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後編|中田一会(きてん企画室)×奥山理子(SW/ACディレクター)が語る「コーディネーション新時代」。HAPS OPEN HOUSE オンライントーク。

執筆|北川由依

新時代のチームづくりにも発揮されるコーディネーション能力

二人の現在地を共有したところで、いよいよ中田さんと奥山で「コーディネーション新時代」について話をしていきます。

奥山:中田さんがSW/ACを訪れたのは、新しいウェブメディアの立ち上げに関してでしたよね。

中田:「今、福祉と創造性に関わるウェブメディアを始めることに、こんな風な意義を感じているのだけれど、必要としてもらえるでしょうか」とか「言葉づかいや考え方、コンセプトのところで違和感はないでしょうか」とか、ざっくりとした感触を確かめていくような時間をいただきました。

奥山:相談を受けて、テニスの壁打ち相手になれた気分で。私が知っている情報や感じていることを正直にお伝えさせていただきました。それまでどちらかというと、ブリッジする役割かもしくは手取り足取り教えながらプロジェクトに伴走する形が多かったので、相談相手になれたことは新鮮でした。
その後、中田さんはウェブマガジンの編集を専門にする以外の人の力が必要と感じて、コーディネーションの動きができる方をメンバーに加えたとお聞きしました。

中田:そうですね。福祉領域に詳しいウェブ編集者はもちろん大切でまずメンバーに入ってもらいました。その上で、奥山さんと話をしてコーディネーターも欠かせないと思って。福祉と表現に関わる現場でコーディネーションを専門にしてきた方にも編集部に参加してもらいました。なぜかというと、異なる分野を横断して取材をしていくときこそ、出会い方から別れ方まで丁寧なコーディネーションが必要だと考えたんです。もちろん、編集者とは取材を通してコーディネーションをする専門職ですが、違う手法で人とつながり、関係性をケアする人がいるとチーム全体でより柔らかい動きがとりやすくなるはずです。

奥山:コーディネーションの大切さに中田さんが気づいたのは、大きそうですね。

中田:今までのメディアは、どうしても情報を「速く」「広く」届けることが重視されがちだったと思います。もちろん広く読まれる記事であることは大切です。ただ、人の尊厳や命にかかわる福祉領域の情報を扱う以上、あまり勢いよく「前に前に」とは進まない、丁寧な言葉遣いや柔らかさを大切にできるチームにしたいと思ったんです。

奥山:仕事としてただ目標を達成できればいいわけではなく、どういう気持ちで仕事をするかに目を向け始めたってことでしょうか?

中田:そうですね。まずはちゃんと悩まないといけないと思ったんですよね。そもそも複数の分野を横断することが本当にいいことなんだろうかということから疑わないといけない。領域が領域として守られていることも大切なのに、外から入って他の領域を繋ぐことはときに暴力的な所作にもなりかねません。その一方で、異なる分野の実践を引き合わせることで、双方にとって新しい可能性が見えるのではという仮説もあったので、どうすれば丁寧にできるかを適切に悩める体制が必要でした。
あと、チームの力関係そのものを更新したいと思って、それこそメンバーをコーディネーションしてみました。

奥山:と言うと?

中田:ジャンケンポンでずっと「あいこ」が出つづけるようなメンバー構成にしたんです。年齢、職能、経歴、環境、気になる社会課題、キャラクター、得意なクリエイティブ領域など……。「持ち物」のバランスに思いを馳せました。何か一点において誰かが強くならないことが大事なんです。専門性がきれいに分かれていると「◎◎の話はAさんに任せよう」となっちゃうんですが、微妙にかぶるところとズレるところがあると、お互いの意見が無視できない。ずっと「あいこ」が出続けてみんなで悩めるんじゃないかなって。編集長である私は、みんなで悩める状況を担保した上で、最後は決定して責任を取るのが仕事ですね。実際、当の私が毎日ずーっと悩んでいるんですが……。

奥山:なるほど。チームづくりにもコーディネーションの視点が活かされているんですね。

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うまくいけばいくほど、透明になる!?

