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カルチャー、メディア、ふくし | SOCIAL WORKERS TALK 2021 | Vol.2

みなさんは、ソーシャルワーカーと聞くとどんなイメージをもたれるでしょうか?

SOCIAL WORKERS LAB(以下SWLAB)は、ソーシャルワーカーという概念を介し、 多様な⼈々が出会い、関わり、学び合う社会実験プロジェクト。3年⽬となる今年のトークイベントのテーマは「つながりのデザイン」。社会は「つながり=関係性」で成り立っています。そして「福祉」とは、個人と個人、個人と社会などの「つながり」を支えるものであり、「つながりをデザインする」という営みは、「福祉的」ともいえるのではないでしょうか。

今年のトーク第2弾のゲストは、2020年4月東京・下北沢に誕生した新しい“まち”「ボーナストラック」をプロデュースされている小野裕之さんと、「個と個で一緒にできること」を合言葉に掲げ、2021年4月にマガジンハウスが創刊したウェブマガジン「こここ」編集長の中田一会さん。リアルとオンラインで新たなつながりを生み出すおふたりを迎え、SWLABの今津とともに「カルチャー」や「メディア」の観点から「ふくし」について語り合いました。

 登壇者のプロフィール

小野裕之
greenz.jp ビジネスアドバイザー / 株式会社散歩社 代表取締役

1984年岡山県生まれ。中央大学総合政策学部卒。ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズの経営を6年務めた後、事業開発・再生のプロデュース機能をO&G合同会社として分社化、代表に就任。おむすびスタンドANDON共同オーナー。工芸によるジュエリーブランドSIRI SIRI共同代表。BONUS TRACKを運営する散歩社代表取締役。発酵デザインラボ(発酵デパートメント)取締役CFO。

中田一会
マガジンハウス「こここ」 編集長 / 株式会社きてん企画室 代表

1984年東京都生まれ。千葉県在住。武蔵野美術大学芸術文化学科卒業後、出版社、デザイン企業、文化財団で広報・編集業務等を担当。2018年に独立し、「きてん企画室」を設立。プランナーとして文化・デザイン・ものづくり分野を中心に活動。2021年4月、ウェブマガジン「こここ」を創刊。「個と個で一緒にできること」を合言葉に、福祉をたずねるクリエイティブマガジンの編集長を務める。

新しい“まち”「ボーナストラック」

日本で先駆的に“福祉”や“多様性”といったテーマを扱いはじめたウェブマガジン「greenz.jp」を運営していた小野さん。東日本大震災の翌年の2012年には、『アイデアインク 02 ソーシャルデザイン』(朝日出版社)を出版し、「ソーシャルデザイン」という言葉を日本で広く世の中に打ち出されました。

2017年から、東北沢・下北沢・世田谷代田の線路跡地「下北線路街」の1エリアで、みんなで使い、みんなで育てる新しいスペース「BONUS TRACK」の運営をスタート。約1.7kmのこの下北線路街に、セレクトショップや温泉旅館やミニシアターなどいろんな商業施設や文化施設が並びます。

ボーナスラックのある世田谷代田エリアは、建物の半分以上を住居にしなければならない「第一種低層住居専用地域」というもの。2階に住む人が1階の店舗を営むことで、お店の景観がきれいに保たれ、住宅街の風紀を守っていくエリアになっています。住みながら働いていく。そんなかつてあった古き良き商店街の風景を現代版に解釈し、新築で建て、再構築しているのもプロジェクトの大きな特徴です。

福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」

中田さんが編集長を務める福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」は、2021年4月創刊のウェブメディア。「個と個で一緒にできること」を合言葉にした「福祉をたずねるクリエイティブマガジン」をコンセプトに運営されています。

福祉職の人に向けた専門メディアではなく、広く生活者全般に向け、福祉のことを身近に感じてもらうメディアを目指して、「倫理」「遊び」「所在なさ」を大事して運営しているそう。たとえば、福祉の「現場をたずねる」こと。さまざまな施設を訪れ、現場を肌で感じて人に話を聞いたインタビュー記事をお届けしています。現場をたずね、湧いてきた「問いをたずねる」ということも「こここ」が大事にしているところです。さまざまな側面をもつ障害、立場を持つ「わたし」と「あなた」が、どうすればお互いのアイデンティティを大事にしながら一緒にいられるのか、そんな問いと向き合います。また、福祉発の、あるいは福祉に連なる場所から生まれているプロダクトの紹介もしています。「こここなイッピン」や「こここ文庫」も見応えたっぷりです。

現在では、一人ひとりが違うこと、その「違い」の複雑さや繊細さがだんだんと意識されるようになってきました。でも、そもそも「わたし」と「あなた」はどう違うのでしょうか。異なる人と人が一緒に生きていくとはどういうことでしょうか。「わたし」と「あなた」、そして同時代を生きる多くの人とは、どのように共に過ごし、何を一緒にできるのでしょうか。そんな誰にとっても身近で、大きな問いを抱え、<こここ>は旅に出ることにしました。たずねる先は「福祉」です。

福祉の現場には、社会に生きる一人ひとりの心身や置かれた状況に日々向き合い、汗をかき、奔走してきた経験が宿っています。同時に、社会全体の構造的な課題にさらされ、立ち向かうことを求められてきた領域でもあります。だからこそ、わたしたちが生きていくうえで大切なヒントと「福祉」は繋がっているのかもしれません。また近年では、福祉に関わる場所から驚くほど創造的な活動や表現も生まれています。

そもそも「福祉」とは、「幸福」を指す言葉。「社会」に関係のない人がいないように、「福祉」に関係のない人もいません。この世界に生きる“わたしたち”みんなに関わること、それが福祉だと<こここ>は考えています。

 趣味の福祉

おふたりのお話を聞き、印象に残ったのは「趣味の福祉」という言葉。福祉の裾野を拡大していきたいのならば、専門家とそうでない人との間にある境界線を、もっと曖昧にしなければならないと思いました。

「趣味で福祉をやって何が悪いんですか?」と小野さんは語ります。環境問題や福祉問題は、みんなで取り組まないと解決しない問題。にもかかわらず、専門家と素人をわけるコミュケーションを形づくってしまうのは、むしろ解決から遠ざかってしまう。

「当事者ではないから、専門的なことは知らないからと黙るしかない」という壁をこえていかないと、福祉はひらいていかないのではないか。どうやって、より楽しく、時にリアルに遊び心も交えて一緒に考えていくか。」と話す中田さん。もっと軽やかに間違えられる自然な状態、というものがこれからますます大切になる。そんな気がしたトークとなりました。

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