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彼の原稿と花の中の彼女

その日ウサギとカメが訪れた小さな図書館は、時間がゆっくり流れる隠れ家のようだった。花壇には冬の花が健気に色を添え、ブルーのパラソルが静かにその姿を見下ろしていた。

カメは学習席のレースのカーテン越しの柔らかな光の中で思いを原稿に綴っていた。その一筆一筆には彼の静かな情熱が宿っていた。

ウサギはカメが原稿を書いている間、中庭で花壇を眺めていた。彼女の目には一つ一つの花が特別に映り、それぞれが小さな物語を語っているかのようだった。そしてパラソルの下で温かいアールグレイを飲みながら、彼が原稿に集中する姿を思い浮かべていた。

12月の日暮れは早い。
図書館の入口でカメと再会したウサギは、
優しい微笑みを浮かべ、「原稿は進んだかしら?」と聞いた。カメは彼女に感謝の気持ちを込めて「待っていてくれてありがとう。思い通りに書けたよ」と微笑みを返した。

ウサギとカメは手を取り合うと、大通りへと続く静かな道を南へと向かった。静かで穏やかな初冬の星空が、二人を優しく見下ろしていた。

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