024_二周目

思い返すと、あの日は自分の人生の転機だった。
誰しも一度はそんな経験があると思う。
私にとって、それは丁度一年前。彼女の演奏を聴いた日だ。

あの頃の私は、夢を諦めきれない自分の無力さや、当時の職場に対する不信感、地元の東京に帰りたい寂しさで、暗い毎日を過ごしていた。日が変わるまで働き、自分のためだけに金を消費する毎日は、とても簡単で、とても味気ないものだった。
欲しい物を躊躇無く買うことは出来ても、本当に欲しい物は一向に手に入らなかった。

そんな心境で迎えた友人の結婚式。祝福したい気持ちと裏腹に、足取りはとても重かった。
なんとなく。友人には非常に申し訳ないが、出席を決めた理由は特に無かった。それくらい、何事にも感情が揺れ動かなくなっていたんだ。

だからこそ驚いた。彼女の演奏と、それを聴いた私の反応に。
10年以上の付き合いだけど、所属する劇団のコンサートを観に行くことはあっても、彼女が一人で演奏するのを見たことはほとんどなかった。

かっこいい。そう思った。
大学を卒業して10年近く。私が何度も手段を変えて、挫折しては迂回を繰り返していたその間に、彼女は自分のやると決めたことをやり抜いてきたんだ。どんな日々だったかは想像もつかないし、音楽の良し悪しは尚更わからない。それでも、眼の前で演奏する彼女に、私は勇気を貰えたんだ。
頑張ろう。そう思えた。

あの日がなければ、きっとこうして手を繋ぐ日々は無かったはずだ。東京に戻って、夢に繋がる仕事も出来なかったと思う。知らなかった彼女の素敵な一面達とも出会うことはなかっただろう。自分がこんなふうに笑えることも思い出せなかった。毎朝電話をかけあう幸せを、あの頃の私は知らない。

いつか今の私達も、あの日の私達になるのだろう。思い返せば笑顔になれるような、かけがえのない、ありふれた毎日を、二人で作っていけるだろう。

次の季節が待ち切れない。


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