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【写真を贈ろうプロジェクト】寄贈先:神奈川県動物愛護センター

「センターに写真を贈ろうプロジェクト」への想い。

令和元年8月1日
文:写真家 inu*maru犬丸美絵

『昭和47年に建設された神奈川県動物保護センターの歴史を写真にのこしてほしい。』

いただいたその言葉が響き、初めてセンターに伺ったのは2016年の1月のおわりでした。犬の殺処分ゼロ達成2年目、猫の殺処分ゼロ達成1年目というタイミングでした。

それまで私が勝手に想像していたセンターのイメージは、かわいそうな犬や猫たちがいる暗い場所。殺され続けた動物たちの念が残る場所。動物たちの気持ちを感じるので、苦しくてずっと行けなかった場所。前日は眠ることも出来ませんでした。​また、殺処分ゼロが二年継続しているので犬たちはそんなにいないだろうと思ってもいました。​

センターの駐車場に車を止めたとき、隣に軽自動車が止まりました。ご高齢のご夫婦が乗っていて、後部座席には見るからに性格のよさそうな大型犬がお座りして笑っていました。「こんなかわいい子、まさか、捨てに来たんじゃないよね?」そう思いつつ、一足先にセンターへ。​獣医師免許を持つ職員さんにお話を伺いながら、全施設と動物たちを撮影させていただきました。動物がいないだろうと思っていたセンターには、当時犬が50頭位、猫が50匹位。100頭近い動物がいました。​

泣いちゃいけない。
撮らないといけない。
きちんと遺さないといけない。

ぎゅっと握りしめたような固い気持ちが、犬や猫たちを撮るにつれどんどんほぐれていきました。(そうでない場所もありましたが)

動物を撮影した後、いよいよ殺処分場へ案内されました。
当時は職員さんとボランティアの方々以外は入れない場所でした。
40年近く、数えきれない動物たちが無念の死を遂げた場所。
​正直、ほんとうに怖くて重い気持ちでした。

まずは操作室の撮影。
動物が大好きで獣医になった職員さんが、意思とは裏腹に、何の罪もないたくさんの犬や猫たちを殺さなければいけない。その人間の重くつらい気持ちがそこにはのこっていました。

その後、処分機のある部屋へ。
覚悟を決めて入ったその場所の空気は驚くほどに澄んでいました。無念の死であるにもかかわらず人間を恨んだりしない、犬や猫たちの潔さや尊さを感じました。

処分機の前で、ある場所を指さして職員さんが言いました。
「あの柵のあるところ(※)、あそこが犬たちが生きた最期の場所なんです。あの場所で犬たちが最後に何を考えていたか、、、そう思うとあそこだけは涙が止まらないんです。」

私も唯一涙が止まらなくなりました。このセンターではもうそういうおもいをする犬や猫はいないけれど、全国にはまだたくさんいる。

それが現実です。
そしてそれは税金で行われているのです。
それも事実です。

(※最後の通路からスリーピングボックスと呼ばれる処分機へ押し出される境目にある柵のこと)​

その後で職員さんが言いました。

「犬たちを見て意外に思ったことがありませんでしたか?」まさにそのとおり。同じ事を感じていました。想像とは全く違って、犬たちはきちんと淡々とそこで生活していました。殺処分されないということは、飼い主さんのお迎えが来るか、センターから直接譲渡されるか、保護団体さんに引き出していただくまではセンターで暮らすことになります。雑居房と呼ばれる大部屋で集団生活をしたり、個室で過ごしたり。集団生活なのでいろいろな問題もあるし、もちろんペットとして暮らしている犬たちに比べればたくさんの制限があるのですが。事故や病気などでケガをしたり亡くなったりする犬も残念ながらゼロではありませんが。​

殺処分ゼロのセンターで生きる犬たちはただただ打ちひしがれ、悲壮感漂うだけの「かわいそうな犬」ではありませんでした。友達が居たり、喧嘩したり。​体調が悪い子もいれば元気な子もいる。落ち込んでる子もいればあっけらからんとしてる子もいる。職員さんたちが可能な限りたくさんの愛情を持ってお世話をしてくださっていて、ほとんどの犬が人間が大好き。​個性豊かなたくさんのいい犬たちが、現実を受け入れそこで生活をしていました。
半日かけての撮影。

