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前編|中田一会(きてん企画室)×奥山理子(SW/ACディレクター)が語る「コーディネーション新時代」。HAPS OPEN HOUSE オンライントーク。

執筆|北川由依

2011年の設立以降、アーティストとアーティストを支える人達の相談所として、東山に拠点を構えて活動するHAPS。2020年には東九条に「HAPS HOUSE」をオープンし、HAPSがこれまでに行ってきた相談事業を拡張させ、アートと共生社会に関する相談事業「Social Work / Art Conference」(SW/AC)を開始しました。

「HAPS HOUSE」は2021年4月で、開設から丸1年が経ちました。しかし、コロナ禍で気軽に足を運んでいただくことが難しい状況が続きます。そこで、スペースの一部を一時的に配信スタジオとして使える空間に整え、3月下旬、「HAPS OPEN HOUSE」を開催!SW/ACのお披露目と、HAPSの新たな実践について発信する時間を設けました。

ゲストは、株式会社きてん企画室代表でウェブマガジン「こここ」編集長の中田一会さんです。SW/ACのディレクターであり、本イベントのモデレーターを務める奥山理子の元同僚でもあります。

実は中田さん、SW/ACに相談者の一人として相談にお越しいただいたこともあるのです!イベントでは、中田さんのコーディネーション事例をご紹介しながら、”新時代”に求められる繋ぎ役について対話をしていきました。

イベントや報告書にも!?中田さんが現場で実践されているコーディネーション

中田さんは出版社、デザイン企業などで広報PR職を務めた後、2010年より公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京にて、アートプロジェクトに伴走する中間支援職として働いていました。奥山もアーツカウンシル東京に所属していた時期があり、二人で同じプロジェクトを担当していたこともありました。

中田:今回、奥山さんから「コーディネーション新時代」のテーマをもらった際、「広報は『図書館司書』のような役割ですよ」とかつて先輩から言われた言葉を思い出しました。組織や団体に問い合わせがあった場合、「求められていることに合わせて人や情報をご紹介することが広報の役割である」と教えてもらったんですね。
振り返ってみると、様々なものをコーディネーションしていて。人や組織だけではなく、目に見えない「場所性」や「時代性」「協働可能性」「技術」「関心」「課題」なども踏まえて、コーディネーションしてきたことがポイントとして見えてきました。

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そう前置きした後、中田さんはアーツカウンシル東京で実践していたコーディネーション事例を紹介してくれました。

事例①テーマ性と場所性に着目した「Artpoint Meeting」

一つ目は、イベントのコーディネーションです。例えば、2017年7月のトークイベント「Artpoint Meeting #02 まちで企む」では、アートプロジェクトに興味を持ってくれるアート業界以外の人を求めて、図書館を中心に市民活動や青年活動の支援を行う複合施設「武蔵野プレイス」で開催しました。

中田:まちづくりなどの市民活動をされている方は、地域活動ともつながるアートプロジェクトに関心を持ってもらいやすいのではないかと仮説を立てました。そこで「武蔵野プレイス」を会場に選び、利用する方に興味を抱いていただけそうなテーマ設定、場所に紐づいた内容を設計しました。
また、トークショーに留まらずお客さん同士が会話する時間を設け、そこにスタッフも加わり、個と個の出会いの場になるようコーディネーションをしています。

また会場には、関連したテーマの本や冊子を選書して配布したり、メールマガジン登録の動線を作ったりして、団体やプロジェクトへの認知を広げていったそうです。

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事例②先生不在!?現場と現場を繋ぐ勉強会「ジムジム会」

次にご紹介いただいたのは、ネットワーク型勉強会「ジムジム会」(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)について。

中田:アートプロジェクトの事務局が安定的にプロジェクトを運営していくためには、ある種の「筋力」を鍛えることが必要です。それはまるで「トレーニングジムのようだ」と、このネーミングになりました。ジムって、日々通って習慣づけたり、利用者同士で声をかけあってモチベーションを維持したりするところがいいと思っていて。事務局にもジムのような場が必要なのではないかと考え、東京アートポイント計画に参加する9つのプロジェクト事務局が集まり、勉強会をしています。
コーディネーションのポイントは、いわゆる「講師」は呼ばないこと。現場と現場の課題やチャレンジのエピソードを繋ぐことで、知恵や経験を共有すること。毎回参加事務局から発表者を出し合い、みんなで話し合っています。

事例③事業成果物がギフトに変身「Words Binder / Box+Letter」

①②は人と機会のコーディネーション事例でしたが、最後は、人と物のコーディネーション事例です。
東京アートポイント計画は、様々な組織・団体と共催プロジェクトを展開する事業です。年度末になると各プロジェクトごとに成果物(冊子)を発行。例年20〜30冊が完成し、関係各所へ発送しているそうです。

