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地域とのつながりが生まれる場所 | SOCIAL WORKERS TALK 2021 | Vol.1

福祉楽団の事業所のひとつ「福祉楽団地域ケアよしかわ(以下、地域ケアよしかわ)」は、普段から地域の方々や子どもたちが多く出入りし、さまざまな人たちの居場所になっています。その風景を目の当たりにすると、福祉事業という枠を超えたつながりが生まれていることを、肌で感じることができます。「地域とのつながり」とは何か。そして、それはいかにして生まれるのか。「地域ケアよしかわ」を設計された建築家の金野千恵さんと、福祉楽団理事長の飯田大輔さんをお招きし、SWLABディレクターの今津新之助とともに語り合いました。

今回のTALKは「地域ケアよしかわ」を会場にオンラインで開催。約230名のお申し込みをいただき、福祉を学ぶ学生、福祉以外を専攻する学生、福祉職から建築関係まで、さまざまな職種の方々にご参加いただきました。

登壇者のプロフィール

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金野 千恵 (こんの ちえ)
建築家teco主宰/京都工芸繊維大学 特任准教授
1981年神奈川県生まれ。東京工業大学理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。2011年KONNO設立ののち、2015年よりteco主宰。2021年より京都工芸繊維大学 特任准教授。家具、住宅、福祉施設、公共施設など幅広い建築設計とともに、まちづくりや各地芸術祭におけるアートインスタレーションを手がけ、仕組みや制度を横断する空間づくりを試みている。

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飯田 大輔(いいだ だいすけ)
社会福祉法人福祉楽団 理事長 / 株式会社恋する豚研究所 代表取締役

1978年千葉県生まれ。東京農業大学農学部卒業。千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。2001年社会福祉法人福祉楽団設立、特別養護老人ホームの生活相談員や施設長、法人常務理事などを経て、現職。2012年株式会社恋する豚研究所設立。千葉大学非常勤講師、東京藝術大学非常勤講師を務める。ナイチンゲール看護研究所研究員、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士。

つながりを生む建築とは

今津:みなさん、こんにちは。SOCIAL WORKERS LAB(以下SWLAB)ディレクターの今津新之助です。今日は久々のリアル会場です。福祉楽団が運営する「地域ケアよしかわ」より、福祉楽団の飯田さんと建築家の金野さんとお送りしてまいります。今日の会場でもある「地域ケアよしかわ」は、金野さんが手がけられました。まずはじめに、このような場が生まれた背景を、金野さんよりお話しいただけますか。

金野さん:今日はよろしくお願いします。建築家の金野と申します。会場の外から吉川団地の商店街の音楽と子どもたちの遊ぶ声がたくさん聞こえてきて、この場所のごたごた感がすごくおもしろいなと改めて感じているところです。

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私が手がける建築の種類は、住宅や家具、最近は公共施設やオフィス、シェアハウスなどさまざまですが、「地域ケアよしかわ」をさせていただいたことを機に、ケアに関わる建築のご依頼が増えてきました。「地域ケアよしかわ」は、私の建築家としてのひとつの原点でもあるんです。今日はそのときに考えていたことと、今も継続して考えていることをお話ししたいと思います。

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これは私の好きな風景の写真です。ネパールのバクタプルの旧市街を歩いていると、公共に開放されている「パティ」と呼ばれる空間があちこちにあります。この空間の中で子どもが遊んでいたり、おじいちゃんたちがくつろいでいたり、新聞を読んでいたり。子どもとお年寄りなどいろんな人が自然と一緒の空間で時間を過ごしているんですね。最近では「多世代共生」という言葉をよく耳にしますが、そもそも建築が、このパティのようにつながりが生まれやすいつくりをしていれば、わざわざ制度でくくらなくても自然とこういう風景ができていくんじゃないかと思っています。

そして、このような建築は、今私たちが携わっている福祉の仕事との親和性がすごく高い。つながりが生まれる空間が街の風景として共有されているだけで、困っている人がいたら助けたらいいと自ずと思えるようになると思うんです。街の中にタダで休んでいい場所がある、そう思えること自体がもしかしたらケアなのかなと考えています。

「地域ケアよしかわ」について

今津:「地域ケアよしかわ」の建築は、どのように進められていきましたか。

金野:一般的な感覚として、訪問介護の事業所は窓がスモークフィルムで覆われていて、なんだか覗いちゃいけないような感じが多い印象でした。まずはこの感じを変えないといけないと思い、設計していきました。

