衣服が変えた認知症生活
医療ソーシャルワーカーをしていると、多くの認知症患者さんに出逢います。
主症状は肺炎や骨折などでも、認知症を伴う方もたくさんいらっしゃいます。
そんな中、入院中の認知症患者さんへの対応でいつも問題にされるのが、看護の大変さ。
不穏になる、せん妄が現れる、ケアが大変・・・さまざまな声を聞きます。
色々なエピソードがある認知症の方の入院生活ですが、実は私には、医療ソーシャルワーカーとして担当させてもらった患者さんで、印象に残った方がいます。
衣服が変えた認知症生活
その方は、家族と疎遠で認知症も進んでおり、入院当初はせん妄が出現するなど、病棟でも注目されていた方でした。
時間が経っても、頻回なナースーコール、離棟(病棟から脱出する)などがあり、ひどい時は鎮静剤を打っていたこともあります。
全身状態から、自宅復帰は難しいとされていました。私は、今後の方向性はともかく、この方とお話できるようになることを目標に関わりをはじめました。
その方は一人で長年スナックのママをしていたらしく、そこで出会ったお客さんの話などをよくしてくれました。
もちろん認知症の症状により話したことを忘れることもありましたが、私としてもその話が面白く、よく病室に聞きに行っていました。
自宅に服を取りにいくことに
その折、この方は失禁が多く、病衣では間に合わないことも増えてきました。
そこで、自宅に本人の服を取りに行くことにしました。
主治医のOKをもらい、リハスタッフと本人とお出かけです。
自宅はきれいにされていました。病気になり認知症になるまで、きちんと生活されていた様子がよく伝わってきます。
本人と持っていく服を選び、ミッションは完了です。
もともと派手なものが好きなようで、柄が入ったものもありました。
自分の服を着ると・・・
病棟と話し合い、その日から本人の服を着てもらうことにしました。
そして次の日には、少し派手な装いをした本人がいました。
そこから少し時間が経って、ふと気づいたことがありました。
それは、本人の不穏症状がガクッと減ったことと、笑顔が増えたような気がすることです。
これは病棟スタッフも気づいていました。
この方の場合、あらゆる認知症ケアの中で、自分の服を着ることが一番効果があったようです。
原因はおそらく
個人的に興味深い現象だったので、理由を考えてみました。サンプルがN=1なので分析にはなりませんが、おそらく自分の服を着たことで、生活感を取り戻したからだと考察しました。
私たちも、お気に入りの服を着ると気分が変わると思います。それと道理は全く同じかもしれません。
BPSDへのケア
認知症には、いわゆる中核症状と、精神症状や行動障害からなる周辺症状(BPSD)があります。
一般に、中核症状を治すのは難しいですが、BPSDはケアの方法によって緩和できると言われています。
今回の方の件では、本人の服がトリガーとなって、BPSDが緩和されたのかもしれません。
まとめ〜ソーシャルワーカーの視点〜
”認知症だから困った人”とくくるのは、楽だし簡単かもしれません。
しかし、ひょんなことからBPSDが緩和され、本人も周りも暮らしやすくなることがあります。
ソーシャルワーカーは、個人と環境とその接点を見つめる専門職です。これは認知症の分野でも大切なところです。
今回の事例の方から私もたくさん学ばせてもらい、当時から6年経った今でも変わらない大切な事例となっています。
今後もみなさんとたくさん学んでいきたいと思っています。
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