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「どうせ…しゃあないやん」諦めの呪縛を乗り越えられるか? | DoingからBeingへ | Vol.1

自主ゼミ企画「DoingからBeingへ~福祉社会学者とともに、SOCIAL WORKERS LABを探究する~」は、さまざまな領域で活躍するソーシャルワーカーを招いて、その仕事や生き方について学び、参加者と対話を重ねるオンラインゼミです。2020年秋に開講してから、全国の学生・社会人にクチコミで広まった人気ゼミのエッセンスを紹介します。

第1回は福祉社会学者の竹端寛と、SWLABディレクターの今津新之助が「DoingからBeingへ」について語ります。

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竹端 寛(たけばた ひろし)
兵庫県立大学環境人間学部准教授、福祉社会学者

現場(福祉、地域、学生)とのダイアログからオモロイ何かを模索しようとする産婆術的触媒と社会学者の兼業家。 大阪大学人間科学部、同大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。山梨学院大学法学部政治行政学科教授を経て、’18年4月から現職。専門は福祉社会学、社会福祉学。著書に『枠組み外しの旅 ー「個性化」が変える福祉社会』『「当たり前」をひっくり返す』『脱「いい子」のソーシャルワーク(近刊、共著)』ほか。

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今津 新之助(いまづ しんのすけ)
SOCIAL WORKERS LABディレクター、プロジェクト・デザイナー兼コーチ

1976年生まれ。大阪出身。大学卒業後に沖縄に移住し、’03年に株式会社ルーツを創業。人づくり・組織づくり・地域づくりを行う多中心志向のコンテクスト・カンパニーを展開。現在はプロジェクト・デザイナー兼コーチとして、人間の可能性が開花していくプロセスに伴走しながら、新たにはじめたり、局面展開させたり、領域横断し結びつけたりを多数。一般社団法人FACE to FUKUSHI理事、一級建築士事務所STUDIOMONAKA取締役。8歳の娘ラブ。

DoingからBeingへ、このゼミで探求していくこと

竹端:福祉社会学者の竹端寛です。兵庫県立大学で社会学を教えています。SOCIAL WORKERS LAB(以下、SWLAB)でディレクターをしている今津さんとのご縁でオンラインゼミに呼ばれたわけですが、このゼミのテーマについてSWLAB学生メンバーのふうかちゃん、説明をお願いします。

ふうか:SWLAB 学生メンバー、大阪大学人間科学部1回生のふうかです!この講義を視聴しているみなさんは、福祉にどんなイメージをおもちですか?私は弟がダウン症という障害があるので、弟の学校やデイサービスなどで福祉を身近に感じてきました。

このゼミのテーマになっている「DoingからBeing」について。Doingとは「仕事をする」「勉強をする」という行動で人間を捉えることだそうです。それに対してBeingとは「存在している」「あなたがいることの価値」に気がついて人間を捉えることだと学びました。

このゼミでは「DoingからBeing」について、さまざまな分野で活躍するソーシャルワーカーをゲストに話していただきます。そして、竹端先生との対話を通して生き方や他者との関わりについて考えます。

福祉にかかわるのは障害のある弟のため?

竹端:ダウン症の弟さんがいることで福祉を身近に感じてきたと。障害をもつひとの兄弟姉妹の立ち位置にある方には、ふうかちゃんのように「もっと障害や福祉のことを知りたい」と積極的にそちらに行くひともいますが、「福祉とは関わりたくないです」「そういうのはもうたくさん!」というひともいますね。

ふうか:そういうひともいると思います。私の場合は「弟の将来のことを知りたい」とか「弟が生きやすい社会ってなんだろう」とか「親が安心できる社会について知りたいなー」と思ったので福祉に興味をもったんだと思います。

竹端:その動機には「弟や家族を大事にしたい」という気持ちがあると思いますが、それって弟さんや家族ファーストですか?ふうかちゃん自身のためですか?自分自身はどう感じていますか?

ふうか:うーん…。きっかけは弟の存在かもしれない。けど、今はSWLABの活動に参加して面白さを感じているし、弟のためではなく自分のためなんだと思います。自分自身が楽しいからやっている感じがします。

竹端:それってDoingなのかな、Beingなのかな。

ふうか:Beingなんだと思っています。弟のための活動であればDoingのように思うけど、自分のための自分が楽しいと思えること、幸せと思えることの在りようなのかなって。

竹端:なるほどなるほど。ふうかちゃん、ご自身の話をしてくれてありがとうございます。このゼミはぼくと今津さんのダブルホストで進めていきますので、今津さん、いかがでしょうか?

