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おそろい【あの日の電車で】

 端の席に腰を下ろし、どのくらい時間が経っただろうか。ふとわたしの目はスマホの画面を離れ、向かいの座席の足元に行った。何も考えていないような頭で、黒いありきたりな靴だなと思っていると、ふと並んでいる四本の足が全く同じ形の黒いパンプスを履いていることに気がついた。まあそんなこともあるかと思ったが、よく見ると4本の足の上に浮き出ている青い血管の模様まで全てが同じなのだった。驚いて目線を上げると、本人達は何も気づいていないようだった。

 ふと目を下にやると、右側の若い女がパンプスには似合わないカーキ色の半ズボンを履いていることに気づいた。目を移すと、隣に座る細身の男性もまた、同じ半ズボンを履いている。そして、全く同じ凹凸を持った不思議な膝小僧が四つ並んでいたのだった。本人たちはかじるようにスマホの画面に夢中で気づいていない。急に声をかけて「あなたたち、全く同じ膝小僧ですよ」と知らせるわけにもいかないのだ。

 細身の男性の手に目を向けると薄い毛の生えた指が紫のスマホをいじっている様子が目に入った。そのまま右を見ると同じ曲がり具合の同じ手をもつ制服を着た高校生の手が、同じ紫の携帯電話の画面の上を必死に動いている。これはおかしいぞと思いつつもさらに右を見ると、50代くらいの女性だろうか。スーツに同じ白いシャツを着ていた。シャツだけではない。肩幅と胸板の厚さも隣の高校生と全く同じで同じタイミングでまるで一緒に息を合わせているかのように呼吸をしているのだった。その女性の首は、普通よりも長く、シワがたくさん寄っていた。そして右に座る老人の首にもまた、同じ数の同じ模様の皺が寄っているのだった。

 これはいよいよ不思議だと思い、首を捻った瞬間、前の座席に座る七人が一斉に携帯から目をあげ、鋭い勢いでこちらを向いた。全員が全く同じ顔だった。


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