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心地よい風の中で

夕映えの西表島で、冬の柔らかな残光が恋人たちのささやきのように降り注いでいた。
白い砂浜には誰の足跡もなく、ウサギとカメはそっと寄り添いながら歩いていた。二人は時折立ち止まり、彩り豊かな貝殻を拾い集めながら、海風に髪をなびかせていた。

ウサギがカメを見つめて、「ここにいると、時間が流れるのを忘れてしまうわね」と囁けば、彼は優しく微笑みながら「本当だね。
ここでは時間がゆっくりと流れている」と、言葉をつないだ。

翌日、二人はカヤックに乗り込み、穏やかな水面をゆっくりと進んでいった。周りにはマングローブの森が広がり、緑が水面に映り込む光景と、時折聞こえる鳥の囀りに彼女は思わず目を閉じ、心の扉を開けた。

やがて、彼女はゆっくりと目を開けた。
「この静けさがとても心地いいわ」と小さく伸びをすると、オールを漕ぎ続ける彼の背中を見ながら、「だって、まるで世界が二人だけのものみたいだもの」と、ポニーテールを優しく風に揺らした。


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