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今津:SWLABのディレクターをしている今津です。ぼくは大阪出身で、いまは沖縄で暮らしています。ひとのつながりやまちをつくる仕事をしながら、SWLABの母体となる一般社団法人FACE TO FUKUSHI の理事をしています。

FACE TO FUKUSHIは福祉版のマイナビのようなことをしている団体です。若者が福祉業界で働くことに魅力を感じられるように、若者と法人の出会いのきっかけをつくっています。

ひとのせいにばかりしてきた社会不適合なぼく

今津:竹端さんとは、ぼくが失意の最中にあった頃にオープンダイアログという機会を介して知り合いました。そのときに「いつか、なにか一緒にやりたいですね」と話していたので、SWLABの自主ゼミを企画するにあたって声を欠けさせてもらいました。

このゼミは全10回。さまざまな分野で活躍するソーシャルワーカーをゲストを迎えて話を聞いて語り合います。

竹端:医療や福祉の分野だけでなく、デザイナーや経営者や社会起業家も含めたソーシャルワーカーに話してもらうのは楽しみですね。

今津:ふうかちゃんが自分の話をしてくれたので、ぼくも自分のことを少しだけ…。ぼくは自分を社会不適合者だと思っています。12歳のときに病気持ちになってから「こんなクソみたいな教育!!」「おれは悪くない!社会が悪い!!」と腐っていました。ひとのせいにばかりしてきました。

思い返すとめっちゃ恥ずかしいけど「官僚になって教育を変えてやる!!」とか「この社会を変えてやる!」」と思い込んでいて、かたくなで頭でっかちな若者でした。

大学を出たあとは単身沖縄に移住して、就職先では良くしてもらったのに居心地が悪くなって辞めて、自分で会社を立ち上げました。他にできることがなかったんです。

「なにかを変えたいと願うぼくは、自分自身すら見つめられていない」

このことに気が付くことができるまで時間がかかりました。そう思えたのは沖縄で出会ったひと達のおかげです。そこから出家しようとしたり、いろいろありました。

自分自身のあり方を見つめ直す

今津:Being とは、自分がどうあるのかです。ソーシャルワークの世界って、そういうのを自分に問うているひとがたくさんいます。

答えがない中にも、自分なりのあり様において誠実さをもっているひと達がいます。彼・彼女らの姿はこれからの社会を生きる若者のヒントになるのではないか。そんな直感から自主ゼミを企画しました。ぼくからも、なにかしらのBeing を提示できたらいいなって思ってます。

竹端:今津さんの「なにかを変えたいと願うぼくは、自分自身すら見つめられていない」という話に関連して。ぼくは医療や福祉などの対人援助職で働くひとが「他人を変えることが自分の仕事」だと思いこまされていることを危惧しています。ダメなコンサルほど会社を変えようとして失敗するのと同じです。

他人を変えようという押し付けではなく、相手と一緒に自分事として考えなければ問題の本質は見抜けません。「あなたのために」という善意で包んでいたとしても、それはただの押し付けでしょう。

自分に見えてない部分、わかっていないこと、盲点がたくさんあることを知ってください。相手の置かれた立場やしんどさを理解しようとすることで自分がかわり、相手も変わっていきます。

自分はどんなふうに生きたいか、どんな風に在りたいか、それが個性化でありBeingでもあります。「どうせ変わらない」「しょうがない」という諦めの呪縛を越えることはソーシャルワークにつながります。これからはじまる自主ゼミで、ともに探求していきましょう。

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【自主ゼミ2020】「DoingからBeingへ~福祉社会学者とともに、SWLABを探究する~」とは

正解なき時代を生きる私たちが他者や世界と向き合っていくために、ソーシャルワーカーとしての生き方・働き方、魅力や可能性をともに探索していく場。狭義のソーシャルワーカーの枠をはみ出したゲストの方々、そして参加者の皆さんと対話・共話を重ねることで、ソーシャルワーカーとは何かを問い直し、深めていく時間です。20年10月から21年3月までの半年間にかけて全10回開催しました。

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SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。


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