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空と太陽と文法性と語幹子音とあれこれあれこれ

みなさん、明けましておめでとうございます。
Yamayoyamです。
新年早々タイトルもヘッダーもごちゃごちゃですが、お許しを。

日本では寒波がきていると聞きます。日本にお住まい・滞在のみなさん、どうぞ暖かく過ごしてくださいね。
意外や意外、ベルンは年末年始、ちょっと不気味なくらいぬるかったんです。そんなベルンにもちょっと遅れて今週あたりから冬将軍がやってくるみたいです。
日照時間もだいぶ短いこのタイミングで敢えて、太陽に思いを馳せたいと思います。そんなことを思ったきっかけは、例によって、家のゲルマン語学者とドイツ語の「空と太陽」の『文法性』について話したのがきっかけです。家での雑談もこんな感じでマニアックになってしまうことがあります。

ドイツ語で空というか「天空」は、「der Himmel」、太陽は「die Sonne」というんですが、天空が男性、太陽が女性名詞なんです。私の朧げな記憶では、よく月と太陽の文法性が男性と女性だったり女性と男性だったりで真逆なのが文化論的文脈で語られますけれど、今回は天空と太陽です!天空と太陽も、文法性が対になってるんですよね。

ちなみにバルト語でも空はリトアニア語「dangus」古プロシア語「dangus」、 太陽は(リト)「saulė」(ラト)「saule」(古プ)「saule」で、天空が男性、太陽が女性名詞で真逆なんです。ちょっと面白いよね、という程度なんですけれども。話は逸れますが、地面・地球(例えばドイツ語「die Erde」、リトアニア語「žemė」)が女性名詞なのも見逃せない。

これだけ並べ立てておいてナンですが、印欧祖語の段階からして同じ語根に由来してゲルマン語・バルト語で同源語な単語は、実は太陽だけなんです。他の単語ももちろん印欧祖語に遡る古い由来の単語なんですが、例えば本来は「覆い」の意味だったのが「天空」になった「(リト)dangus」「(古プ)dangus」のように、元々違う意味だったけど、意味の変化を経て「天空」や「地面」になった単語が混ざり込んでます。

その点、ドイツ語の「Himmel」の語源は意見が割れていて特に厄介面白いです。そもそもドイツ語「Himmel」は、

古高ドイツ語「himil」
古英語「heofon」
ゴート語「himins」
古スウェーデン語「himin」

とつながりがあって、ゲルマン祖語の「*χemina- / *χemila-(男)」に遡るとされます。
ここまでは比較的すんなり再建できるのですが、ゲルマン祖語の「*χemina- / *χemila-」から更に遡ろうとすると、意見が割れます。一つは、印欧祖語にあった「*ḱem- 覆う」という語根から作られた名詞に由来するという意見。

もう一つはややこしいのですがロマン溢れる意見。

サンスクリット語「áśman- (男)石」
アヴェスタ「asman- (男)石・空」
ギリシャ語「ἄκμων (男)鉄床」
リトアニア語「akmuo (男)石」

などと関連があって、印欧祖語「*h₂eḱ-mon- (男)石」に遡るという考え方。「*h₂eḱ-mon- 石」から派生した「*(h₂)ḱ-mén-」からゲルマン祖語の「*χemina-」が出来上がったと考えます。なんで「石」が「空」を意味するようになったかというと、昔の人たちは、夜空が(恐らくはラピスラズリなどの)石からできていると考えたからなんだそうです。なんと美しい連想でしょうか。
そんな美しい背景のある語源のほうに軍配を上げたくなりますけど、厳密には「*ḱem- 覆う」由来なのか「*h₂eḱ-mon- 石」由来なのかはっきりしません。さて、そのゲルマン祖語の「*χemina- / *χemila-(男)」なんですけど、太陽と対比して語られることがあって、面白い連想だなと思ったのでした。

例えば語幹子音の交代。先ほどザッと見ましたが、

古高ドイツ語「himil
古英語「heofon
ゴート語「himins」
古スウェーデン語「himin

のように、語幹末が「-n-」と「-l-」で交替しています。ゲルマン祖語で、「空」の語形変化は「*χemin- / *χemil-(男)」のように「-n-」と「-l-」で接辞に交替があったと考えられています。

この語幹末の子音の交替、太陽の接辞の「-n/l-」の交替に倣ったからかもしれないと言われます※1。

というのも、「太陽」も語幹子音が「-n/l-」で交替していたのですよ。ゲルマン祖語だけでなく、印欧祖語の段階からすでに「-n/l-」交替のある語形変化をしていたと考えられています。

ドイツ語 Sonne (女)
中期ウェールズ語 huan (男/女)
サンスクリット語 svàr- (súvar-) (中性)
ラテン語  sōl, (gen.) sōlis (男) / フランス語 soleil(男)
ギリシャ語(ホメロス)ἠέλιος (男)
リトアニア語 saulė / ラトビア語 saule / 古プロシア語 saule (女)

ゴート語にいたっては、 sunnō / sauı̈l「太陽」の両方が例証されていますが、「-n/l-」交替の名残りを留めています。だから、同じ「天体」カテゴリーの意味を持つゲルマン祖語の「*χemina- / *χemila- 天空」も同じような語幹子音の交代を導入した、という可能性を提案する研究者がいます(※2)。

それから、太陽と月のように、太陽と天空の文法性も対になったのかも、という発想。

リトアニア語 saulė 「太陽」(女)─ dangus 「空」(男)
ドイツ語 Sonne 「太陽」(女)─ Himmel 「空」(男)

ほうほう。うほうほ。
でも

ギリシャ語(ホメロス)ἠέλιος 「太陽」(男) ─ οὐρανός「天空」(男)
ラテン語  sōl, (gen.) sōlis 「太陽」(男) ─ caelum「天空」(中性)
古教会スラブ語 slъnьce「太陽」(中性)─ nebo 「空」(中性)

だね・・・。ちーん。
遠い日本でも、天照と月読は男女の神ということになってるし、対になる概念の文法性が対になるっていうのはあり得ることだと思います。でも確信をもって証明するのは難しそうですね。太陽が女性名詞になり空が男性名詞になることを説明できる要因が他にナイ!!(汗)となったときに採用される仮説なんだと思います。
ここはゆる~いブログですし、太陽と空のロマンあふれる関係に思いを馳せて終わろうと思います。

今年もこんな調子で迷走しつつ、コトバのあれこれに思いを馳せていきたいと思います。
言葉にからめてゆる~いお咄を披露している当愚ブログ、今年もどうぞよろしくお願いしたします。

それでは、みなさま、次回までご機嫌よう♪

Yamayoyam

※1 Etymologisches Wörterbuch des Althochdeutschen を調べました。https://ewa.saw-leipzig.de/articles/himil/ から閲覧できます。
※2 例えば、 Rudolf Wachter(著)“Das indogermanische Wort für 'Sonne’ ” In: Historische Sprachforschung, vol. 110, 1997, pp. 4 – 20.

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