見出し画像

祭りのさなか、任意の世界線を吸収・統合する空中サーカス

「パスコードを記憶しているか?」

「金魚すくい、林檎飴、
   綿菓子、綿菓子、ヨーヨー釣り、だろ」

「違う
 金魚すくい、林檎飴、焼きそば、かき氷、
   射的、たこ焼き、林檎飴、
   綿菓子、綿菓子、ヨーヨー釣り」

「そんなに食べられるかなあ」



理想家のための寓話

昔、
ひとりの理想家が天に召された
広場での演説の最中だった

生来熱に浮かされやすいたちだったが、
その夜は聴衆の興奮も相まって
ついにおのれの浮力を制しきれなくなったのだ

とり囲む聴衆の足もとで
彼の両足が地面を離れたことに
はじめは誰も気づかなかった
広場中が彼の言葉に高揚していた
陶酔を増す演説が
最高潮に達した
その時
丸々と太った彼の体は気球のように


ふわりと大きく浮き上がった


気づいた時には遅かった
広場の熱気を吸いこんで
彼はぐんぐんと高度を上げた

屋根より高く
雲より高く
ふわりふわりと昇っていって、
あっと言う間に小さくなった

人々が見上げる高い高い夜空の果てに
彼は消えていったのだ




哲学者からの伝言

生きるべきか死ぬべきか それが問題だ
と言う
そうじゃない
生きていることと死んでいること
それは同時に成り立ちうるのだ

けれどもふつう人は
片方だけに浮力を赦し
もう片方は深海に沈める

オバケはいるかいないかじゃない
オバケはいるし、オバケはいない
それはどちらも本当でありうる
ただし
君が赦せば、の話だ
神が赦せば、じゃない

神にはなにごとも赦す権利はない
残念ながら
これは神に託すことのできない問題なんだ

もちろん科学者にも託せない
科学者の仕事は観測することであり
赦すことではないからだ

赦すか赦さないか それが問題だ
それは君自身の問題だ

もちろん、
赦さないのも君の自由だ



預言交換局の電話

「金魚すくい、林檎飴、焼きそば、かき氷、
   射的、たこ焼き、林檎飴、
   綿菓子、綿菓子、ヨーヨー釣り」

「たしかに承りました
 成功をお祈り申し上げます」




サアいかに扱うべきやこの浮力!
人間の精神の高揚が
うつし世に生じさせるこの浮力!
人を、いや時代を、
生かしもしまた殺しもする恐るべきエネルギー!

どちらのお社のお祭りか
はたまた
何を祈念するお祭りか
そのようなことはわたくしどもには
つゆほども関わりのねえことでございます

浮かれ騒ぎこそわれらの主食
いざ、
今こそお目にかけましょう

死者と生者が盃を交わす世界!
虚構と現実が反転しつづける世界!
善と悪とが仲良く消滅する世界!

それはまるで
理想と現実の空中ブランコ
一歩間違えば万事は奈落の底

そうならないように
皆さんご協力願いますよ
一人一人の寛大で偉大な精神が
不可能を可能にするのです

サアずいぶんとお待たせしました
奇想天外空中サーカスの

はじまり、はじまり!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?