スリップ図鑑:第1回

皆さま、如何お過ごしでしょうか。

私はコロナ禍にあって、緊急事態宣言に伴う休業期間中に、このnote を始めてみました。しかし5月7日の営業再開以降、公私にわたって数多くの困難に出くわし、一日一日を生き延びるのが精一杯となってしまいました。

そうしてようやく、3か月振りにこちらへ戻ってこられました。気負わずに、投稿のハードルを下げるため、しょうもない記事で再開しようと思います。

題して「スリップ図鑑」。

スリップの認知度が分からないのですが、新刊書店の本に挟まっている「あれ」です。詳細につきましては、下記の本をぜひご覧ください。本が好き、本屋が好き、という方は読みたくなること請け合いです。久禮亮太『スリップの技法』苦楽堂。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784908087073

さて、そのスリップですが基本的に、どの出版社も「同じ」項目を記載しています。ただ、それでもよく見ていると各社の「個性」があることに気づきます。

これから連載形式で、そんなスリップの特色を紹介していきます。

この2~3年で一挙に主流となった「スリップレス」化。個人的には業務上でも、または単なるフェチゆえにも、スリップがなくなると困るのですが、この趨勢には抗えないようです。現時点でスリップは、絶滅危惧種となってしまいました。(一方で、書店員がスリップを自作する潮流もあります。)

スリップは元来、表舞台に出る代物ではありませんし、お客様がじっくりご覧になる機会は少ないでしょう。書店員でさえ、活用している方は一部に限られます。ましてや、じっくり見てあれこれ考えてる人などマイナーの極みかもしれません。

かつて、牛乳瓶の蓋を収集した人が少なからず存在したように、何はともあれ記録して保存しておくのも一興かと。

さて本題。

手始めに大手出版社の標準的なスリップをご紹介。

画像1

こちらは、中央公論新社の文芸単行本(つい最近、廃止の憂き目に)。

ボウズ(=上端から飛び出している半円形)の下方に「注文カード」と記されています。そして「書店名」という文字と下方に大きめの空白。これは、各書店のIDコードに当たる「番線印」というハンコを押す部分です。そうして郵送やFAX、営業担当者に手渡すことで、追加発注することができます。ただ現在ではほぼ使用されず、書店員のメモ欄に生まれ変わって?います。


そして中央部には、出版社名、書名、著者名があります(まぁ、当然なのですが)。そして注目すべきは、「部数」の欄に加えて「年月日」の記入箇所があること。意識して調べると、意外にも日付欄のない方が多数派のようです。

以上のように、シンプルに必要項目のみが記載されています。とくに個性は感じられませんが、これが正に標準的。(パソコン登場以前の)スリップ本来の用途に最も忠実な一例と言えるでしょう。

一方で、ISBNと合わせてバーコードが印字されているという意味では「現代的」なのかもしれません。この起源については、書店員9年目の私にとって未知の領域ですので、ご教示頂けると幸いです。

そして、最下部には価格表示。基本的にこの業界は「本体価格」を表示するのが慣行です。

最後に、全体を眺めてみます。

用紙が白色であり、紙の厚さ(写真では伝わりませんが)も程よく、ボウズは円形で無地。ジャンル表示やアイコン(次回に紹介します)もなく、基本要素のみで成り立っています。

終わりに、比較として新潮社の文芸単行本を挙げてみます。

画像2

一番の特徴は、左上のロゴです。

大量のスリップの束を輪ゴムで括ってからめくっていく時に、かなり有効な「自己主張」をしてくれます。

中央公論新社と比べてみると、日付の欄がありません。そして、番線印の表示が「書店・取次店」となっています。

その違いがなんだ、という話なのですが、この連載ではひたすらそこに焦点を当てていきたいと思います。なぜにここまで、版元ごとに多彩なのか?そんなことに気を取られながら働いております。笑

今回は、以上です。2022年3月14日改稿。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?