ジェインの異なる散歩

(上記の「寅之助の異なる散歩」の続きとなります)


 シシ王大国から戻って二週間後、又近くのあの山に登ることになった。山の中腹まで車で行って、そこから頂上まで一時間ちょっと程。相変わらずジェインは早足だった。
「ジェイン、そんなに急がなくても山は逃げたりしないよ」
「普通に歩いてるだけよ。寅之助が遅いだけじゃない?」

 途中、馬車が止まっていた。「又シシ王大国の?」と寅之助は思う。そして注意しながら近付いて行くと中から人が出てきた。よくみると、
「ウルフ、どうしたんだ」と寅之助。
「皆さん、元気そうで何よりです」
「知り合いなの?」とジェイン。
 寅之助は異世界での出来事をジェインに話した。
「今日は、ジェイン様にお願いの儀があり参上致しました」
「お願いって、いったい?」と寅之助。
「四世陛下はいよいよ危ない状態となられております。メリー様が後を継がれますが、そのメリー様も今重い病にかかっておられます。そこでメリー様が回復されるまでの間、ジェイン様に女王を努めて頂きたいのでございます」
「バカな、あり得ない。危険過ぎる」寅之助は即座に反対した。
「心配はありません。ジェイン様は城で寛いでおられればよいだけです。城では滅多な事は起こりませんが、万一に備えて我らが全力でお守り申し上げます」
「城ってどんな所かしら? ちょっと行ってみたいわね」
「ジェイン、ダメですよ。遊びではないんです。ヘタすれば命にも関わるんです」
「寅之助、君も来るんだから、これ以上の事はないよ」
「オレも? いやダメだって」
「この馬車で行くの?」とジェイン。
「そうです。お乗りください」
 結局、馬車で城に行く事になった。

 途中、寅之助はウルフに聞いた。
「ウルフ、そちらのジェイン様は亡くなられたんだから、継承権はもうない筈だろ」
「いや、陛下ははっきりとは取り消されておりません。ジェイン様の事もまだ未公表です。ですからまだ順位はジェイン様、次にメリー王女様なのです」
「でも、他にも候補はいるんだろ。何でわざわざジェインなんだ?」
「メリー様の妹、リズ王女もおられますが仮にリズ様がなられて、その後メリー様が元気になられた場合、そこで王位争いが起きる可能性もあります。今、隙あらばシシ王家と取って代わろうとする勢力もあるのです。ですから今、内紛になるような事は避けたいのです」
「そちらは大変かも知れないが」寅之助が言ってると、ジェインが、
「何だか、ドラマみたいな話ね」
「ドラマ?」
「演劇と言ったら分かるかしら?」

 馬車は林の出口付近まで来た。城までもうすぐだったがハチが、
「前の方に人が何人かいるぞ」
 かなり暗くなっていてよく見えない。馬車を止めそしてランプも消した。
「ウルフ、どうなってる。大丈夫なのか?」
「どうやら曲者に待ち伏せされてるようですね。でも大丈夫です。こんな時のために合気刀を持って来ました。寅之助殿出番です」
「ええ? オレ?」
「私はここにいてジェイン様をお守りします。寅之助殿存分にどうぞ」
「ええい、話してるヒマもない。ランプを貸せ」
 寅之助は馬車から少し離れて、そしてランプを灯した。木の上から矢を向ける者が二人、放とうとした瞬間、矢は下にそして曲者も落ちた。下にいた三人の曲者も、詰め寄せようとした瞬間、倒れた。
 寅之助が振り向いて馬車に向かおうとした時、
「寅之助、後ろ」とハチ。
 残っていた曲者が剣を振りかざしたが、一寸のところで剣を受けた。曲者は倒れた。
「寅之助、勝負がつくまで油断するな」とハチ。
「始まりの合図はあったのか、終わりの合図はあるのか」
「とりあえず小休止だな」
「全く、何で」寅之助は馬車に戻る。

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