感受性に潰されるのが怖くて観れない、という感覚

　日々の生活にいっぱいいっぱいになっていると、そんな感覚によって観ることが怖くなったり億劫になったりしてしまう作品がある。
　感動を誘ったり、展開にハラハラさせたりする作品群は、CMを見た時点では「面白そうだな」と思うのだが、いざ観るか観ないかという段になると、「観る」に振り切るためのハードルがグンと上がるのだ。

俺たちは疲れたくない

　心のダイナミズムを自分の中に飼い続けるためには、莫大な体力と精神力を要求される。どういうことかというと、たとえばリアルの世界で何らかの理由で激怒したり、悲嘆にくれたりすると、ドッと疲れてしまうことがあると思う。感情の振れ幅というのは精神世界の平衡状態をぶち破ってくるため、大きなエネルギーを使う。この現象は何も現実世界の出来事によるものでなくても何か創作物を受容した際にも起こるので、厄介なのだ。

　エネルギーは何もしなくても、現実世界でゴリゴリと削り取られていく。創作物を受容して感情が限界オタクになってしまうと、現実世界でやっていくためのエネルギーが足りなくなってしまう。だから、感動系の創作物や登場人物が何らかの苦労を（きわめてシリアスに）する創作物からは、自然と足が遠退いてしまう。

　去年『天気の子』を観た後なんかはマジでしんどかった。

『天気の子』は疑いようのない名作だった。ただ、感情の振れ幅にオッサンの精神状態は耐えられなかった。三日くらい頭の中で物語の展開を反芻しては、いろんなつらさを勝手に想像したり、ハッピーエンドのはずなのに辛くて辛い世界に思いをはせてしまったりしていた。そこかしこで現実にも起こっている子どもの貧困問題とか、少年の未熟な突っ走りとか、作中で嫌な奴にも家族がいるだとか、大切な人を失うだとか、また会えたとか、もう助けてくれ。

　感動という劇薬は、遅効性の毒になる恐れがある。用法と用量を正しく使わないといけないが、正しい用法用量は観なければわからない。悩ましすぎる。

脳を空っぽにして楽しめるやつをくれ

　頭空っぽの方が夢詰め込めると聞いて育ってきたが、夢をいれるだけの脳の容量がなくなりつつある最近では、ただ空っぽのままゲラゲラ笑って楽しめる作品を観るようにしている。

春アニメだと『かぐや様は告らせたい』『プリンセスコネクト！Re:Dive』『かくしごと』なんかが良い。シリアス展開も匂わせているが、基本的にコメディ路線なので安心して観ることができる。
　イチオシは、どう転んでもくだらない感じの展開やキャラの濃さが素敵な『波よ聞いてくれ』だ。住宅破壊とか、危うく刺殺されそうになるチャラ男とかいろいろあるが、主人公の͡͡鼓田ミナレがだいたい笑い飛ばせる展開にしてくれる。

　その他だと、最近ｄアニメストアに登録して往年のコメディ作品を延々と垂れ流している。『この素晴らしい世界に祝福を！』は僕の聖典で、２クール分をもうたぶん５週くらい観た。『ふらいんぐうぃっち』も初めて通して観た。東北の日常感と魔女のいるちょっとした非日常感がほどよく混ざって安心して観ていられる。最近『まち̚カドまぞく』をリピートし始めた。女の子たちがひたすら可愛くていとおしい。根底に流れている路線がだいぶシリアスなのに、ひたすらふわっとしたキャラとストーリーが良い感じに包み込んでくれている。

　まだべらぼうにたくさんのアニメを観ることができそうなので、何かおすすめがあったら教えてほしい。

歳を重ねるという感覚

　そういえば、とふと考える。
　自分の親世代は、子どもの自分が興味を示し、若い世代の間で流行っていたものをあまり観たがらなかった。子どもの流行りだから、対象年齢が違うから、という理由だけではなかったのだろう。新しい創作物は、効き目もわからない劇薬なのだ。３０歳を過ぎると、精神世界をへたに揺さぶれなくなる。守るべきはリアルの生活だ。コンディション管理のため、無意識のうちに遠ざけてしまっていたものが、あったのではないか。

　自分がすでに楽しんだものを反芻することで、心の安寧を得られる。うちの父が昔読んだ『タッチ』や『コブラ』をわざわざ買いなおしていたのも、僕が『このすば』を周回しているときのような、心に平穏を感じながらエンターテイメントは摂取したいという欲求の現れだったのかもしれない。

疲れることが前提な世間が悪い

　そもそも世間が、生きていくのに過剰に疲れるようになっているのがいけないんだ。
　もし世間が、生きていくのにそれはもう適切な環境で、精神状態を創作物で多少揺さぶっても大丈夫な感じだったら、僕は何も恐れることなく感動系の創作物を思うままに摂取できるのだ。

　六億円当たって生活に困難が一切なくなったら、もっといろんなアニメや漫画を楽しめるだろう。六億円はやく当たれ。

　まあでも、それでも主食はコメディ系になるんだろうな。