくのが精いっぱいで、他の業界に学ぶような余力はないし、そもそも知識不足・経験不足でそういうことを思いつきもしない。

しかし、そもそも「アジャイル開発」とてトヨタ生産方式(TPS)にその起源をもつもので、それが米国で発展して逆輸入されてきたものだ。新メソッドとしてありがたがるのではなく、なぜトヨタ生産方式に学ばないのだろう。

温故知新、英語で言えばNew knows oldは真理であろう。もっと手元の宝を掘り返そう。ネタは本屋に、ネットに、現場に転がっている。


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