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松尾大社(京都・嵐山)【日本弁天巡礼】

日本で広く信仰されている女神・弁財天(インド名:サラスヴァティ)。日本各地の弁財天信仰の軌跡をたどるこのシリーズ、【日本弁天巡礼】。今回は、古都・京都における最古の神社で、全国的にも「お酒の神様」を奉ることで知られている松尾(まつおの)大社をリポートする。

松尾大社は、御祭神の1柱として、女神・市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)を奉っている。明治維新までの日本では神仏習合が慣例であり、弁財天と市杵島姫命は習合されることが常だった。

■水が豊かな土地だからこそ奉られた

この松尾大社は、後ろに控える松尾山の神霊を奉り、生活守護神としたのが起源と言われている(出所:松尾大社の公式パンフレット)。

京都で最も古い神社の1つ。文武店頭の大宝元年(西暦701年:奈良時代)には山麓の現在地に社殿が造営された。その後、都は奈良から平安京に遷都(西暦794年)されることになる。京の西に当たるこの松尾大社は、平安時代から皇室による崇敬は極めて篤かったという。

このことから松尾大社は俗に言う「京都五社」のうちの1つと見なされる。京都を守る四神の1つ、「西の白虎」に当たる。四神とは風水の概念で、四方を守る神獣のこと。「京都五社巡り」という一種のスタンプラリー企画もあるので、これにそって周遊するのもおつなものだ。なお、五社巡りでは専用の色紙に印を押してくれる。この印がなかなか美しく、五社を巡り印が揃った満願の色紙は、とても趣がある。

社殿の背後の松尾山を含む約12万坪が境内という。神職の方に話を伺うと、本殿の背後に見える岩が、松尾大社における最大の見どころの1つであり、また特徴の1つである(次の写真、左手上部を参照)。古代においてはおそらくこの松尾山の岩が、いわゆるご本尊として敬われていたのであろうとのこと。かように、古代から続く自然信仰の姿をそのまま引き継いでいるのが、この松尾大社なのだ。

筆者が訪問したこの日(2021年10月)、松尾大社の特別拝観企画に参加し、本殿周辺(上記写真の内側)まで見学できた。本殿の背に見える岩は近くで見ると非常に立派で、古代から続く信仰のパワー、その根拠となる自然のパワーの存在を強く感じさせた。

筆者を案内してくれた神職の方によれば、松尾山の近辺は昔からしばしば雷が鳴るという。この際に、雷が鳴るような天候の変化は、洛西の土地のみということも少なくない。つまり、ここ洛西の松尾山近辺は、京都の中央部とはずいぶん天気の様相が異なる。

雷は神の声とも見なされるという。だからこそ松尾大社は、京に住む人々から深く尊敬される神社として保たれてきたのだろう。

この雷は、雨を降らせ、土地に滋養を与える。それだけに、この松尾大社の周囲はとにかく川や泉など、水に関する要素が目立つ。社務所の裏側の渓流は御手洗川。その上流には「霊亀の滝」がかかっているという。その滝の近くには「亀の井」という霊泉がある。酒造家はこの水を酒の元水として造り水に混ぜて使っているのだそうだ。なお、霊泉の水は延命長寿、蘇りの水としても信仰されているという。

御祭神の1柱として、水にまつわる女神・市杵島姫命が奉られているのは、水が豊かな松尾山近辺を守り抜きたいという人々の意志の現れだったのだろう。

松尾大社の入り口近辺には茶屋「休憩処 団ぷ鈴」があるが、ここの蕎麦はなかなか美味しかった。市杵島姫命が守るこの土地の水の豊かさを、食でも感じ取っていただきたい。

【データ】
松尾大社、京都市西京区嵐山宮町3

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