最後に犬の個室収容房の撮影をしました。
最後の個室に、駐車場で会った大型犬が居ました。
半日前、車に笑顔で座っていた犬が、檻の中で言葉にできない表情で座っていました。

犬を棄てるということがどういうことなのか。
すべてを教えてくれました。あまりの表情の変化に言葉を失い、放棄理由を伺ってさらに言葉を失いました。
【近所の人が「この犬、人をかんだりする犬種だよね」といったから。】

ただそれだけなのです。
この犬を追って撮りたい。
幸せになるのを見届けたい。
そう想い、センターに通い始めました。

あれから三年半。神奈川県動物保護センターの犬や猫たち、卒業した犬たちを撮り続け、職員さんや、センターにかかわるボランティアの方々にたくさん話を伺いました。

そして、令和元年6月。神奈川県動物保護センターは47年の歴史を閉じ「動物を処分するための施設」から「生かすための施設」へ。
神奈川県動物愛護センターへと生まれ変わりました。
ピカピカの冷暖房完備のとっても立派な施設です。​

人間目線でいうと、「こんなきれいな場所だったら棄てられた犬や猫たちが幸せそう!」そう思うかもしれません。でも犬目線で考えたらどうでしょうか?築40年の陽当たりの悪い古い物件はイヤだけど、空調完備プライバシー重視の個室の新築物件に住めたらパーフェクト!!そう思うでしょうか??​建物が古かろうと新しかろうと、棄てられた犬たちが感じる気持ちに変わりはありません。住環境がいくらよくなっても、職員さんたちがどんなに大切にしてくれても、犬たちの本当のしあわせはセンターにはありません。旧センターの時から、職員さんたちは収容動物たちに名前をつけるようになり、収容頭数の減少と共に散歩の回数も増え、一緒に遊んだり、シャンプーボランティアさんが入ってケアしてくださったり。送風機やハロゲンヒーターで暑さ寒さ対策もされていて。

私が通った三年の間だけでも、犬や猫たちの住環境は改善され、彼らの表情はどんどんと表情が明るくなっていました。でも、家族に迎えられた後の犬たちの笑顔は全く別物です。施設が新しくなってもそのことは変わらないのです。
そして、旧センターの建物と共に消え去ってはならないこと。
長年にわたりたくさんの犬や猫たちを不本意にも殺処分してきた事実。
動物たちの想い。

殺処分するために作られた施設を生かす施設として使えるよう工夫を凝らし、代々の職員さんたちや、たくさんのボランティアの皆さんたちのたゆみない努力の賜物で殺処分ゼロを達成、維持してのいまがあること。

​これからも棄てられる命が減らない限りその努力は続くこと。
犬や猫たちや、関わる人間たちを取り巻く問題はなにも変わっていないのです。

神奈川動物保護センターが変化するこの時期にたまたまご縁いただき、今の私の状態で写真を撮り、関わるいろんな人たちから話を伺えたこと、そして施設自身と犬たちがまっすぐに語りかけてくれたことには、まちがいなく意味があるように感じています。​

神奈川県動物保護センターの施設や犬たちの雄弁な写真を、私の頭や心の中とハードディスクの中だけに眠らせるわけにはいかない。そうおもい、Swimmy One・Wan Projectでプロジェクトを立ち上げることにしました。

​「センターに写真を贈ろうプロジェクト」

旧センターで撮りためた写真の中から、施設の写真たちと説明キャプションを、新センターへ寄贈・常設展示させていただきます。

展示場所の都合により写真で展示できる枚数に限りがあるため、旧センターで暮らしていた犬たちの写真については写真集を作成・寄贈させていただき、写真を展示する資料室でどなたでも手に取ってご覧いただけるようにしたいと思っています。

犬や猫たち動物たちの想い、関わってきた方々の想いが届くように。そしてこの想いをしている動物や人間たちが、日本中にはまだたくさんいることを忘れないように。是非お力を貸していただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。


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プロジェクト詳細についてはSwimmy One・Wan Projectのブログをリンクよりご覧くださいませ。

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