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そもそも半屋外空間になっているアーケードを活かせるように、窓をフルオープンにし、軒先から室内のラウンジまで「窓ベンチ」と名付けたベンチがぐるりとまわりこんでいます。空間の真ん中には「テーブル広場」という2m角くらいの巨大なテーブルを設置。ここでいろんな人がごはんを囲めるようにするためです。誰もが欠かせない「食」というものを、みんなでシェアできる場所があったらいいなと考えました。そして、事業所のワークスペースとして4つテーブルを設置しています。

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地域にひらく=自分も参加できそう

金野:「地域ケア」という言葉を施設名につけることは、飯田さんから伺っていました。訪問介護に来る人だけじゃなくて地域をケアする。ケアするというのも介護だけじゃなく、「耕す」「気にかける」といったより広い意味で捉えられています。

飯田さん:たぶん特別養護老人ホームやデイサービスで何が行われているのか、よく知らない人のほうが多いと思うんです。たとえば、特別養護老人ホームに入ると週に2回しかお風呂に入れないんですよね。そういうことをちゃんと地域にひらくことによって、福祉やケアの市民化あるいは民主化につながっていくんじゃないかなと。施設の中で専門職の人だけに囲まれた生活というのは、普通に考えて不自然なので、そうじゃない状態をつくったほうがいいですよね。

金野:オープン後は、近所の子どもたちが遊びに来てくれたり、いろんな団体さんが、こう使いたい、ああ使いたいと手をあげてくれるようにもなりました。ご近所のおばちゃんたちによる「みんなの食堂ころあい」もはじめてくださいました。寄付や近くの農家さんからいただいた食材で食事を提供されています。また、「地域ケアよしかわ」の隣で、市が子育て支援センターをオープン。ここが福祉の拠点のようにもなり、多様な展開が生み出されていますね。

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飯田:今の状態を予測していたわけではないけれど、お互いの相互関係の中でまわりに波及しているのはいいなと思いますね。この場所はみんなが勝手に入ってこれるし、我々はこの団地の生活の困りごとはなんでも気軽に相談してくださいねと言う。一方で食材やお金など、地域のみなさんからのご寄付も非常に多い。つまり、お互いの関係性に対等さを感じることができているんです。目線が同じで、ひょっとしたら私も参加できるかもしれないな、ということを感じさせる振る舞い方ができている。そこに、「地域ケアよしかわ」の特徴はあると思います。

地域をケアする

今津:飯田さんは「地域ケアよしかわ」だけでなく、多様な事業に取り組まれています。具体的な取り組みについて教えていただけますでしょうか。

飯田:はい。ちなみに今日の会場の「地域ケアよしかわ」は訪問介護の事業所で、埼玉県吉川市にある「吉川団地」の1階にあります。福祉楽団では、こういった訪問介護の事業も含めた介護保険の事業を中心に、障害福祉や児童に関する事業も行っています。介護や福祉の仕事を語るときに、やさしさとか思いやりといった情緒的な言葉で語られることがあります。が、私たちは人間の一般性の理解をベースにし、ケアや福祉のありかたを考え、日々の生活をよくする実践をしています。

介護の仕事は「死」が日常にあります。亡くなる方の、いわゆる看取りを施設でもやっていて、施設の中でお葬式をすることも多くなってきています。でもそれは決してネガティブなことではなくて、この写真の表情にもあるように、ある種の達成感というか、ここに福祉の仕事のやりがいみたいなものがあるように思っています。死を終わりのポイントとして捉えるのではなく、ここからまた始まる螺旋状のいち通過ポイントとして捉えるイメージです。こういった事業をベースにしつつ、福祉や介護、ケアのありかたを変えていく実践も行っています。

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事業のひとつである「恋する豚研究所」です。ここではレストランでしゃぶしゃぶを提供したり、ハムやベーコンを販売しています。餌から自分たちでつくり、農場で育てた豚を食材に加工し、お客様へ届けるところまで行っています。ここでは障害のある人約20名を含む、約60名が働いています。

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恋する豚研究所の隣には、「栗源第一薪炭供給所」、通称「1K」があります。ここでは農業や林業分野として事業を立ち上げ、多様な担い手による農業・林業の実践をしています。農業分野においては耕作放棄地が増加し、管理する人が減っている問題がありますが、一方で新たに農業をやりたい若者も増えています。また、山も森林が手入れされず荒廃してきているという実態があり、地域の困りごととしてある。そういったものを管理し、山を保全する活動にさまざまな働きづらさを抱えた人や、障害のある人が関われるような仕組みをつくろうとしています。