中田:段ボールに入れて発送すると中身が見えないので、開封されないこともあったようなんです。それではもったいないなと思い、そこでつくったのが「Words Binder / Box+Letter」です。

中田:透明な箱に報告書をセットにして入れて、1年間の報告や中身のポイントを伝えるレターと共にギフトとして届けました。すると、SNSに「届きました」「今年はこんな内容でした」と投稿して頂けるようになったんです。
それまで知恵や経験を共有しフィードバックをもらいたいと思っても、冊子を送るだけで終わりがちでした。届け方の仕組みを変えることで、コーディネーションがうまくいった事例です。最初につくりはじめてから毎年改善を重ね、現在も続いています。

隣にある専門性を尊重しながら異分野を繋ぐ“水先案内人”


こうして数々のコーディネーションを実践されてきた中田さん。一方、ご自身も誰かにコーディネーションしてもらう機会があると話します。SW/ACは、中田さんが新しい取り組みについて相談したいと思った時、頭に思い浮かんだ場所だったそう。

中田:4月にリリースする福祉と創造性に関する新しいウェブメディアメディアの編集長を務めることになりました(※HAPSトーク後の2021年4月15日、ウェブマガジン「こここ」がオープン)。私自身に福祉の専門性があるわけではないので、立ち上げ準備中に悩むことが多く、福祉の世界の水先案内人と話をしたいと思いました。それで奥山さんに連絡をして、SW/ACのことを知って。2020年11月に「HAPS HOUSE」に相談者としてお伺いしたことが、本イベントに繋がっています。

中田:まず、本当にSW/ACに行ってよかった。「専門性と課題」はどんな現場にも常にセットで存在していて、それを他分野で交換し合う機会は貴重ですし、それぞれの活動がより豊かになると感じました。そのとき相談したのは、ウェブマガジンのコンセプトや名称、対象読者、取材先……など企画全体の概要です。率直な意見を奥山さんに伺いました。メディアのこと以外でもたとえば、アートプロジェクトに関わっていると思いがけずマネジメントワークがケアの領域に近接していることがあります。あるいは、アーティストのリサーチテーマが福祉分野に及んでいることも昨今では少なくありません。その時、「隣にある専門性」の戸を叩いて教えを乞うたり、協力をお願いする方法って意外とわからないですよね。SW/ACはこれから多くの人に求められていくだろうなと感じました。

奥山:当時私達も、もともとあるHAPSの相談事業との違いはどこだろうと手探りで進んでいる最中。中田さんが悩みを相談してくれてすごく嬉しかったですし、中田さんのように分野を横断したモヤモヤを抱えた時に必要とされる場所にSW/ACがなれなたらと具体的なイメージを描くことができました。

奥山:そもそもみなさん、相談窓口と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?キャリア、家族関係、疾患を抱えているなど利用シーンは様々あると思いますが、おそらく緊急性と秘密性のある相談を想像されるのではないかと思います。ベールに包まれていますよね。では、SW/ACはどのような相談窓口を目指すのか、少しご紹介させていただきます。

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奥山:「SW」はソーシャルワークの略称です。ソーシャルワークとは、人がより自分らしく暮らせるように、個人の問題にも関与し、個人の問題を問題にしている社会課題や社会構造に働きかけていくこと。つまり、ソーシャルワーカーは人間のポテンシャルが十分に発揮される社会になるよう、個人と社会と環境に働きかけていく存在です。
一方、HAPSは、文化芸術のポテンシャルを発揮できる環境を作ることを目指して、アーティスト支援をしてきました。HAPSが取り組んできたことと、ソーシャルワークが目指すものって実はすごく近しいですよね。

奥山:でも、違うところもあって。ソーシャルワークが、人間性の向上を目指す原理原則に基づく一方、アーティストはあえて毒を持ったりセンセーショナルなことを起こしながら、果敢に取り組んでいきます。
だからSW/ACの立ち位置としては、個人に帰属する目標に向けた実行支援ではなく、福祉とアートの中間地点に立ちながら物事を繋ぎ、相談者の願いを実現するお手伝いをすることだとイメージして相談業務をしてきました。従来HAPSが取り組んできたアート領域に留まらず、福祉や教育などにも広げながら、分野を飛び越えてサポートしたり話を聞いたりすることで、社会がより豊かになっていくといいなと。

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奥山:すると相談を受けて数回会話のキャッチボールをするだけでは、やりたいことの実現に繋がらないんですね。プロジェクトに伴走する必要があるとわかってきて、まさに相談事業改めコーディネーション業務に突入したと実感しています。
前置きが長くなりましたが、実際動く中で湧いてきた気になることや疑問を、中田さんとお話しできたらと思っています。(後編に続く)


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