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今年の桜も想い出に

その夜、ウサギとカメは空を旅していた。スカイシャトルの窓から見下ろす桜の花は、まるで別世界のように照らされており、ただ静かに流れる光の川のように輝いていた。

「こんなお花見もあるのね。いつもと違う角度から見る桜はどこか不思議な感じがする。見慣れたはずの景色が、まるで異世界のように新鮮に映るわ」ウサギはシャトルの窓を息で曇らせながら、桜の波を目で追っていた。

シャトルから見下ろす夜桜

少し前の夜のこと、「いつもとはちょっと違ったお花見がしたいの」とウサギは紅茶を飲みながら静かに口にした。カメは少し考えてから、「それなら、空中からお花見しよう」と彼女に提案した。その時のカメの冒険心は、今夜の彼の瞳にもまだ宿っていた。

「本当はね、ジェットコースターに乗って、最高時速110kmで桜の中を駆け抜けることも考えたんだ。でも、それだと桜を楽しむ余裕はないと思って、スカイシャトルからのお花見にしたんだ」カメは静かに呟いた。

窓の外を見ていたウサギが、ふとカメを振り返った。「今年は、このお花見がよかったわ。こんな風に二人でお花見をするのは何回目かしら?  私は桜の季節が巡ってくる度に、これまでのお花見を思い出すの」

彼女はカメの瞳を見つめながら続けた。「何時だったかしら。千鳥ヶ淵のライトアップが、歩いている途中で終わってしまったのを覚えてる? 突然真っ暗になって本当に驚いたわ…」

やがて、スカイシャトルはよみうりランドの入園ゲート駅に滑り込んでいった。シャトルを降りて、少し寒さを感じたウサギは、手のひらを丸めて静かに息を吹きかけた。
「温かい紅茶を買ってくるね」と言いながら自販機に向かうカメの背中を、彼女は頷きつつ静かに見送った。

よみうりランドの入園ゲート

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