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けして独りじゃない

「海が見たい」という一言で黙り込んでしまったカメは、助手席にウサギを乗せて国道1号線を南に向かった。無言でハンドルを握る彼の横で、ウサギも言葉を失い、道だけが、ただ前に続いていた。

赤レンガ倉庫で車を降りたウサギとカメは、横浜開港資料館前のスクランブル交差点を過ぎ、山下公園へと向かった。今にも泣き出しそうな灰色の景色の中で、二人は寒さに手をポケットに入れたまま歩いていた。

カメの足取りは少しだけ硬く、心なしか揺れているようにも見えた。そんな彼の背中を見ながら、ウサギは静かな足音を残してついて行った。山下公園を右手に歩くと、海の向こうに見えるベイブリッジの扇形が、少しずつ大きく姿を変えていくのが見えた。

山下公園から見たベイブリッジ

カメは海岸線に立ち、長い間遠くを見つめていた。そして、ふと振り返ると、山下公園の緑の中へ足を踏み入れた。ゆっくりとした足取りの彼は、やがて花で作られた横浜スタジアムのオブジェに目を留めた。その繊細な作りに、彼の顔に少し笑みが浮かんだ。

花で作られた横浜スタジアム

しばらく歩いていたカメは、視線を前に移すと、多くの花に囲まれたうさぎを見つけた。カメの小さな笑顔が徐々に大きくなり、彼は一言、「可愛いな」と呟いた。

花の中のうさぎたち

「ちょっと寂しいことがあったんだ。ずっと黙っていてごめん。でも、これを見ていたら心が落ち着いたよ」彼はやっとウサギと目を合わせた。「カメくんにはやっぱり『うさぎ』が必要ね。そんなにすぐに立ち直らなくていいよ。ちゃんと待っているから」ウサギは彼に微笑み、そっとそばに寄り添った。


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