ケンチキ11種の秘伝スパイスに挑む⑥**脱線ハナシとも言い切れない**
Googleで検索していると本来の調べものから逸脱しがちだ。ケンチキレシピと直接は無関係な脱線も少し書き残しておこう。
馴染み深い「ケンタッキーフライドチキン」だが、「ケンタッキー」ってドコ?とか、「フライドチキン」ってドンナ料理?とか知らずに食べている。
そんなこと知らなくても旨ければいいし、美味しくつくれればいいけれど、知っているとヒントになることも。
まずは「ケンタッキー」がドコにあるのか。
ここがケンタッキー州。南部に属する。
リンカーン生誕の地であり、ケンタッキーダービーという歴史ある競馬の開催地としても有名だ。
The Rolling Stones の「Dead Flowers」という曲に次のようなくだりがある。
〝今やおまえはローズピンクのキャデラックの後部座席で
ケンタッキーダービーの予想を立てている
俺は地下室に針とスプーンを持ち込んで
女が苦痛をふっ飛ばしてくれる〟
つまりクラシックレースを楽しむ身分になった昔の女と、地下室でヘロインに溺れている自分との対比をしているわけだ。
そんな歌の例えになるくらい由緒正しいダービーがケンタッキーで行われる。伝統の息づいてる地域なのである。
19世記、ケンタッキーは奴隷州だった。タバコやアサの生産地で、過酷さで知られる綿花のプランテーションは無かったものの、黒人が人口の1/4に及んだそうだ。奴隷市場が存在し、余った奴隷は深南部へと送られていたという。
この州が南部に属することは「フライドチキン」と無関係ではない。というよりも、そもそもこの料理は黒人が口にできる粗末な「南部料理」だったのだから。
当時の鶏肉はほかの肉よりも高級品だった。生産性が低いためだ。それはそうだ。成鶏になるのに4〜5ヶ月も要するのに、あの程度の量の肉しか得られないのだから。
鶏肉が安価になったのは「ブロイラー」という品種が開発されたことが大きい。成鶏サイズになるのに40〜50日しかかからない。それ以前の鶏とは生産性が比較にならない。
またこの50年の品種改良で、ブロイラーの成長率は1日25gから100gへと上がっている。急激に早く成長するように改良されたのだ。
このブロイラーは、アニマルウェルフェアの観点からいろいろな問題を指摘されているのだけれども、それはまた別の機会に。
とにかく鶏肉は高級品だった。ではなぜこの高級食材が黒人奴隷の食卓にのぼることになるのか。
その時代、一般に鶏肉を食べるのは胸肉などの骨の少ない部位だった。それ以外の骨が多い部分はダシを取るのに使うか、捨てていた。
それはひとえにフォークナイフでは食べにくいからだ。考えてみて欲しい。ケンチキのアバラ部分をフォークナイフで食べるシーンを。想像しただけでイライラする。手づかみで食べるのは身分の低いマナーを知らない者のやることだったわけだ。
彼ら奴隷は、捨てる部位を食べざるを得なかったのだ。
グレーター・アパラチアという言葉がある。アメリカ大陸への入植者のなかで、ヴァージニア経由でケンタッキーやテキサスに落ち着いた人たちのことだ。
この集団には多くのスコットランド人が含まれていた。イギリスでは煮るか焼いていた鶏肉の調理方法が、スコットランドでは揚げるのがポピュラーだった。それが黒人奴隷に伝わったとされている。
かくして「フライドチキン」は出来上がる。
「フライドチキン」を南部「ケンタッキー」のソウルフードだと理解していると、ケンチキのビスケットはなぜいわゆるビスケットとは違うのかとか、前回書いた「脱脂粉乳的な白い液体」がおそらくバターミルクなのだろうと想像がつく。
脱線することもヒントになるとつくづく思う。
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