見出し画像

もう死にそう~ Am Sterben 構文(正しくはAm-progressive 構文デス)

こんにちは、
Yamayoyamです。
みなさん、運動はしてますか?

私は春から秋にかけてよくハイキングに出かけます。
おしゃれも健康も足元から!をモットーに少しでも足腰を鍛えるように心がけています。
どれだけ実行できているかはともかく、心がけてはいます。

ハイキングには、スイスの(義理)家族に連れていってもらうこともしばしばあるのですが、こちらの皆様の健脚っぷりには毎回脱帽です。
まるでアルプス越えの予行演習かのように、20キロでも30キロでも歩きます。
私は10キロで勘弁であります。

さて、そんなテイタラクなのでハイキング中によくゼイゼイしながら「もう死にそう~」になります。
もちろんスイス標準ドイツ語で、

Ich bin am Sterben~~~~~~~~~

と言うように心がけています。いわゆる標準ドイツ語では、
Ich bin daran, zu sterben.
となりますが、死にそうに息が上がっている時には、まどろっこしい。

言語学エッセーですので、今回はこのスイスドイツ語のフレーズについて考えてみたいと思います。

Ich bin am Sterben.

Ich 「私は・が」主格
bin 「~です・である」コピュラ動詞の、一人称単数直説法現在形です
am 「an dem」が合体して約まった形。後述。
Sterben 動詞「sterben 死ぬ」を名詞化したものです。文法性は中性。「死・死ぬこと」

「am」は、「an dem」が合体した形なので、「am Sterben」は構造的には「an+ dem Sterben」です。

ここでの「an」は前置詞で、英語で言う「at」みたいな意味でしょうか。時間や(アタマの中の概念的な空間も含む)空間などの「広がりの中のある時点・地点で、あるいは~に向かって・臨んで」という意味と私は理解しています。合ってるかな・・・?次に続く名詞は与格形(日本語的には「~に」格)をとります。※1

続く「dem Sterben」は、中性の動名詞「das Sterben」の単数与格形。「das, dem」みたいに名詞のアタマに付いて、モノの定・不定を表す短い言葉を冠詞と言います。日本語には無い種類の言葉なのでイメージがイマイチ湧きにくいですが、冠詞が無ければ無いなりに日本語では「アノ」のような指示詞を駆使したり、他の方法でモノの定・不定を表現しています。

「das Sterben」に戻りましょうか。ドイツ語のすべての動詞は「sterben → das Sterben」のように、アタマに冠詞を付けて頭文字を大文字にすることで中性名詞に変換することができるんですけど(便利!)「das Sterben」はまさにソレ。前置詞「an」と組み合わさった「am Sterben」の意味は、「死んでいるところ」。まさに「死にそう」という意味です。スイスドイツ語ではこの「am + 動名詞」を使った現在進行形の表現が盛んに使われます。言語学者は Am-progressive 構文と呼んでいるそうですが、私にとっては Am Sterben 構文。

それに対していわゆる標準ドイツ語の名詞化された動詞(動名詞)はこういう使い方ができないんです。
それで不定詞「zu sterben(死ぬコト)」を使って、「Ich bin daran, zu sterben.」(死ぬコトに臨んでいる=死にそう)という言い方をするのだそうで。

例によって、家庭内フィールドワークを敢行したところ、「das Sterben」のような名詞は、更に目的語と一緒に使えるかも、という可能性が浮上。
例えば、

Das das Abendessen Kochen 「夕飯を調理すること」
Er ist am das Abendessen Kochen. 「彼は夕飯を料理しています。」

家庭内インフォーマント

間に挟まっている「das Abendessen」は、動名詞「Kochen」の対格目的語です。「Ich koche das Abendessen.」(私は夕飯を料理する)のような文章で、kochenがとる対格目的語のことですね。
ウチの家庭内インフォーマントによれば、これらはギリ言える、のだそうです。ホントかいな。

と思っていたら、心強い助っ人を見つけましたよ。

田中泰三(著)『スイスのドイツ語』(クロノス、1985年)という本に最近出会いまして、その77ページに

[中性名詞化された不定詞は](...)目的語や状況語を伴ってさらにひんぱんに使用される

田中泰三(著)『スイスのドイツ語』(クロノス、1985年)
[ ] 内は筆者による補足

とありました・・・!

引いてある例の中に

  • Das d Lüüd Uusmache und… = Das die Leute Ausmachen und …「人々を認識することと・・・」

  • (...) zum is Bett gaa = zum ins Bett gehen「就寝するには」

などあり、定冠詞「das」と不定詞の間に対格目的語とか副詞句が挟まってます。ということは、家庭内インフォーマントの感覚はあながち珍しくなく、

Er ist am das Abendessen Kochen.

て言える人、スイスの田舎に分け入って行けばけっこう居るのかな。

ところが標準ドイツ語では「Das das Abendessen Kochen」とは言えなくて、

Das Kochen des Abendessens 「夕飯の調理」

としなくてはいけません。対格目的語だったのを、属格の修飾語にしないといけないのですね。ドイツ語学校の宿題で、ドイツはベルリン出身の先生によく直されました・・・。こういうところで家庭内インフォーマントのスイス標準ドイツ語文法といわゆる標準ドイツ語文法の違いが出てくるわけですね・・・・。

ここからなんとな~く伺えるのは、インフォーマントのスイスドイツ語と標準ドイツ語で、「das Kochen」タイプの不定詞の名詞化の度合いが違いそう、ということ。

インフォーマントの文法では、名詞化した不定詞は動詞であった頃の「目的語などを取る」という能力がまだ少し残っていて、対格の目的語「das Essen」を取ったりすることができます。動名詞みたいですね。

ところが、標準ドイツ語ではそれができなくて、目的語は属格にして「名詞化された動詞を修飾する」というカタチをとらなくてはならない。動詞だった頃の「目的語などをとる」という性質が完全に失われて、名詞としてすっかり生まれ変わってしまっていると言えるでしょう。動名詞というより、動詞由来の名詞でしょうか。

ちょうど、分詞と動詞由来の形容詞の違いみたいなものでしょうか。英語の時間に learn「学ぶ」の過去分詞 learned が形容詞として使われるときは「ラーニッド」みたいに発音されて「博識な」ていう意味になると習いませんでしたか?「博識な」という形容詞の learned は対格目的語を取りませんが、過去分詞なら「I have learned English literature.」みたいに対格目的語と一緒に使うのが普通です。

ここで、「ich bin am Sterben」構文に話は戻ります。この構文はうちのインフォーマントに限らず、スイスドイツ語で一般的ですが、標準ドイツ語では「ich bin daran, zu sterben」と言わないといけません。
「am Sterben」が「死にそう」の意味でスイスドイツ語で言えるのは、「das Sterben」がまだ時間軸上の広がりを持つイベントという動詞としての特徴を残しているからでないかと思うのですが、どうでしょうか。
スイスドイツ語の名詞化された不定詞は、標準ドイツ語ほどに名詞にすっかり生まれ変わってない、と言えるのではないかと思ったのでした。

う~ん、今回はかなり難しくなってしまった・・・。
次回はもうちょっと軽めにしたいと思います。

Yamayoyam

※1 厄介なのですが、これが「(時空の)広がりの中のある一点に向かって」という動きの方向を意味する場合には、次に続く名詞は対格形をとらないといけません。ドイツ語学習をしたことのあるかたなら、この「意味によって支配する格が変わる」前置詞に泣かされたことがあるんじゃないでしょうか?私は泣いたというか、偏頭痛持ちになりましたよ!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?