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【冒険ファンタジー長編小説】『地下世界シャンバラ』7

 二、ラパタ国にて

 ラパタ国は辺境の城塞都市で、石を積んでできた壁に囲まれている。壁の外には田畑があり普段農民は外で田畑を耕している。非常時は全員壁の中に逃げ込む。人口は一万人ほどだ。壁は正方形の囲いで、四隅に櫓が立っている。東西南北に向いている四辺の中央にはそれぞれ門がある。東門が正門だ。東側は開かれた田園地帯で、南側を川が西から東に流れている。南門から出ると、田畑がありその川がある。川の南側は山が迫っている。城の北側は森の深い山が迫っていて東西に稜線が延びている。城の西側はかなり狭く、道が川に沿って西へ延びており、その彼方にシャンバラへの入り口があると言われている。壁の内側には町があり、真ん中より北西側に寄った場所に王城が建っている。この城は二階建てで壁と柱が近郊で採れた石を積んで建てられていて、屋根や二階の床は木造である。屋根は青い瓦で葺かれてある。
 一階にある玉座の間にて黄色い武道着を着たライと青い武道着を着たレンが王の前に跪いていた。
 西を背にし、東を向いた玉座に着いているラパタ国王は言った。
おもてを上げよ」
ライとレンは王のほうに顔を向けた。
「そのほうらが、闘林寺で震空波を使える僧だな」
レンは答えた。
「はっ、震空波を使えるのは私のみで、この者は護衛のための伴にございます」
王は自分の横に控えている白いワンピースを着た十八歳の王女ルミカに訊いた。
「ルミカよ。この者たちと共にシャンバラを目指すと言うのだな?」
ルミカは言った。
「はい、お父様。わたしはシャンバラで真実を手に入れたいのです。シャンバラから招きの声が聞こえます」
王は頷いた。
「うむ。わしは当初は反対していたが、今ではおまえの真実への熱意を応援したくなっているから不思議だ。で、軍勢はどれほどつけたらいいのだ?僧よ」
レンは答えた。
「私たちふたりでルミカ姫を守っていきます」
王は驚いた。
「ふたりだけで?バカな。無謀だ。山には山賊がいるのだぞ」
レンは言った。
「山道は狭く、宿営地を作る場所もないほどだと聞きました。泊めてくれる民家もほとんどないと聞いております。基本的に野宿です。軍勢はかえって邪魔になります。少数のほうが機動力があり逃げるのに便利です。姫には庶民の娘に変装していただきます」
王は困った。
「うむ。ルミカはどう思う?」
「わたしは剃髪し僧服を着て行きたいです。僧としてシャンバラに行きたいのです。レンとやら、それではいけませんか?」
レンは答えた。
「何とかなるかと思います」
王は驚いた。
「なんと剃髪?まだ、十代の乙女がか?」
「お父様、真実を手に入れるには出家しなければなりません」
「むうぅ、そこまで覚悟ができているのか」
王は別の心配をした。
「だが、若い男ふたりに、若い女ひとりでの旅とはなにか間違いがあっては・・・」
レンは言った。
「わたしたちは僧侶でございます。僧侶には不邪淫ふじゃいんかいという戒めがございます」
ルミカが言った。
「わたしはこの者たちを信じます」
王は言った。
「だが、わしはまだ信じられん。信じられんのはふたりの人格などではなく、単純にふたりの武力だ。五十人の山賊が現れたらどう戦う?」
レンは言った。
「ではこの城の広場で五十人の兵を相手に我々の武術を披露いたします」
「ほう、それはいい。五十対二の乱舞か。しかし、乱舞ならいいがリンチになりはしないか?」
レンは笑顔で言った。
「とにかくやってご覧に入れましょう」
 城壁内の広場で五十人の木刀を持った兵士に対して丸腰のレンとライが戦うこととなった。
 実際、やってみると、レンとライは無傷で五十人を倒してしまった。
 王は言った。
「なるほど、強い」
レンとライは王の前に跪いた。
「これならば、安心してそのほうらに我が娘の命を預けられる。ルミカよ、シャンバラへの旅、認めるぞ。では、出発式を盛大に開こう」
レンは言った。
「いや、出発式などとんでもない。ルミカ姫はこっそり城を出るのです。しかも、国民には病気で寝込んだことにするのです。姫の安全を考えるのならばそうすべきです」
「うむ、もっともな意見だ。ではどうだ。近い者だけでひっそりとした夕餉の会を開くのは?わしと王妃と王子のコタリとルミカと大臣とそのほうら僧ふたり、それだけの秘密の宴だ」
 こうしてひっそりとした夕餉の会が開かれた。
背の低い頬肉の垂れた初老の男、ゲンク大臣が言った。
「ルミカ姫の門出の記念と安全を祈って乾杯!」
「乾杯」
王と王妃と大臣は酒を飲み、成人していない他の者、ルミカ姫、コタリ王子、レン、ライはラパタ国の法律では酒を飲めないので、代わりにジュースを飲んだ。
 ルミカの弟、十四歳のコタリ王子は言った。
「お姉様は、シャンバラで悟りを開きたいのですか?」
ルミカは答えた。
「もちろん、そのために行くのです」
「帰ってきますか?」
「帰ってくるわよ。でも長くなるかもしれないわね」
王は言った。
「わしが死ぬ前には帰って来てほしいな」
王妃も言った。
「そうよ、二度とルミカの顔を見られないなんてあまりに寂しいもの」
ルミカは答えた。
「安心してください。五年以内には帰ってきます」
王は言った。
「五年か・・・長いな」
「悟りを開き次第帰ってきます」
ルミカがそう言うと、コタリ王子が言った。
「悟りを開けなかったら?」
「五年経ったら開けなくても帰ってきます」
王は言った。
「レン殿、帰りも警備してくれるのだね?」
「もちろんです。王様」
ライは黙っていた。王様の前で緊張している、というか、綺麗な言葉を喋れない自分の田舎臭さに辟易へきえきしていた。
 ルミカ姫はその後、髪を落として剃髪した。
 ルミカ姫はこっそりと翌朝、日の出前に出発することとなった。
 その情報を密かにマール国の将軍アガドに伝えた者がいた。夕餉の会の参加者か、それを給仕していた何者かなどが疑われるが表には出ず、ラパタ王やルミカ、レンとライも知らずに一夜を明かした。


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