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SWLABとデザイン | つながりつながる連続講座 | Vol.1

「つながりつながる連続講座」はSOCIAL WORKERS LAB(以下、SWLAB)が主催する全4回の連続講座です。SWLABの活動で生まれてきたつながりが、これからへとつながることで「つながりつながる関係」をつくりたいと考えています。第1回目のゲストはSWLABのアートディレクション、デザインを手がけている田中悠介さんに、SWLABディレクターの今津新之助がお話を伺います。

田中 悠介(たなか ゆうすけ)
designと 代表 / デザイナー

1985年大阪生まれ。大学、大学院で建築を学ぶも、建物を建てるという手法だけでなく、あらゆる領域の課題に対してニュートラルな視点を持って解決できるようになりたいと思い、デザイナーになることを決意。数社のデザイン事務所を経て、2016年に「designと」を設立。デザインの分野にしばられず、さまざまな領域の課題に取り組む。SWLABにおいては、プロジェクト全体のアートディレクション、デザインを担当。

デザインとは何か?関係性をつくること

今津:こんにちは。SWLABディレクターの今津です。今日の講座は40人くらいが視聴していますね。半分が学生、もう半分が社会人という感じです。ありがとうございます。「つながりつながる連続講座」の第1回は田中さんと「SWLABとデザイン」をテーマにお話をしていきます。

田中:デザイナーの田中悠介です。今日はよろしくお願いします。ぼくはふだん「designと」という屋号で活動しています。「designと」はデザインの分野にこだわらず、さまざまな領域の課題に取り組んでいます。「デザインとヒト」「デザインとモノ」「デザインとコト」の関係性をつないでいくことで課題の解決を目指すデザイン事務所です。

田中:みなさんはデザインに対して、どのようなイメージをおもちですか。「お洒落なもの」「かっこいいもの」といったイメージでしょうか?

今津:そういうイメージのひとは多いと思います。

田中:「お洒落に」「かっこよく」などもデザインの役割のひとつですが、それだけが目的ではありません。デザインとは「関係性をつくること」だとぼくは考えています。例えば、商品やサービスとその受け手がいたとき、その間にどんな関係性をつくることができるかが大事だと思っています。

今津:田中さんにはSWLAB立ち上げ当初から関わってもらっています。ぼくは田中さんに、「福祉系大学ではない学生を福祉業界に呼び込みたい」「福祉業界をより良くしていきたい」という想いを伝えました。その想いに応えてデザインで表現してくれているので、紹介をお願いします。

田中:今津さんが熱く語ってくれたことはよくおぼえています。笑 そのお話を聞いて、ぼくが軸とした考え方は「福祉のリブランディング」です。奇抜なデザインで注目を集めて「福祉に来てください!!」とアピールするのではなく、福祉に対する既存の印象がネガティブだとしたら、それを変えていきたいし、福祉業界全体がよりよくなってほしい。そんな想いでSWLABのロゴをつくりました。

ロゴをつくる意味とは?みんなのための旗印

田中:SWLABのロゴは福祉業界で働くひとをイメージしています。ぼくがこれまでに出会った福祉業界のひとたちは、ひととの接し方に角がなくて柔軟な印象です。けれど、柔軟なだけではなく、信念や熱い想いもあります。だから、SWLABのロゴは、角はまるまっているけど端はまるまらずにシュッとした文字で、その特徴を表現しました。福祉の仕事の純粋さをあらわすために、色は日本の伝統色から晴天の澄んだ空のような天色を採用しました。

今津:SWLABのロゴについては、社会福祉法人ゆうゆうの大原さんと3人で話したこともありますね。その時のログもnoteに掲載しています。

今津:以前に「ロゴは旗印だ」と話してくれて、その話がとても興味深く感じました。そのあたりの考えを聞かせてもらえますか?

田中:そうですね。ロゴは旗印のような役割を果たすものだと考えています。集団や組織や企業がどこを目指しているのか。どの方向に進んでいきたいのか。ロゴやコンセプトは、それをわかりやすくみんなで共有するツールでもあると思います。

例えば、ロゴが「洗練されていてかっこよく」というイメージでつくられていたとしましょう。そういうイメージも大事ですが、その企業が世の中に伝えたいメッセージや方向性と一致していることがもっとも大切です。ロゴのイメージと実際の事業が一致していないと、受け手が混乱してしまいます。

熱い想いやミッションなどを掲げて活動している福祉系の法人や組織にとって、そういった旗印としての役割は外部に対してだけでなく、内部の人たちの意識の共有にもとても重要になってくると思います。  

SWLABのデザインとは

田中:このチラシは2019年のSWLABのトークイベントのものです。2019年の企画は“やさしい” と“ふつう”がキーワードです。“やさしい” って言葉が登場すると丸ゴシックのフォントが使われがちですが “やさしい” にも“ふつう”にもいろんな捉え方があっていいと考え、固い明朝と柔らかい丸ゴシックを重ね合わせることでそれを表現しました。

2020年の企画は “福祉の周辺”がテーマでした。「これも福祉かもしれない」という気づきを促すことがイベントの狙いだったので、文字が周辺にのびていき、反対側とつながるデザインにしています。福祉と関係ないと思っていたことが実はすごく福祉的だったり、福祉と福祉外の境界を取っ払っていくようなイメージです。

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田中:2021年の企画は ”つながりのデザイン" がテーマ。社会は「つながり=関係性」でできています。「つながりをデザインする」という営みは「福祉的」なのではという考えから、「ふくし」という文字を三次元的につなげて、文字ではなくビジュアル的にとらえてもらうことを狙いました。また、さまざまな大きさのドットで構成することで、福祉が多様な人で成り立っていることも表現しています。