障害者、貧困、里親などの問題は、それ単体で扱うもののほうが少なく、いろんな事情が複雑に絡み合うケースのほうが多いです。そういう困りごとを抱えた人たちの生活を支え、働くことで社会参加をし、「自分も生きててよかったんだ」とか「明日もとりあえず生きてみようか」と思えるような活動につなげていくことを、いろいろとやっています。

地域との信頼関係をベースに運営する

今津:そのほか、さまざまな事業に取り組まれるうえで、大切にされていることをお聞かせください。

飯田:たとえば「地域ケアよしかわ」の事例で言えば、地域との信頼関係をベースに「互酬」や「情けは人のためならず」といった考え方を大切にしないと、運営の基本的な方針がずれてしまいます。物事を短期的に考えるのではなく、長期的に見たときにいずれ私に返ってくるんだという視点がないと、なかなかこういう実践は難しいでしょう。その姿勢を空間の中でうまく配慮し、表現してくれているのは、とてもいいなあと思いますね。

金野:ありがとうございます。福祉楽団さんの事業は、普請の重ね合わせのようにも見えます。農業も林業も、地域の風景を大事にしたいと思ったときに、どうしたら福祉サービスとして組み立てられるか、ということに取り組まれている。地域の風景を、みんなが幸せを感じるような魅力的な状態に回復していくことを目指されていて、そういう姿勢が「地域ケア」という言葉に集約されているんだろうなと感じますね。

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今津:今日のTALKにご参加いただいているみなさんに、メッセージをお願いします。

飯田:あたりまえにある物事をあたりまえだと思わずに、普通の感覚で見ていくことはすごく大事なこと。専門職になればなるほど普通の感覚を忘れてしまいがちですが、普通の感覚が新しい実践にもつながっていくと思っています。ぜひみなさんも、いろんな新しい実践に参加していってください。

金野:「地域とのつながりが生まれる場所」ということで、「地域ケアよしかわ」を会場に選んでいただいたと思うので、ぜひみなさんにもこの場所を体験していただきたいですね。
学生の頃に想定していた自分の生業について、住宅の設計をしていくんだろうなと漠然に思っていましたが、今ではぜんぜん違うことが起こっています。どんなものをつくるか、そこで何をするのか、どこに建てるかも含めて一緒に考えてほしいという依頼が増えてきたりしていて。
つまり、何が起こるかわからないからこそ、とてもやりがいのある時代だと思うんです。私たちは、自分たちで課題を見つけられるし、その課題に取り組むことができます。怖がらずにいろんな実践に関わっていただけたらなと思います。今日はありがとうございました。

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<参加者の声>
「地域ケアよしかわ」は、地域にひらかれているだけでなく、地域の人が立ち寄りやすい空間に設計されている。だからこそ、『何か困っていることがあれば相談してください』というコミュニケーションがうまく機能するのだと感じました」

「理想と制度との間にある壁を取り払うためにも、さまざまな分野の専門家が参画していくことが、これからの福祉にとって重要だと思いました」

「居心地のいい福祉施設や、過ごしやすくなる福祉のあり方。それらは、福祉と建築がそれぞれのもつイメージを緩めたところにできあがるのかも!?お話を聞きながら、そんなことを考えていました」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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「つながりのデザイン」

3年⽬となる今年のトークイベントのテーマは「つながりのデザイン」です。社会は「つながり=関係性」で成り立っています。そして「福祉」とは、個人と個人、個人と社会などの「つながり」を支えるものであり、「つながりをデザインする」という営みは、「福祉的」ともいえるのではないでしょうか。 そうした「福祉的なつながり」を生み出すゲストたちを広く「ソーシャルワーカー」と捉え、これからの社会における「つながり」や「福祉」の可能性と価値を、ともに探索していきます。

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SOCIAL WORKERS TALK 2021 Vol.2 「カルチャー、メディア、ふくし」2021年11月20日(土)14時〜16時

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小野裕之 greenz.jp ビジネスアドバイザー / 株式会社散歩社 代表取締役
中田一会 マガジンハウス「こここ」 編集長 / 株式会社きてん企画室 代表

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