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障害者と裁判~メディアが報じない真実 | MOVE ON 2020 | Vol.2

「障害者は罪をおかしても無罪になるんですか?」という質問に「そんなことはない。むしろ罪が重くなりやすい。そこに司法の問題がある。」と大石弁護士は語る。連続講座スロージャーナリズム MOVE ON 2020 の第2回は「障害者と裁判~メディアが報じない真実~」。知的障害・発達障害者の弁護活動に長年取り組んできた大石剛一郎さん(弁護士)に話を伺う。

ある知的障害者が起こした殺人事件

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弁護士の大石です。私は知的・発達障害者に対する虐待事件、刑事被告・事件などに25年ほど取り組んできました。いまは障害のある人の弁護活動をする弁護士も増えてきましたが、私が弁護士になった頃は少数でした。

弁護士になった当初は児童虐待や少年事件などに対応してきたが、「水戸アカス紙器事件」(1997)や「白河育成園事件」(1997)など、福祉施設での障害者への虐待事件の弁護団に加わって、私と障害のある人との関わりがスタートしました。

福祉施設での障害者への虐待は酷いものでした。これらの事件を通して「福祉施設にも人権侵害がある」ということが分かってきました。そして、ある事件に関わったことから、福祉だけでなく日本の司法全体の問題に気づかされます。

その事件とは2001年におきた「浅草レッサーパンダ事件」です。この刑事事件は知的障害と発達障害をあわせ持つA君(29歳)が起こした殺人事件で、レッサーパンダのぬいぐるみ帽子を被った男による犯行だという異様さからマスコミが取り上げ、社会の注目を集めました。

A君は軽度の知的障害があり、早くに母親を亡くして各地を転々とするなど、家庭環境にも恵まれなかった。そして、コミュニケーションの困難も抱えています。


障害者への適正手続保障とは

この事件でA君の弁護団の団長を務めたのは、私の師の副島洋明弁護士です。副島弁護士はとにかく調べまくることで知られているひとなので、「A君はただの知的障害ではないはずだ」と、彼の成育歴を調べて、児童精神科医の先生にも来てもらって、彼は知的障害だけでなく広汎性発達障害もあわせ持っていることが明らかになりました。

A君は他者とのコミュニケーションが難しく、彼と意思疎通ができた母親も既に他界している。問いかけた質問をオウム返しするので会話が成立せず、目撃証言と明らかに食い違うことになります。

おそらく彼は自分に何が起きているのかを把握することができていない。そういう人に、警察官や検察がどんどん質問をして取り調べをする。「適正手続保障」というのは刑事手続きの命なのですが、知的障害者にはこれが保障されているとは言えない状況です。弁護士や本人を知るひとが立ち会うことができれば状況は変わるはずだが、現在でもそれは難しい。


障害者は「より重く罰せられる」という実感

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障害者の刑事事件について「障害者は罪をおかしても無罪になるんですよね?」という質問を受けることがあるが、そんなわけはない。むしろ、障害があるとより重く罰せられる傾向があると私は実感しています。

彼らは自分の置かれた状況を把握できていないまま、誘導された質問に「そうです。そうです。」とのってしまう。自分になにが有利で、なにが不利なのかわからず、相手のストーリーに乗せられて調書が作られてしまう。その結果として「より重く罰せられる」ということが起きているのです。

仮に執行猶予だとして、その理由に「支援が必要だ」と書かれたとしても、適切な支援に繋げる仕組みがないので同じ失敗を繰り返して累犯障害者となってしまいます。犯罪を繰り返すのは反省がないからだと、繰り返すほどに重く罰せられてしまうのです。


障害者は公平・公正な裁判を受けられているのか

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私が障害者の刑事事件に関わってきて思うのは「弱いところにしわ寄せは集まる」ということです。しわ寄せは「仕方がないもの」と扱われやすい。そして、「仕方がないもの」は社会的に顧みられない。

浅草レッサーパンダ事件を原点に学ばされて、知的・発達障害者の刑事事件に関わってきました。「しわ寄せ」には真の問題点が潜んでいます。知的障害者の刑事事件から見える適正手続保障の問題は、日本の刑事司法の真の問題点があります。

<大石剛一郎氏プロフィール>
東京弁護士会所属弁護士。川崎市(障害者施設等)苦情解決第三者委員。NPO法人かわさき障害者権利擁護センター。NPO法人湘南ふくしネットワークオンブスマン所属。知的障害・発達障碍者に対する虐待事件、刑事被告、事件などに長年取り組んでいる。



受講生からの質問&講師の回答

Q:障害者が加害者・被害者になる事件はいまも起きていますが、ここ数年で大石弁護士が注目した事件や裁判があれば教えてください。

A:どの事件も注目しているので「この事件だ」と言えません。むしろ私は障害者に関する大きな事件が起きたときに、やったかどうかを明らかにすることにも注目しますが、仮にやっていたとしたら「これを軽い刑にするのはおかしいだろう」という前提ありきで、それに合わせる感じが日本の司法にあってそれが問題でしょう。

Q:障害福祉の現場で仕事をしている者です。知的・発達障害のある人の逮捕時の取り調べに立ち会ったことがあります。放火と器物破損でした。自分がいるのといないのとでは、かなり調書の内容が変わったのではないかと感じました。いずれも不起訴となりました。逮捕直後には入れなくても、普段から関わりのある支援者が逮捕後に会うことは可能でしょうか?

A:裁量は警察や検察にあるので、そうしたことが当然の権利として認められるには至っていない。それでも20年前よりはできるようになってきた。本当は差別解消法の合理的配慮として当然認められるべきだが、刑事事件において保障されているかというと、そこまではいっていない。

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スロージャーナリズム講座 「MOVE ON」 とは

スロージャーナリズム講座「MOVE ON」は、SOCIAL WORKERS LABと野澤和弘⽒(ジャーナリスト・元毎日新聞論説委員)との共同企画です。2020年度は「コロナばかりではない 〜この国の危機と社会保障・司法」をテーマに6回のオンライン講座を行いました。

「⻑い時間軸でなければ⾒えないものがある」
「当事者や実践者として深く根を張らなければ聞こえない声がある」
「世情に流されず、⾝近な社会課題を成熟した⾔葉で伝えていこう」

現実を直視し、常識をアップデートし、未来に向かって動き出すために。
これからの時代を⽣きるための基礎教養講座です。

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SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。

正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。



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