福祉に染みつくイメージを変えたい

今津:田中さんがデザインするときに考えたことやメッセージを聞かせてくれてありがとうございます。これまでのSWLABの歩みを振り返るような気持ちで聞いていました。参加者からチャットでコメントもいただきつつ、もう少しデザインの種明かしをしてもらおうと思います。

田中:こういう機会は少ないので緊張します。笑

今津:「デザインとは関係性をつくること」という話をもう少し教えてください。例えば、ぼくらがメッセージを届けたいのは"福祉に興味のない若者"や"福祉に関心の薄い学生たち”です。そういうひとに「福祉って身近なものだ」と感じてもらい、興味をもってもらいたいです。

田中:今津さんは「どうすれば伝わるのか?」「どうすればこちらを向いてくれるか?」を考えてコミュニケーションをしていると思います。デザイナーの仕事はそれを形に落とし込むこと。今津さんのやっていることもデザインだし、広く考えれば誰もがデザインしているとも言えると思います。

今津:ロゴやイベントのチラシだけがデザインではなくて、コミュニケーションの工夫も広い意味のデザインなんですね。

田中:「福祉って身近なものだ」と感じてもらうために、まずは、福祉という言葉に染みついている「大変そう」とか「3Kの仕事」のようなイメージを変えていくべきだと思いました。そのために"福祉"ではなく"ソーシャルワーカー"という言葉を使うほうが、言葉自体にネガティブなイメージが染みついておらず、届けたい層に届きやすいんじゃないかと考えました。

今津:福祉に詳しいひとから「ソーシャルワーカーは広い言葉だし業界内の理解もある。いまはソーシャルという言葉がさまざまなところで使われているから、若者に響くのではないか?」とヒントをもらいました。それでソーシャルワーカーという言葉を採用しました。SWLABを立ち上げるとき、福祉のイメージを変えるための新しい言葉をつくろうか?という議論もありましたが、社会のために働くひとが増えている時代だからソーシャルワーカーというネーミングでよかったと思います。

田中:SWLABが目指すものを実現するために、よりよい関係をつくるのがぼくの役割だと思っています。最終的には福祉のイメージを変えていくこと。いろんな若者が福祉に関心をもつきっかけをつくること。学生の職業選択のひとつとして、当たり前のように福祉が入ってくるようになること。そういう空気感をつくっていけるといいなと思いながらデザインしています。

今津:田中さんが言っていたように、福祉で働くひとたちは物腰が柔らかいけど凛とした芯があります。その人柄をロゴで表現してもらうことで、説明せずとも感じとってもらいやすくなりました。

田中:こういう機会があれば説明ができるけれど、普段はそういう機会はありません。なので、空気感を感じ取ってもらうことを想定してしてつくっていますし、説明的にならないようにしています。SWLABのロゴを「こういう風に捉えてください」と決めつけるのではなく、捉え方の余白を残しているイメージ。何かを受けとるひと、ただの文字列に見えるひと。それぞれでいいと思います。

情報を詰め込まず余白をつくる理由

今津:田中さんのデザインの余白が好きです。あえて要素をそぎ落とすことで余白をデザインしているのでしょうか?

田中:みなさんはチラシやパンフレットを受け取ったとき、情報量が多すぎて脳が拒否してしまう経験はありませんか?情報をたくさん押し付けられると、読む気をなくさせるものです。どんなひとが、どんな状況でデザインを受け取るのか。その状況を想定して情報量をコントロールするのもデザイナーの役割だと思います。余白とは「関わりしろ」という側面もあると思います。

今津:押し付けがましくならないのがいいなと思っていました。自分と相手の間に最初は余白があって、それぞれの意思で近づくことでつながっていく。田中さんは以前のイベントでも「大事なことを伝えるために、非合理的とも思える余白を大切にする」ということを話してくれました。

今津:SWLABに「ラボ」というワードが入っているのは、多様なひとたちが出会い、学び、実験をして変化していくプロジェクトにしたかったからです。最初からガッチリ決めるのではなく、活動のなかで生まれることも大事にしたい。だから余白が必要でした。

田中:みんな余白を怖れるんですよ。笑 「こうあるべき」とか「正解」があると安心しがちなのは日本の教育が影響していると思います。答案用紙を埋めること、教わったことを暗記すること、教わった通りの正解を記述すること。そういう能力を求められがちです。けど、世の中には正解がわからないこと、正解がいくつもあること、通る道によってそれぞれの正解があります。そういう未確定要素が多い状況をいろんなひとが楽しめるようになってほしいですね。余白で社会はもっと面白くなっていくと思います!

若者と福祉をつなげるためのデザイン

今津:正解のない時代をぼくらはどう生きていくのか。田中さんとの出会いで、福祉の世界にこそデザインが必要だと思うようになりました。

田中:デザインはどの分野にも必要ですが、特に福祉をはじめとした、これまでデザインが及んでいない分野にこそ、デザインが役に立つ場面はたくさんあると思います。デザイナーとして、こんな風に話をする機会は珍しいのですが、SWLABの立ち上げや経緯を振り返るいい機会になりました。SWLABの活動は、これからも広がっていくものだと思います。ぼく自身も軸をブラさないことを意識しながらやっていきたいです。今日はありがとうございました。

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SOCIAL WORKERS LABで知る・学ぶ・考える

私たちSOCIAL WORKERS LABは、ソーシャルワーカーを医療・福祉の世界から、生活にもっと身近なものにひらいていこうと2019年に活動をスタートしました。

正解がない今という時代。私たちはいかに生き、いかに働き、いかに他者や世界と関わっていくのか。同じ時代にいきる者として、その問いを探究し、ともに歩んでいければと思います。


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