ここまで様々なコーディネーション事例が出てきましたが、改めて気づくのはコーディネーションの繊細さや大変さです。イベントでも、話題は自然とそちらに移っていきました。

奥山:コーディネーションを仕事にしている私が言うのもなんですが、コーディネーターをいれるって手間のかかる選択であることが、同時に浮かび上がってきますね。
日々の業務の中でも、分野や専門性の異なる方と一つのプロジェクトを進めていく難しさを痛感しています。決定事項と期日を伝えてやりましょうって進め方ではなく、一つひとつ説明して形にしていくのはすごく時間がかかることです。

中田:時間はかかりますよね。大変だと思います。そうしたら、例えば「ジムジム会」みたいなものをSW/ACでもやってみたらどうでしょうか?SW/ACが全てのプロジェクトや人を介するポイントになったままだと、いずれ量に限界がくるというか、奥山さん達が抱えきれなくなりそうです。だから「ジムジム会」のように参加者の人たちの悩みが主役になるようなテーマを設けて、互助会的な場そのものを仕立てるのは、コーディネーション方法の一つとしてありかなと私は思います。
「ジムジム会」は開催レポートを公開しているので、一見「開いて」いるように見えるのですが、実は適切に「閉じる」ところがポイントです。あくまで互助会だから、センシティブな話は外部には出さずに安心できる場にする。だから、すごくリアルなコンプレックスや悩みまで出てきて、その中で共感が生まれて解決に繋がったりする。日常生活でも悩みって、専門書を開かずとも誰かと話しているうちに解決したりしますよね。どんな現場にもそういう力があるからやってみるのもいいかもしれません。

奥山:なるほど。中田さんがどう設計しているか、外からは見えないので興味深いです。

中田:ジムジム会では誰がどんなテーマで発表するかということ、そのときどんな雰囲気でやってもらうかということばかり考えています。テーマや発表団体は、プロジェクトのそばにいるプログラムオフィサー(※アーツカウンシル東京において事業に伴走するスタッフ)だからこそ理解している「小さな兆し」を手がかりに決めています。と、言ってもたぶん表から見るとそういう「設計」はよくわからないと思います。アーツカウンシル東京時代に教わったのですが、「コーディネーションはうまくいけばいくほど、透明になる」んだそうです。
そうなると今度は、「コーディネーションって本当に必要なの? 何してるの?」と思われてしまうので、情報発信などを通して何を考えているかとか、仕組みとか、実際の成果を明らかにしていくようなことも大切かなと思います。

奥山:そうですね。まさに今、SW/ACで起こっていることや考えていることをいかに共有していくか。様々な領域に横断するプロジェクトが増えてきたからこそ、従来型のコーディネーションから脱皮しなければならない状況にあります。
「ジムジム会」のような場を私たちもつくりたいですし、様々な現場で生まれていくといいなと思います。
まだまだ話し足りず、「コーディネーション新時代」のテーマに少し触れたくらいで終わってしまうのが残念ですが、時間になりましたのでこの辺りで終了とさせていただきます。
中田さん、本日はありがとうございました!

<プロフィール>

中田一会(なかた・かずえ)

株式会社きてん企画室代表、ウェブマガジン「こここ」編集長。 1984年東京都生まれ、武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。出版社、デザイン企業などで広報PR職を勤めた後、2010年より公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京のプログラムオフィサー兼コミュニケーションデザイン担当に。アートプロジェクトに伴走する中間支援職として働く。2018年に独立し、個人事務所「きてん企画室」を設立。2021年4月、福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」(運営:マガジンハウス)を創刊。

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奥山理子(おくやま・りこ)

1986年、京都生まれ。2012年みずのき美術館の立ち上げに携わり、以降キュレーターとして企画運営を担う。アーツカウンシル東京「TURN」コーディネーター(2015-2018)、東京藝術大学特任研究員(2018)を経て、2019年よりHAPSの「文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業」に参画し、相談事業「Social Work / Art Conference」ディレクターに就任。

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