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【コント小説】禁じ手。ボケ老人をネタにする。『キヨノさん』

注意)ボケ老人とはもう古い言い方で、現在では認知症高齢者と言われる。ボケ老人などと今頃言うと、理解が足りないと思われるだろう。しかし、この「ボケ」という言葉は大昔から使われてきた言葉であり、現在でもお笑いの世界では、「ボケ」は「ツッコミ」と並び重要な概念である。私は老人ホームで介護職員として働いているので、認知症高齢者と毎日接する中で、本物の「ボケ」を目の当たりにしている。今回はそんな「ボケ」を元にコントにしてみた。事実通りのこともあれば、誇張したところもある。なお、「キヨノさん」のモデルはいるが、誇張があるので事実とは異なることを断っておきたい。
 
 
 
 
TAKE1
 
 
場所は特別養護老人ホームの食堂。ここはフロアと呼ばれ利用者が日中を過ごす場所である。
ある午前、介護職員の私が見守りをしていると、キヨノさんが立ち上がった。この方は、認知症が重いだけで、歩くこともでき、自分で食事もできるのだが、認知症ゆえに失敗が多いため見守りが必要なのだ。
私は立ち上がったキヨノさんに話しかけた。
 
 
「どうしました?」
「お便所」
「おトイレですか?こちらへどうぞ」
 
 
私はキヨノさんとトイレに入った。トイレの中には便器と、手洗いの流しがある。
 
 
「こっちかね」
と言ってキヨノさんはパンツを下げる。
「そっちは手洗い場ですよ。便器はこっちです」
 
 
便器と手洗いの流しの区別がつかないところが私には理解できない。
 
 
 
 
TAKE2
 
 
トイレでおしっこをして、自分の席に戻り五分もしない頃、キヨノさんはまた立ち上がった。
 
 
「キヨノさんどうしました?」
「おしっこ」
 
 
この方は五分間隔でトイレに行くこともあるので、全部付き合っていたら他の仕事が出来ない。他にも多くのお年寄りのお世話をしなければならないのだ。
 
 
「さっき、行ったばかりですよ、このイスに座っていてください。また後で行きましょう」
「漏れそう」
「う~ん、じゃあ行きましょうか」
 
 
トイレに入る。
 
 
「こっちかね?」
「そっちは流しですよ。こっちが便器ですよ」
 
 
 
 
TAKE3
 
 
五分もしないうちにまたキヨノさんが立ち上がった。
 
 
「おしっこ」
「さっき行きましたよ。このイスに座っていてください。ほら、テレビで面白いことをやっていますよ」
「そうかね?」
「そうです。だから、このイスにどうぞ」
 
 
キヨノさんはパンツを下げてイスに座った。
 
 
「いやいやいや、キヨノさん。パンツを穿いてください。ここはトイレじゃありません。食堂ですよ」
「そうかね」
 
 
 
 
TAKE4
 
 
食事時間。
 
 
キヨノさんは隣の席の方に、おかずをあげようとしている。私の働く施設では栄養士が献立を作っており、誰かが他の利用者におかずをあげることなど想定していない。もうちょっと詳しく言うと、食形態というものがあり、例えば、米飯とお粥というように、それぞれの利用者の状態にあった食事が提供される。もし、米飯の方がお粥の方に米飯をあげた場合、事故という扱いになる。なぜなら、お粥を食べる理由は米飯を上手く呑み込めないからであり、つまり米飯を食べるということは命の危険につながりかねないのだ。
 
 
「キヨノさん、それはキヨノさんのご飯ですよ。ご自分で食べてください」
 
 
TAKE5
 
 
食事時間。
 
 
「キヨノさん。隣の方にあげないでください。それはウンコですよ」
 
 
 
 
TAKE6
 
 
「キヨノさん、隣の人とキスをしないでください。昼間ですよ」
 
 
 
 
TAKE7
 
 
「キヨノさん。いくら、息子さんが送って来るからって、Tバックを穿いて踊らないでください。若すぎますよ。紙パンツを穿いてください」
 
 
 
 
TAKE8
 
 
「キヨノさん。僕をエロい目で見ないでください。無駄ですよ」
 
 
 
 
TAKE9
 
 
「キヨノさん。お医者さんごっこはやめてください。幼稚園児じゃありませんよ。つきあってる僕も恥ずかしいですから」
 
 
 
 
TAKE10
 
 
「キヨノさん。クレヨンしんちゃんのマネはやめてください。年甲斐がないですよ」
 
 
 
 
TAKE11
 
 
「キヨノさん。バク転をしないでください。危険ですよ」
 
 
 
ここでやめる。ふざけすぎたようだ。
 
 
 
 
*書いてみての感想。
おもしろがって書いた中には真面目に考えると、深刻な問題を孕んでいることに気づいた。例えば、老人はTバックを穿いてはいけないのか?など真面目に考えれば深い問題がある。しかし、それを真面目に考えている姿も滑稽と言えば滑稽にも思う。まあ、お笑いは、世の中の歪みとかを現す役割もあるのでこんな作品もありかと思う。

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